〜また学校に行けなくなりそう……〜

 翌日、あたしの席に図々しく座っている男がいた。ソイツはあたしを見るなりニヤニヤしながら口を開いた。

「よぉ」

「ちょっとアンタ。そこあたしの席なんだけど!?」

「知ってるよ」

「知ってるならどきなさいよ!!」

 どく気ゼロの男、桜木くん。本当やだ。

「木内さんってさ、よく見たら可愛いよな。彼氏とかいないの?」

「何でそんなこと訊くの?」

「木内さんのことが気になるから……かな」

「はあ?何言ってんの」

 朝から寝言じみたことを言ってくる桜木くんに嫌気がさす。

「で、どうなの?」

「そんな人いないわよ」

「じゃあさ、俺と付き合ってよ。俺らお似合いだと思うんだよねーー」

「い・や・よ!!何であたしがアンタなんかと付き合わないといけないの」

「……分かったよ」

 何を言ってもあたしと付き合えないことが分かった桜木くんは、ようやく腰を上げた。何はともあれ助かったわ。そして、その日以降、桜木くんに迫られることはなかった。



※※



 平穏な日々を過ごしていたある日。学校に行くと、皆スマホを見ながらあたしのことを見ている。一体なんだろう。顔や服に何かついてるのかな。

 そう思って玄関にある鏡で自分の顔を見ているとき、梨花ちゃんがすごい形相でやってきた。

「おはよう梨花ちゃん。どうしたの?怖い顔して」

「大変だよ茜ちゃん!!これ見て!!」

 そう言ってSNSの画面を見せた。すると、そこにはあることないことが呟かれていた。

『○○中学の木内茜は男遊びばかりしている、いやらしい女』

『男を弄ぶもてあそ最低な女』

 全て身に覚えがない内容ばかりだった。

「なにこれ。全部デタラメじゃない!!一体誰がこんなこと……」

 アカウント名を見てハッとした。@s.yuki……桜木くんのアカウントだったのだ。

「茜ちゃんごめんね……私があんなこと頼んだからだよね。だから、こんなことに……」

 今にも泣き出しそうな梨花ちゃんを、あたしはただ慰めることしかできなかった。

「それは違うよ。だから自分を責めないで。あたしなら大丈夫だから!!」

 人の噂も七十五日我慢すれば、噂の方から消えてくれる。だから、ひたすら耐えることに決めた。

 しかし、そんなあたしの姿勢を見た桜木くんが次に仕掛けてきたのが無言電話だった。毎日毎日かかってくる。しかも夜中にも平気でかかってくるので、最近は電源を切って寝るようにしている。あたしがケロッとしている様子が気に入らないらしく、あたしの目の前で友達に悪口を言ってくるようになった。ヤツはクラスだけでなく、隣のクラスの連中を巻き込んで、あたしの悪口を広めていった。さすがにそろそろ耐えられなくなって、朝起きるのも億劫になり始めていた。


 学校行かなきゃ……。


 制服に着替えて家を出ようとしたとき、心理的ストレスで吐き気をもよおしてしまった。それ以来、すっかり学校に行けなくなってしまい、卒業するまで不登校となった。



ー現在ー



「あたしは……あんたのこと絶対に許さないから!!」



※※



 翌朝、学校に行くと玄関でカケルとばったり出会った。

「おはよう」

 アイツから「話すの禁止」と言われていたけれど、反発したい気持ちが強かったので、小声で目を合わさずに「おはよう」と返した。

 急いで教室に向かったので、赤いリボンを途中で落としてきたことに、教室に着いてから気付いた。まあ、最近気疲れしてて適当に結んでいたから落ちるのも仕方なかった。


 高校生活もそろそろ限界かも……。



※※



 放課後、桜木くんのところへ行こうとすると、梨花ちゃんに声を掛けられた。

「待って茜ちゃん!!一緒に帰らない?」

「ごめんね……桜木くんと一緒に帰らないといけないから……」

 二人で話していると、痺れを切らした桜木くんが教室へやってきた。

「遅いぞ!!HRが終わったらすぐ帰る約束だろ?!」

「ごめんね」

「ほら行くぞ!!」

 あたしの手を掴んで強引に教室を後にした。



※※



 あたしは正直、彼の家に行きたくなかった。どうせ、また体を強引に触られる……そのことを考えたら足が動かなかった。異変に気付いた桜木くんが「どうしたんだよ?」と訊いてきたので正直に言った。

「行きたくない……もう嫌なの」

「おいおい俺に逆らうっていうのか?別に俺はいいんだぜ。お前の過去と写真を学校中にばらまいても!!」

 そう言って、あたしにスマホの画像を見せながら脅す。そんなことされたら……また中学時代に戻ってしまう。だから、それだけは絶対に避けたかった。彼はニヤニヤしながら、あたしの腕を掴んで家へと向かった。自室へと連れて行かれてまた悪夢の時間が始まった。


 もうダメ……耐えられない!!


 我慢できなくなったあたしは、誰かに助けてほしくて叫び声を上げた。


「いやああああ!!やめて!!」



続く。

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