10、「……私の事、抱いていいんですよ……?」
前回、レノンの寝込みにルナがやってきました。いったい何が始まるのか……
ーーーーーーーーーー
10、「……私の事、抱いていいんですよ……?」
ルナの声に目を覚ました俺は、いつの間にかルナに至近距離で顔を覗き込まれていた。
「……どうした?」
「……私の事、抱いていいんですよ……?」
「……え?」
ルナの不安そうな目は、今にも零れそうな涙を蓄えていた。何がそんなに不安で、抱いてもいいだなんて口走っているのか、理解出来ずに頭は混乱する。
「ちょっと、何言ってんのさ、どうした」
「もしかして、レノン様は性欲無いんですか……?」
「いや……いや、無くはないけど、て何言わせるんだ」
不意な質問に、体を起こした俺は少し赤面。しかし次の言葉に驚愕して、何も言えなくなった。
「私のようなネコ科獣人は、人間様に抱かれるためにいるんです。妊娠しないので、好きにしていいんですよ……?」
ネコ科獣人は、人間の性欲をぶつける為の生き物。
色んなファンタジーの作品を読んできたつもりだったが、俺が知る限りそんな話はなかった。もしかしたら紳士用同人にはあるのかもしれないが、ルナのセリフから現実味を感じられない。
「沢山助けて頂いて、このままじゃ御恩を返しきれません。レノン様に抱いて頂かないと、私ここにいる意味が無いんです……」
ついにルナの瞳から大粒の涙が零れた。
「お二人の事、好きなんです。だから私ここにいたいんです。せめてレノン様にはその対価として」
「いらない」
「私の初めてを……、え……?」
恥ずかしながら、俺はキレてしまった。
久々にこんなに頭に来た。俺は思うままルナに感情をぶつけてしまう。
「見たらわかる。ルナはそんなこと望んでない。震えてるし耳も倒れてる。怖いんでしょ。俺もそんなこと望んでない。身体を買うなんてことしたくない」
「でも……でも……! それ以外に方法を知らないんです!」
ルナは静かに泣き始めた。歯を食いしばって嗚咽が漏れないように、拳を固く握って体が震えないように、息を殺して涙を流す。
「何も教わらなかった……。私が上げられるもの、あとはこの身体しかないんです……」
「ルナ」
俺は優しく、泣きじゃくるルナを抱き寄せた。
「俺は一緒にいるために、対価を支払う必要はないと思うんだ。仮に必要なら、前にも言ったけど、俺たちの研究を手伝って欲しい。俺の方こそ、ルナと一緒にいたいんだ。だから対価なんていらないよ」
「そんなこと言われても……グスン、不安なんです……!」
俺の肩で嗚咽を漏らしながら、ルナは泣いた。力強く抱き締め返してくれる腕から、強い不安が伝わってくる。
「不安かぁ」
確かに、俺にもその不安は理解出来た。今でこそ恩師の柏田先生に平気で冗談を言ったり出来る仲になった、と俺は思っているが、研究室に入りたての頃は躍起になっていた。
なにか力になれないか、俺に出来ることはないか。ずっと探していた気がする。
今思えば、それは先生に気に入られたい……いや、見捨てられたくなかったからなのかもしれない。そんな昔の自分と、ルナが重なった。
俺はあの時、先生になんて言って欲しかったのか。
「俺とヒナタさんはこの土地初めてだから、すごく心細かったんだ」
あの時の俺に、目の前のルナに、伝えたいことは。
「ルナに出会えて、こうして仲間になってくれて、俺凄く嬉しいんだよ」
俺はそう伝えながら、ルナの頭を撫でた。少しずつルナの力が抜けていくのを感じる。
「ルナが思うよりルナは俺たちの役に立ってる。頑張ってる姿とか、美味しそうに食べてる姿とか、笑顔を見ると元気が出る。だから一緒にいて欲しい。俺らの方からお願いするよ」
ルナは顔を埋めたまま答えなかった。
「……ヒナタさんもそう思うよね」
俺は不意に、ネグラの奥に問いかける。案の定、すぐ返事が返ってきた。
「なーんだ、バレてましたか、テヘヘ」
ヒナタが仕切りの影から出てきた。さすがに驚いたようで、ルナが振り向く。
「い、いつから……!?」
「割と最初からかな。……私の可愛いルナちゃんが起きてどっかいっちゃうから、寂しくて」
ヒナタはニッコリと答えた。
こういう時、ヒナタは本当に頼りになる。俺の意思を汲んで息を合わせてくれるのは、本当にありがたい。
いや、よく考えたらそれ以外にも頼ってばかりでした。ヒナタさんいないと俺とっくに土に還りまくってクビになってました。
「あ! そうですよね」
突然ルナが何かに気づいて立ち上がった。
「レノン様にはヒナタさんがいますもんね……私なんかお役に立てないですよね……」
「「……!」」
刹那、俺とヒナタの顔がボッと火を吹く。
「待て待て待て! 色々違う!」
「勘違いしてるよルナちゃん!」
キョトンとするルナ。
「お二人は出来てるんじゃないんですか……?」
「俺らそういう関係じゃないから!」
「そう! ただの仕事仲間! ですよね!?」
「そうただの同僚!」
「ヤだなぁもぉ、何言い出すのよぉアハハ」
「アハハ」
本当にそういう関係ではないのに、何故か二人してぎこちなく笑い合うはめに。
「……怪しいです」
(だよねわかる!)
ルナの言葉に、思わず心の中で激しく同意。
「とにかく、役に立たなきゃとか気にしなくていいから」
俺は無理やり話題を戻す。ヒナタもきっと迷惑しているに違いない。
「や、やってみます……」
ルナは渋々頷いてくれた。納得はしていないようだが、これから少しずつ懐柔していけばいい。
「じゃあ……」
不意にヒナタが笑ったような気がした。
「今日は3人で一緒に寝よー!」
ヒナタはそう言いながら、ルナを巻き込んで俺の寝床に飛び込んでくる。
「ちょ!?!?」
結果、俺たち三人はルナを挟んで川の字になって寝た。ただし俺は久々に誰かの温もりを背中に感じ、妙に緊張、覚醒してしまい、一睡も出来なかった。
翌日からもルナはいつも通り、よく働いてくれた。しかし昨日までの妙な距離感、緊張されている感じが薄れ、ルナの自然な笑顔を見る機会が増えた。
ヒナタもそう感じているようで、今にも増してルナを溺愛。そして俺に対してたまにドヤ顔をするようになった。
本人曰く、「ルナちゃんは私のなので」だそうだ。
(まぁまた妙な展開になるより、そっちの方が安心するけどさ)
そう思うほどに、俺はあの夜ルナに対してブチ切れた事が恥ずかしい。もしかしたらヒナタはそこまで見越してドヤッて来るのかもしれない。
そしてまた数日後。何だかんだと、この世界に来て36日目だ。装備も整い、食料事情もある程度安定、且つ飽きてきたので、そろそろ次のステップへ。
「というわけで、近くの街に行きたいと思います」
次回「食うもん無ぇわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます