〜世界で一番嫌いなヤツとの再会〜

 あたしに話しかけてきたのは、隣のクラスの桜木勇樹さくらぎゆうきだった。彼とは中学のとき同じ学校だった。ちなみに入学してから二か月経つけど、顔を合わせることはなかった。彼は女子たちが騒ぐほどのイケメンで、つ性格も明るい。所謂いわゆる陽キャというやつ。それから、あたしのことを馴れ馴れしく『茜』って呼んでくるウザいヤツ……。


「そんなに驚かなくていいだろう」

「何でここにいるのよ!?誰とも会いたくなくて、わざわざ遠くの学校にしたのに!!」

 声を荒げるあたしに、彼はニヤニヤしながら言った。

「そんなの当たり前じゃん!!お前のことが忘れられないからだよ!!なんてったって見た目が俺の好みだからな」

「最っ低!!もう、金輪際話しかけてこないで!!」

 

 踵を返して教室へ戻ろうとした瞬間、片手を掴まれて壁に叩きつけられ、壁ドンされた状態になっていた。力が強くて振り解けない。

「中学時代では全く相手にされなかったからさ、それなりに傷付いてるんだぜ。それに俺ら美男美女だから絶対に釣り合うと思うんだよね」


 自分で『美男』なんて……どこまで自分に自信があるのよ。このナルシストが!!掴まれていた腕を振り解いて、はっきり言ってやった。


「それなら答えはあの頃と同じよ!!アンタとは付き合えないし、付き合いたくもないわ!!」

「……相変わらず気が強いな。でも、そこがまたいいんだよな」

 ダメだわ……言葉が全く通じない。一体どうしたら諦めてくれるの?頭の中でいろいろ考えていると、驚きの発言をしてきた。

「付き合ってくれないなら、してやってもいいんだぞ。それが嫌なら俺と付き合え」

 

 驚きのあまり言葉が出なかった。こんな奴に屈したくなかったけれど、確かに高校では平和に過ごしたいと思った。


「ちょっと一日考えさせて……」

「いいぞ。まあ、答えは出ているようなものだけどな」

 含み笑いをして教室へと戻って行った。


※※


 教室に戻ると、梶原くんと目が合った。桜木くんと付き合えば告白されなくなるのかな……。


 席に戻ると彼に話しかけられた。

「さっき隣のクラスの桜木に迫られていたよね。まさか付き合うの?」

「……梶原くんには関係ないでしょ」

 ぶっきらぼうに返してしまった。付き合ってしまえば、そんなことも訊かれたりすることもなくなるのかな……とか考えるようになった。


 その日の放課後、梨花ちゃんに話を聴いてもらおうか考えていた。すると彼女の方からやってきた。

「茜ちゃん!!話したいことがあるんだけど放課後空いてる!?」

「うん」

 あたしとは正反対にテンションの高い梨花ちゃん。何か良いことでもあったのかなぁ。


※※


 いつもの店に行きドリンクを飲む。一口飲んだ後、梨花ちゃんが話を始めた。

「私この度、如月くんとお付き合いをすることになりました!!」

「えっ!!そうなんだーー。おめでとう!!」


 笑顔で彼女に拍手を送ると、顔を真っ赤にして照れくさそうにしていた。

「えへへ、ありがとう。この前Rineしていたとき、『大事な話がある』って屋上に呼び出されたの。そしたら、告白されてさ!!もう嬉しすぎて即OKしちゃった!!」

「良かったじゃん。如月くん性格も良いから梨花ちゃんのこと大事にしてくれるよ!!」

「うん!!」


 桜木くんのこと相談しようかと思ったけど、この話の後ではとても話しにくかったので辞めた。


※※


 翌日の放課後。桜木くんから屋上に呼び出され、昨日の返事を迫られた。

「それで?結局、俺と付き合うことに決めたのか?」

「ええ……付き合うことに決めたわ」

「そうか。賢明だな」

 あたしの体を強引に引き寄せ、唇にキスをしてきた。

「ん……っ!!」

「これから、をしような茜」


 この選択が間違いだったことに気づくのが、もう少し先だった……。


続く。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る