5、「人間……知ってるのと違う……」
前回、美味しい肉にありつけました。キャンプとか行くとインフラのありがたみを感じますよね。
……感じますよね??
今回新キャラ登場します。可愛いからお気に入りです。
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5、「人間……知ってるのと違う……」
朝一でワクワクしながら、獣道に仕掛けた吊り上げ罠を確認しに行く。
割と太い獣道に仕掛けたため、成功率は高いはず……と二人して楽しみに歩いていると、罠を目前にして知らない声の悲鳴を聞くことになった。
「うぎゃああ!!!」
「!?」
思いもよらない悲鳴に俺たちは顔を見合わせ、急いで罠を仕掛けた場所に走る。そこで罠にかかって吊るされていたのは、人間だった。
否、正確には獣人だ。猫のような耳としっぽを持った、ボロボロの服を纏ったガリガリのケモ娘。自力で罠を外そうと、もがいている。
獣人は俺たちに気が付き、とても脅えた様子で威嚇をしてきた。
「シャー! シャー!」
「ごめんね! 今下ろすから!」
俺は急いで罠を解き、ロープをゆっくり緩めて獣人を地面に下ろす。
栄養状態が悪そうな、ガリガリに痩せた体。ショートボブの髪や側頭部の大きな猫耳、長く細いシッポは黒く、土埃で汚れボサボサになっている。よく見ると鼻は猫寄りの形で、瞳孔も縦に長い。
パニックを起こしているのか、降ろす間もバタバタと暴れていた。
「私たちの言葉、通じるんでしょうか……?」
「わからん……」
「……! 人間様でしたか!」
威嚇していた獣人が、急に畏まった。
「え?」
「し、失礼しました! 罠をダメにしてしまって申し訳ありません……」
か細い声で震えながら、獣人はついに土下座をする。
「いやいや待って! 俺らの方がごめんだよ」
「とんでもありません! てっきりジャコーキの罠かと……どうかお許しください……」
ヒナタが首を傾げてきた。俺もなぜそんなに怯えられているのか分からない。同じように首を傾げて見せる。
するとヒナタは、獣人のすぐ横に腰を下ろした。
「大丈夫だよ、顔上げて?」
「は、はい……」
「お名前は?」
「……ルナと申します」
「ルナちゃん、可愛いお名前ね」
「痛み入ります……」
ルナはまた頭を深々と垂れた。肩が震えシッポを巻き、耳を極度に後ろに倒している。猫のボディランゲージが通用するなら、相当の恐怖反応だ。
俺はヒナタにアイコンタクトを送った。
「実は俺たち、この土地に来たばっかりなんだ。だからなんで怯えてるのか分からないけど……、何もしないから大丈夫だよ。罠で怖い思いさせてごめんね、怪我はしてない?」
俺は極力優しい口調でルナに声をかけた。
「……はい、大丈夫です……。私ドジなもので、罠によくかかってしまって……本当にすみませんでした……」
ルナの声に、ほんの少し落ち着きが戻った気がする。
「良かった、俺たちは全然構わないけど、ルナちゃんは怪我しないように気をつけてね。それじゃ、俺たちは戻ろうか」
「はい!」
ヒナタも対応を察したようで、立ち上がってルナにバイバイと手を振る。これ以上怖い思いをさせないように、俺たちはその場から立ち去った。
「獣人、いるんですね……」
「俺も正直驚いた……」
気丈に振舞ったが、正直かなり驚いた。ヒナタも同じなようで、興奮のせいか声が軽く震えている。
「実際に会ってみると驚くもんだね、獣人って創作じゃないんだな……」
「にしても、あんなに怯えますかね?」
「この世界の人間は、現世よりも怖いのかもなぁ」
「人間には極力会いたくないです……」
「だね。でも言葉が通じて良かった」
そんな事を話しながら拠点に戻る俺たちを、ルナは目を丸くして見ていた。
「人間……知ってるのと違う……」
結局その日は何も捕獲できず。また柿らしき果物と昨日の残りのネズミモドキの肉を食べる。
いつもの作業やいつもの調査、探索などを終え、俺たちはいつも通り就寝。
「ルナちゃん、また会えますかね」
間仕切りの向こうでヒナタが言う。
「悪いことしちゃったな。今度獲物取れたらお裾分けしてあげよ」
「……はい……!」
俺たちはそう会話をして、眠りについた。
翌日。
俺たちはいつも通り調査に出かける。
「今日は山頂まで行くんですか?」
「うん、多分酸の木が群生してると思うんだ」
酸の木とは、ゴムノキのような立派な気根が伸びていて、葉に衝撃を与えると弾け、酸をぶちまける木である。
以前小高い丘の上で数本見つけていた。
「なんで山頂に群生してるんですか?」
「んー、多肉植物は基本水が少ない地域に生息してる。この辺りで水が少ないとなると、岩の上とか山の頂上になるのかな、て思って」
この説明で理解出来たのか分からないが、ヒナタは頷いた。
「それで、酸の木を見つけてどうするんですか?」
「少し採取しようと思って」
「酸を?」
「そう、酸を」
そう言って、俺はヒナタに持ってもらっている土瓶を指さした。
「これに入れて持って帰るつもりですか!?」
「そだよー」
「大丈夫なんでしょうか……」
俺はヒナタの心配を他所に、拠点から南側にある斜面を登る。急な坂ではないが、足場が悪いと転んでしまうので慎重に。
いつの間にかヒナタに追い越され、山頂に着く頃には俺はバテ切ってしまった。
「うあぁ、もう無理、疲れたー」
膝に手を付いた俺の体は、汗腺が壊れたように汗を噴射する。
「情けないですねー、折角のイケメン面が台無しですよー」
イタズラに笑いながらヒナタが煽ってくる。俺はそれに対し、フッと鼻で笑って返した。
「華奢で可愛い面して、実はそんなゴリマッチョだったとはね……勿体ない」
次の瞬間、気がつくと俺は地面に倒れていた。
「誰がゴリマッチョですってー?」
どうやらヒナタに払い倒されたようだ。上から抑えられ、俺の顔面は土にめり込んでいく。
「スミマセン撤回します絞め殺さないでください……」
脇腹を軽く蹴られた。
「御託並べてないで、やりますよ」
「はーいやりまーす」
思った通り、山頂には数十本もの酸の木が生えていた。高さは10m程度、緑色の半透明な葉が光を透かし、新緑のように輝いて綺麗だ。
「綺麗だけど、上に石投げたら酸の滝を浴びることになるんだよねー」
「綺麗な花にはトゲがある、ですねー」
「とりあえず、採取しよう」
背丈が届く高さの葉の下に土瓶を置き、少し離れて枝でつつく。すると葉の一部が弾け、中に蓄えられていた薄黄色の液体が滴る。
試しに拠点の近くで拾った石灰岩に、酸の汁をつけてみる。
特に変化は起こらなかった。
「今のは?」
ヒナタが問う。
「石灰岩に塩酸をかけるとシュワシュワするんだ、でもそうならないからそんなに強い酸ではなさそう」
「よく思いつきますね……」
次に指で触れてみる。なんともない。肌が少しヌルヌルしたような気がする。
ペロッと舐めてみる。
「えちょっと、大丈夫なんですか……?」
「うん、これお酢だね」
酸の強さといい、味と言い香りと言い、酸の木の葉の内部の液体の主成分は酢酸で間違いないようだ。
土瓶いっぱいになるまで酢酸を回収し、それを持って拠点まで戻る。
そして昨日食べたネズミモドキの肉を、酢酸の中に入れた。お酢に漬けると肉が柔らかくなると聞いた事を思い出し、実験をしてみることにしたのだ。
「美味しくなるといいですね」
「そうだね」
「出来たらルナちゃんにお裾分けしません?」
「いいね、探しに行かなきゃな」
「はい!」
翌朝、俺はヒナタの声で目を覚ました。
「タテユキさん! タテユキさん!!」
「んー……、無理まだ寝る」
「タテユキさ……起きて! 起きてください!」
「うーん……別に……早い予定ないよ……」
「もぉ……、レノン!! 起きろ!!」
「!?」
怒鳴られて俺は目を覚ました。ヒナタは焦ったような、必死な顔で訴えかけてくる。
何が起きたって言うんだ。
拠点の外に目をやると、そこには知らない人影が立っていた。
恐ろしく長い槍を持って。
次回「ショットガンね、……作れるか!」
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