〜悪夢の序章〜
放課後、
「毎回騒がれると面倒くさいなーー」
「それなら玄関で待ち合わせでいいじゃない」
「俺は少しでも早く茜と会いたいんだよ」
「だったら
「そういえばさ、茜の隣の席のヤツいるじゃん。梶原とかいうヤツ……」
「うん」
「アイツ茜のこと、まだ好きだよな。そうじゃなかったら、助けたりしないよな……」
急に何の確認なんだろう。もし、好きだったらどうなるって言うの?
「だからさ、もうアイツと喋るの禁止な」
「えっ!!何で!?」
「だってさ、これ以上気をもたせたら酷じゃないか。それに中学時代の出来事を忘れたわけじゃないよな。また学校に来られなくしてやってもいいんだぞ」
当時のことを思い出して血の気が引いた。もうあんな思いをするのは嫌だった。気がつくと、鞄を持つ手が小刻みに震えていた。桜木くんはあたしの表情を見て、ニヤニヤしながら言った。
「じゃあ、俺の家へ行こうか」
あたしの手を掴んで強引に引きずるような形だった。怖くて今すぐに振りほどきたかった。それに、家に行くたびに、いつも身体に触ってくるのも……正直嫌だった。
最初にキスをされて、それから手で服の上から胸を触られる。あたしは彼の手を掴んで泣きながら懇願した。
「お願い……もうこんなこと……やめてほしいの」
「別にやめてもいいぞ。ただし、これまでのこと学校中にバラすけどな。それにお前の下着姿の写真も撮ったし。一緒にばら撒いてもいいかも!!」
「そんなものいつの間に!?消してよ!!」
「嫌だねーー。さて、これでお前は完全に俺から離れられなくなったというワケだ」
彼はあたしの手を振り解き、逆に掴まれた。
「今まで多くの女としてきたけど、やっぱりお前は顔も身体もサイコーだわ。俺に認められてお前も嬉しいだろ?」
「……全然!!」
「そう強がるなって。その辺り中学時代から全然変わらないな」
ー二年前ー
「女漁りしてる奴がいるって?」
「そう。同じクラスの桜木勇輝って奴。しかも、付き合っている彼女が山ほどいるみたいだよ。私の友達で可愛い子がいて、案の定交際を迫られたみたい!!」
珍しく興奮しながら話す梨花ちゃん。危機感ないあたしに忠告してきた。
「茜ちゃんも気をつけてね!!可愛いんだから」
「あたしは別に大丈夫だよ。桜木くんの好みじゃないと思うし……」
「そんなこと分からないでしょーー。とにかく気をつけてね!!」
「うん」
その数日後、梨花ちゃんが苦虫を噛み潰したような表情をしているのを見た。
「どうしたの?」
「茜ちゃん聴いてよ!!桜木くんに目をつけられたんだけど……もう最悪!!」
「あら。ということは、可愛い子の仲間入りしたってことか」
「呑気なこと言わないでよねーー!!ああもうどうしよう……本当に嫌なんだけど」
頭を抱えて深いため息を吐く。梨花ちゃんのそんな姿を見るのは初めてだったから、力になりたいと思った。
「それならあたしに任せてよ。桜木くんにガツンと言ってあげる!!」
それを聴いて顔を上げる梨花ちゃん。
「本当?」
「うん!!これで梨花ちゃんの悩みが解消されるなら安いもんだよ」
「ありがとう……」
あたしは放課後、桜木くんを屋上へと呼び出した。
「わざわざこんな所に呼び出すなんて何の用?」
「あのね、梨花ちゃんのことは諦めてほしいの。あの子も嫌がってるし。桜木くんにはもう充分すぎるくらいの彼女だっているんでしょ?だから……」
「それで?宇津木の代わりに言いにきたってワケか。友達思いだなぁ」
「そうよ!!だから諦めてくれないかしら。正直、梨花ちゃんだって迷惑してるんだからね!!」
「迷惑だなんて。実は嬉しかったの間違いだろ。俺に好かれるなんて名誉なことなんだし」
コイツ……思った以上に厄介だわ。
「いい加減にして!!誰があんたみたいなチャラい男と付き合ったりするか!!」
その一言が効いたのか、すっかり黙り込んでいた。あたしは言いたいことが言えたから、踵を返して屋上から去った。
屋上の物陰に隠れていた梨花ちゃんが駆け寄ってきた。あたしはニッコリ笑いながらVサインを送った。
「もう大丈夫だよ。はっきり言ったからもう言ってこないよ」
「本当ありがとうね!!持つべきは茜ちゃんだわーー」
「やだなぁ。大袈裟だよ」
「そんなことない。本当ありがとうね!!」
これで全てが終わったと思った。しかし、これが悪夢の始まりだったんだ。
続く。
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