九層から零層へ 

 気が付いた時、私はベッドの中にいた。目が痛い。拭ってみれば手の甲が湿る。理由は勿論分かっている。のしかかった現実の重みに耐え切れず、私はまた涙を流した。


 あの理想郷について覚えているのは曖昧なものだけ。


 帰って来たことは分かる。そして自分が何処かにいたことも知っている。だけどもうあの光景は掠れていて、


 カラフルな少女の顔さえ、朧げだ。


 代わりにあるのはもっとはっきりとした、現実の苦痛。あと何時間後かの朝への恐怖。そしてこれからの不安。


 帰らなきゃよかった──とは言わない。


 でも辛い。自殺したいけど、本当に自殺したい程じゃないくらいに。


 だからせめて幸せな夢でも見れるよう願って、アラームをかけて、布団を被って、私は瞼を閉じる。


 そうすれば、声だけでも聞こえる気がした。


 そういえば、あの世界の名前は何だったか。


 そうだ、あの世界は──


「ようこそ、ワンダーアンダーグラウンドへ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワンダーアンダーグラウンド 咲井ひろ @sakui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ