7、「うぎゃああ!!!」
前回、気味の悪いチビ集団にレノン達は襲われました。独自の言語を持っていましたね。
そして2人はルナちゃんを助けに行くようです。死亡フラグですかね。
題名回収最速です。
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7、「うぎゃああ!!!」
「うぎゃああ!!!」
ルナはまた罠にかかり、いつもの悲鳴を上げる。いい加減足元に注意して歩かなきゃとは思うものの、寝起きでは仕方ない、と自分で言い訳。
そんな言い訳が、上下逆さまの状態でできる自分の余裕っぷりに呆れる。
昨日の朝も同じような罠にかかったことを思い出す。これもあの人間が仕掛けた罠だろうか。申し訳の立たないことを立て続けにしてしまった。
片足を吊られて宙ぶらりん、上下反転した景色の中に、ルナはなにか違和感を覚えた。
「……」
微かに香るジャコーキの臭いに気づいた。ルナはここでやっと覚醒する。
(今度は本当にジャコーキの罠!?)
耳を澄ますと、周囲に数十体の動く音を聞き取ることが出来る。しかもこちらに向かってきている。
「逃げなきゃ……」
ルナは思いっきり腹筋に力を入れ、上半身を持ち上げる。足首に巻きついたロープを、自慢の爪で切れさえすれば、開放される。
「うぐぐ……」
手はロープに届かなかった。力尽きて一度逆さ吊りに戻る。
いつもよりも力が入らない。ここの所ろくな物を食べてないからだろう。
(んにゃぁ……これホントにやばいかも……)
と思った頃には遅かった。既に間近に迫ったジャコーキが、槍の切っ先を向けてきている。
「!? シャー!」
精一杯の威嚇も虚しく、ジャコーキは怯む様子はない。
(今ここでロープを切れたとしても、着地した時に殺られる……)
あっという間に詰んでしまった。焦ることも通り越して、生存本能がこれでもかと体中でザワめく。
次々にアリのように集まってくるジャコーキ。様子を伺うように、槍でツンツンとちょっかいを出してくる。
「スキル伺ってる……! 小賢しいぞ!」
ルナは逆さ吊りのまま、爪を剥き出しにした両腕を振り回した。
「この! あっち行って!」
「ニジュウジ、ウソロク?」
「イアナソロク、ウレサセラクスト」
「アッタカワ」
「なんて言ってるの!」
ツンツン攻撃を辞めないジャコーキに、ルナも防護攻撃の手を緩めることが出来ない。
(これキツいかも……)
歯を食いしばるが、頭に血が溜まってクラクラしてきた。本気で死ぬのかもしれない、と悟った、その時。
「あっち行けぇ! ザコオニ!」
遠くで声がした、気がした。
一方の俺とヒナタは、丁度ジャコーキの群れを見つけた。そしてその中心に、幸か不幸か吊り下げられたルナを発見。
刹那、ヒナタがブチ切れたのを空気越しに俺は感じた。
「うあぁぁあっち行けぇ!! ザコオニ!!」
ヒナタはそう叫びながらスリング弾を放った。スリングに込められた複数の小さめの石、もとい弾丸のほぼ全てが、ルナを取り囲むジャコーキに命中したようだ。
(ショットガン作っちゃってたわ……てかルナちゃんに当たらなくてよかった)
俺の物作り知識とヒナタの身体能力組み合わせたら核爆弾だって夢じゃない……。そんな気がしてしまった。
「あの、ザコオニじゃなくてジャコーキね」
「なんでもいいです!」
「はいスイマセン」
(剣幕と言いスリングの腕と言い、この子凄いわ。ヒナタさんだけは敵に回さないようにしよう)
と思いつつ、頼もしい限りではある。
いきなりの飛び道具の登場に、ジャコーキも流石に驚いたらしい。唖然とする個体も居れば、弾丸が当たって気絶した仲間を茂みの中に運び、ついでに自分も姿を晦ます個体もいた。
「よし、効果ありますね! これ!」
「ヨカッタヨカッタ」
俺たちは急いでルナの元に駆け寄る。ヒナタは即席の槍を振り回してジャコーキを追いやり、俺はもう1つのナイフで罠を解体、ルナを回収した。
「ルナちゃん、大丈夫!? ルナ!」
声をかけるが返事はない。息はしている。気絶してしまったようだ。
一瞬、逆さのままバタバタしたことで頭の血管切れたか? と思ったが、今の俺たちにはどうしようもない。
今はとにかく。
「逃げるが先だ!」
俺はルナを抱えたまま元来た方向へ走り出した。ヒナタも牽制しながら後に着いてくる。
「ルナちゃんは!?」
「気絶してる! 息はあるからとりあえず大丈夫!」
「オッケーです!」
俺はある場所に向かって走った。
そして言うまでもなく、途中でルナの運搬をヒナタに代わってもらった。
(おかしいなぁ、筋トレしたんだけどなぁ……)
と、俺は走りながら不思議に思う。
休み休み、数十分走った。
まったく、山の中は走りにくい。俺の力では切り得ない蜘蛛の糸に顔面が引っかかったり、踏んだ木が朽ちていて下半身諸共地面に沈んだり。なんてトラブルは俺だけに起きる。山慣れしてれば回避できる代物なのか。
やっと目的の場所である山頂に到着し、地面にルナを下ろした。
「息はしてるね、脈は……よかった正常だ」
最悪のケースは免れたようだ。俺は一安心して尻もちを着く。
「獣人の脈拍分かるんですか?」
「だいたいの脈拍速度は体の大きさに比例する。ルナちゃんの体格なら人間のそれを当てはめて差し支えないはずだよ」
「……」
ルナを抱えて走ったせいか、ヒナタの頭からモクモクと黒い煙が上がっていた。
「とにかくルナちゃんは無事らしい。間に合ってよかったね」
「……あ、ですね! でもこれからどうするんですか……?」
「うむ、俺に考えがあるのだよ……」
俺は作戦をヒナタに伝えた。ヒナタは驚きつつも、俺を信頼してくれているらしく、文句を言うことなく聞き入ってくれた。
「……分かりました……わぁなんか緊張します」
「いや俺も、なんなら俺の方が」
「うぅん……」
話しているうちに、ルナが目を覚ましたようだ。
「んにゃぁ……」
「ルナちゃん!? 大丈夫!?」
「……あれ……ってええ!? な、ええ!?!?」
いつの間にか罠から脱していることに驚いたのか、人間に囲まれて看病を受けている状況に驚いたのか、とにかくルナは心底驚いている。
「人間様……ど、どうして!?」
「今朝私達もあのクソザコオニに襲われたの。それでルナちゃんが心配になって、来てみた」
「恨み辛みだな、おい」
「くそざこおに……ですか?」
「ジャコーキの事だよ」
「あぁ……なるほどです……。でもなんで私なんかお助けに……」
「そんなの! 助けるのに理由なんかいらないよ!」
ヒナタは泣きそうな声でそう言った。
(いいこと言う)と俺は関心。
「でも、でも、人間様が獣人なんて……」
「どんな教育されてるか知らないけどね!」
感情的になったヒナタは、ルナの肩をガシッと掴んだ。
「人間とか獣人とか私たちは知らない! 他の人は差別するのかもしれないけど、私たちはそんな事しない! 私はルナちゃんと友達になりたいの! だから助けたの!」
少しの優しい静寂が辺りを満たす。
ヒナタは気持ちが抑えきれなくなり涙を流し、ルナは訳が分からない、と言った顔で、ヒナタの真っ直ぐな目を見ながら涙を流した。
「とにかく無事でよかった……」
ルナを優しく抱きしめるヒナタ。
横で涙を堪えながら、俺は微笑む。ここに来る前、トレーニングジムで話したことを思い出していた。
(俺も、ヒナタさんが相棒でよかったよ)
と、感動的な時間にもっと酔いしれたかったが、この世界の悪役は演出的な空気を読む力がないらしい。
ルナの耳がピクっと反応した。その音は俺やヒナタにも聞こえた。
「来たな、ジャコーキ」
「早いですね、クソ雑魚のくせに」
ルナを放し、弾を込めたスリングをぶん回すヒナタ。
「わ、私も戦います」
意を決してくれたルナだが。
「すごく助かるけど、戦わずに終わらせるよ」
次回「思いっきり叫べ!」
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