8、「思いっきり叫べ!」
前回、絶体絶命のルナちゃんを見事に2人は救い出しました。レノンに何か作戦があるようですが、果たしてジャコーキを追い払うことはできるのか。
今回短いです。
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8、「思いっきり叫べ!」
「戦わない……ですか?」
「そう。まぁ、失敗していざとなったらお願い」
「わ、わかりました」
状況が読めていないからだろうが、ルナも指示を飲んでくれた。
草や木をかき分け、枯葉を踏み進む音はどんどん大きく、近づいてくるのがわかる。
小さな体のジャコーキでも、流石に戦ったことのない相手とやり合うのはゴメンだ。極力戦わずに逃げ切る、或いは、奴らに人間を敵に回してはいけないと思わせられるほどの強力な一手を。
さっき俺は、走りながらジャコーキ対策を練っていた。今までのヤツらの動き、コミュニケーション、武器、身体的特徴、それらを思い出し、統合して出した答えを、作戦に変換して賭けに出る。
「ルナ、ヒナタさんの後ろに隠れてて?」
「は、はい」
ジャコーキの群れが姿を現す。槍を向けて詰め寄ってくる。それぞれが定位置に着いたのを確認し、俺は思いっきり息を吸って、思いっきり、叫んだ。
「わーー!!! お前らなんて怖くもなんともねぇよ!!! うわーー!!!」
「!?」
一瞬ジャコーキ達がたじろいだ。
(やっぱりだ、行ける!)
内心ガッツポーズをしながら、俺は歩きながら叫び続ける。
「お前らよりもな! もっと怖い人知ってるんだ! その人に比べたらな! お前ら束になってもな! へのへの河童なんだよ!!!」
思った通り、ジャコーキは俺の雄叫びにビビった様子で、槍を構えながら後退りをしている。攻撃を仕掛ける動作をして脅かそうとしてくるが、分かってしまえばなんともない。
俺たちが襲われた時と、ルナが襲われていた時、ジャコーキは決定的な攻撃を仕掛けてきていなかった。距離を詰める時もゆっくりで、こちらの様子をしっかり確認しながらの動作だった。
拠点襲撃時は寝起きだったこともあり、慌ててしまいちゃんと観察出来なかったが、至近距離で武器を見ると、刃の部分はおそらく大した切れ味を持っていないことが分かる。武器も威勢もハッタリなのだ。
そして耳が大きく、目が小さい。これは聴覚に頼った生活をしているということだ。小さな音でも聞き分け、罠に何かがかかればすぐに勘づくのだろうが、逆にいきなり大きな音を出されると敏感に反応してしまうはず。
案の定、俺は牧羊犬のように、ジャコーキを一箇所に集めることに成功した。
「いつでも撃てます」
ヒナタがスリングをブンブンと振り回しながら言う。
目標はジャコーキを集めた場所に生えた木の、生い茂った葉だ。その木はゴムノキのような立派な気根が伸びていて、葉に衝撃を与えると弾け、酸をぶちまける性質がある。
俺は手を挙げて、ヒナタに用意を伝える。そして最後に叫んだ。
「人間を敵に回したら痛い目合うぞ!!!」
叫び終えると同時に、挙げた手を勢いよく下げる。その合図で、ヒナタは大量の小石をジャコーキの頭上に撃った。たちまち大量の葉が弾け、ジャコーキ達と俺に酸の雨を振らせる。
「イアチ! イウスタ!」
「アァウ! イアチアゲム!」
ジャコーキが痛そうに叫んでじたばたしているのを確認し、俺は今度はヒナタとルナに叫んだ。
「思いっきり叫べ!」
「うるぁああ!!! クソ雑魚チビ鬼!!! どっか行けえええ!!!」
「わ、わーー!!! えと、うわああ!!!!」
「鬼は外!!! 福は内!!! 豆じゃなくて酢酸だけど!!!」
「豆食べたーーい!!!! あと巻き寿司食べたーーい!!」
「ま、まきずしってなんですかあーー!」
「美味しい食べ物だよぉーー!!!」
「まともなもの食べさせろー!!!」
「同じくですうう!!!」
「酒が飲みてぇぇぇ……!!!」
「オレギン! イアヲク!」
ジャコーキ達は、俺たちが思い思いに叫んでいる間に、どこかへ逃げて行った。俺たちがイガイガする喉を抑えてゼェハァ言っている頃には、もう森はいつもの静寂に包まれた、平和な森に戻っていた。
腰が抜けたのか、パタッとルナが尻もちを着く。
「た、助かった……」
「ルナちゃーん!」
「わっ!」
ドサッ!と音がして見てみると、ヒナタがルナに飛びついたようで、ルナを下敷きに倒れていた。
「よかった……! 無事でよかった……!」
「ヒ、ヒナタ……さん……ぐるじぃでず……」
「あごめんごめんごめん!」
「アハハハ! ヒナタさんがトドメ刺そうとしたー」
「縁起でもないこと言わないでください!」
「あの! あ、危ない所を助けて下さり、ありがとうございました……」
土下座したルナのこの行動は予想済みである。ワアアと慌てるヒナタを横目に、俺は笑って息をついた。
「さ、帰ろ」
次回「じゃあ、お願い聞いて貰おうかな」
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