第7節

 ノアが夢中むちゅうで昔話をしていると上からマーヤが降りてくる。


「んにゃー、おはよ…」

「マーヤ、人前でだらしないぞー」

「え?……」


 マーヤはうつむいているシャルにカッとなる。

 すると、リリアが立ち上がりマーヤの前で深く頭を下げる。


「…この度はまことに申し訳ございませんでした!」

「えっと…そこの騎士の主であってるわよね?」

「はい」

「取り敢えず、一発なぐらせて。それでチャラにするから」

「え?」

「はぁ…。マーヤ、一回落ち着いて。悪いのはあっちだから」

「じゃあ、あっち殴る」

「…ヘルリア嬢、リベラさんを殴らせても良いでしょうか?」

「何度も言いますようにこちらの不手際ですので」

「良いって。思いっ切りやったれ」

「わかってるわよ」


 マーヤはシャルの前に立ち、渾身こんしんの一撃を繰り出す。

 そして、バンッという音が店の中に鳴り響きシャルが椅子ごと吹き飛ぶ。


「マーヤ様…その…」

「あ、私はマーヤ・エルヴァーンだから。マーヤって呼ばないで」

「は、はい」

「じゃ、これでチャラね。貸し借りなし。良いよね?」


 マーヤは威圧感満載いあつかんまんさいでリリアと床で伸びているシャルに言う。


(こんなに威圧感だして…首を横に振る奴がいるのだろうか…)


 ノアはあきれたようにふと思い、シャルに声をかける。

 マーヤのパンチが効いているのか、シャルは起きない。


「はぁ…。何故なぜこうも、怪我人けがにん続出ぞくしゅつするのだろうか…」

「ですね…」

「じゃ、私はアンナの試作品作りを見てくるわ」

「ああ、それとあんまり微妙びみょうだの言ってやるなよー」

「はいはい」


 マーヤは分かっているのか分かっていないのかよく分からない返事をして工房こうぼうへと姿を消す。

 そして、ノアとリリアは同時に溜息をこぼす。


「リベラさん、どうしましょうか…」

「取り敢えず、宿にでも…」

「この町、宿無いんですよね…」

「……」

「というか、なんでこの町に?」

「それは…」

「あ、別に言えない事情とかなら――」

「いえ。元々はシネル様に頼もうと考えていた案件ですので」

「…場所を変えましょう」

「あ、そうですね」


 ノアはマーヤにシャルを客間に置くことの了承りょうしょうて、シャルを客間のベッドに寝かせてリリアと共に自宅へと帰る。

 ノアはリリアを応接室に案内して茶をれて机に置く。

 そして、リリアは話し始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る