第8節

「話というのは妹の…ことです」


 リリアは紅茶を一口、飲んでからそう切り出した。


「妹さんですか?」

「はい。最初は病だと思い神官しんかんに見せたのですが、全員が全員、口をそろえて「よく分からない」と…」

「病状は…?」

破壊衝動はかいしょうどうおそわれる…みたいな感じですね」

「破壊衝動…ですか?」

「昔は大人おとなしかったんですけど…数年前から物を壊すようになって…」


 リリアは目をウルウルさせながら言う。

 ノアはいつの間にか紙とペンで何かをメモし始めていた。


「あの、その症状はいつ頃から?」

「十歳ごろです。顔見せパーティーには行っていなかったはずなので」

「なるほど…」

「何か分かったんですか?」

「…憶測おくそくで良ければ、お教えします」

「お願いします」

「予想ですが、破壊衝動は魂の性質せいしつによるものかと」

「魂の性質…ですか?」

「ええ。特性とくせいとも言いえれますけど。一目惚ひとめぼれってあるじゃないですか」

「ありますね。貴族の世界じゃそうかなう事はありませんけど」

「あれも魂の特性によるものです。特性が合うとかれやすいんですよ」

「なんていうか、物凄ものすごくロマンが無くなりましたね…」

「まあ、一番わかりやすい例えなので許してください…」

「まあ、なんとなく理解はできました。それで…妹は破壊という特性を持っていると?」

「ええ。十歳ごろから破壊衝動に襲われるようになったのは、魂の活性化が始まったからでしょう」

「活性化?魂がですか?」

「ええ。丁度、十歳ごろから体が成長し始めます。それにともない…というか、魂が活性化するからこそ体は成長するんです」

「昔、聞いたことがあります。体は魂の容器だと」

「ええ。その通りです」


 ノアは宵闇とこやみを照らす魂灯カンテラを見ながら言う。


「ともかく、それの治療法を教えてはいただけませんか?」

「…無いんですよ」

「え…」

治療法ちりょうほうなんてありませんよ。あっても対症療法たいしょうりょうほうです」

「どのような?」

相反あいはんする魂をその魂にそそぎ込む」

「…そんなことが?」

「ええ。まあ、大抵は…」


 ノアは一息おいて「死んでしまいます」と悲しげな眼で言う。


「そんな…」

「もう一つだけ、方法があります」

「それも無茶な方法なのですか?」

「まあ、無茶といえば無茶でしょうか。害はありませんよ」

「その方法とは?」

「相反する魂の持ち主を近くに置いておくことです。もちろん高位の」

「高位?」

「ええ。魂の位が高ければ低い相手を無意識下むいしきかに支配することができます。もちろん行動を縛ったりはできませんよ」

「破壊の魂の対…創造そうぞうの魂ですか?」

「ええ。まあ、創造の魂の持ち主を探すのが何年かかるかは分かりませんが…」

「……」

「ま、その間は僕が居ておきますよ」

「え?」

「創造の魂ではありませんが、好魂ラフソアという力を持っていまして」

「ら、好魂ですか?」

「ええ。魂と会話できる能力です。簡単に言えば」

「すごいですね…」

「まあ、それでどうにか話さえつければ多少はましになるかと。それに僕は強いので」


 威張いばるでもなくノアは言う。

 ノアの強さはリリア自身がよく知っていた。

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