〜あたしの中で何かが芽生え始めている〜
三十分早く駅に着いて、カケルのことを待っていた。着いたとRineしたところ、あたしよりも早く来ていたようだ。ふらふらと捜していると、慌てた様子でカケルがやって来た。
「おはよう!!」
「おはようカケル!!」
「どこか座って話せる場所ないかなぁ」
カケルが辺りを見回して座れそうな場所を探している。あたしは早く登りたかったので、彼の腕を掴んで「早く行こうよ!!」と言いながらチケット売り場まで連れて行った。そんなあたしのペースに合わせてくれるカケルは本当に優しい人。
エレベーターでタワーの頂上へ向かう。そこから景色を見下ろす。やっぱりサイコーだわ!!
「あたし、ここからの景色だーーいすき!!落ち込むことがあったとき、いつも来ているんだ。どんな悩みもちっぽけに思えてくるから」
景色を眺めながら感慨に
「もしかして中学時代も来てた?」
「うん。学校に行けなくなったとき、人と顔合わせるのも嫌になって引きこもりになっていたんだ」
ー二年前ー
学校へ出掛けようとしたとき、ひどい吐き気に襲われてその場から動けなくなってしまった。ちょうど仕事に行くお母さんと会った。
「茜!?どうしたの大丈夫!?」
お母さんに会った安心感からかボロボロ涙が溢れた。
「学校に行きたくない……」
「何があったの!?」
その日は仕事を休んでずっと傍にいてくれた。そして、今までのことを全て話したところ、「自分がまた行きたいと思うまで家でゆっくり静養するのがいいわよ」と理解を示してくれた。ただ、勉強面だけ心配していたので個別塾に通うことになった。
梨花ちゃんも心配してプリントやノートを持って会いにきてくれた。
「茜ちゃんと学校でまた会える日を楽しみにしてるね」
「うん。いつもありがとう」
ある日、テレビを観ていると東京スカイタワーの宣伝をしていた。
「観てください!!この景色。嫌なことや悩みごとをきれいさっぱり消し去ってくれそうですよね!!ちなみに夜になるとライトアップされて、とても幻想的なんです。ここはパワースポットとしても有名です。皆さん是非足を運んでみてくださいね!!」
「いいなあ。行ってみたいな……」
「それじゃあ日曜に家族で東京スカイタワーに行こう!!できてからまだ行ったことなかったからさ」
「やったーー!!」
そして日曜日、頂上の景色を眺めた。あたしは眺めながら感動して泣いていた。景色の広さを見て、自分の悩みがちっぽけに思えた。不思議なことに、あんなに行きたくなかった学校も、また行きたいと思えるようになった。そうして、翌日から一年ぶりに学校行けるようになった。
ー現在ー
その話をしていたら、当時の辛かった思い出が蘇ってきて涙が出た。いきなり泣き出してしまったことを謝罪する。
「ごめんね……やっぱりまだまだダメみたい」
手で涙を拭っていると、カケルに肩を抱き寄せられた。
「大丈夫だよ。これから先、今までの嫌なこと全部を楽しい思い出に塗り替えていこうな!!」
「うん」
カケルの体温が心地よくて、そのまま身を預ける。緊張しているのかな。心臓の音が早いリズムを刻んでいる。このまま時間が止まってしまえばいいのにと思った。
※※
昼どきになり、タワー内にあるレストランでランチをすることになった。ご飯を食べながら他愛ない話に花を咲かせていた。中でも一番盛り上がったのが初対面のときだった。
「本当今でも忘れられないんだけど!!あのときのカケル」
「やめてくれよ、その話。今でも思い出すだけで恥ずかしいんだから……」
ー入学式ー
「それじゃあ茜。あたしは仕事に行くけど一人で大丈夫そう?」
お母さんが心配そうな表情で訊いた。
「大丈夫だよ。梨花ちゃんもいるしさ。もし何かあったら連絡するからさ。安心して仕事行ってきてよ!!」
明るく返すと、「分かった」と言い学校を後にした。
教室へ向かう途中、たくさんの視線を浴びた。途中でドサドサっと荷物が落ちる音が響き、振り返ると慌てた様子で荷物を拾っている男子がいた。拾うのを手伝う。大方拾い終わる。
「コレで全部かな?」
「ありがとう……」
彼は顔を赤くしている。よく見ると耳まで赤く染まっている。鞄が新品だから同じく新入生だろう。
「ねえ、何組?」
「さ……3組だけど」
「3組なんだーー!!あたしと一緒だね。あたしは木内茜。あなたは?」
「梶原……カケル」
「一緒に教室行こう」
彼は頷いて鞄を持ち直す。それから彼は意気揚々に挨拶をした。
「きういさん、これから宜しくね!!」
面白くてクスッと笑ってしまった。彼は何で笑われているのか分かっていない様子。
「き・う・ちだよーー。きういってキウイフルーツみたいで響きが可愛いね。ぜひ呼んでよ」
「いやいや!!良くないです」
急に敬語になって面白い。きういなんて呼ばれたの初めてだったから、つい思い出し笑いしてしまう。
ー現在ー
入学式のことを思い出して懐かしんだ。
「あれは、あたしの中でも衝撃的だったなぁ」
「俺も改めて思い返すと恥ずかしい……。でも、それがきっかけで学校行くのが楽しくなったのは間違いないかな」
「あたしもだよ。話せる人が増えて嬉しかった」
カケルの顔が赤い。あたしもカケルを見ていると顔が熱くなる。
あたし……どうしちゃったんだろう。カケルのこと見てるだけで照れてしまう。さっき抱き寄せられたり、優しい言葉をかけてもらったからかも。でも、以前とは違う……。
その答えはまだあたし自身の中で出てはいなかった。
続く。
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