あたしを振り向かせたいアイツ
ゆずか
〜今は誰とも付き合う気ないの!!〜
学級委員を務めている、あたしの朝は早い。ほぼ一番に学校に来て、教室の掃除や整理整頓をしている。そのとき、決まっていつも声を掛けてくる男子が一人いた。
そして今日もお決まりの言葉をぶつけてくるのだ。
「好きです。付き合ってください!!」
「ごめんなさい」
こうして毎朝、挨拶代わりに「好き」って言ってくるのである。告白されるのは昔から慣れているけれど……。こう毎日のように言われ続けていると、飽き飽きしてくる。ちなみに、その人には何度も断っている。それなのに懲りずに告白してくる!!
一体なんなの!?
あたしの名前は
ちなみに毎朝のように告白してくる男は、同じクラスで隣の席の梶原カケル。見た目が地味で性格も控えめで、どこにでもいそうな平凡な人物。しかも、授業中ずっと寝てばかり。最早、寝に来てると思われても仕方ない。先生たちもきっともう諦めてる。それに、この人の内申がどうなろうが、あたしには関係ないわ。でも、なんか憎めないのよね。きっと今まで本気で告白したことがないのかも。そうじゃなかったら、付き合える見込みがない相手に何度も言ってこないし……。もしくは作戦?
いずれにせよ、今のあたしは理由があって誰とも付き合う気がない。それでも、周りの男子たちは「好き」って言ってくる。正直もうウンザリしていた。
「茜ちゃん、おはよう!!」
「おはよう梨花ちゃん」
彼女は
「ねえねえ、放課後暇?」
「うん。暇だよ!!」
「よかったらさ、お茶しない?」
「いいね!!場所はいつものあそこで」
「学生御用達のファーストフード店だね!!」
※※
「ぶっちゃけ茜ちゃんは、梶原くんのことどう思ってるの?」
飲んでいた物を吹き出しそうになった。いきなり何ーー?
「どうも思わないわ。ただのクラスメイトよ。あたしは別に好きとかじゃないから!!それに授業中に寝るようなふざけた男は好きじゃないわ」
「どうして?もしかしたら、良い人かもしれないじゃん」
「……そういう人ほど付き合ったとき、長続きしないもんよ。浮気とか平気でするかも!!」
「梶原くんはそんなタイプじゃなさそう。むしろ一途じゃん。茜ちゃんにずっと告ってくるくらいだし」
「確かにそうだけど……」
「もしかして、あのときのことまだ引きずっていたりする?」
梨花ちゃんは飲んでいたジュースをテーブルの上に置きながら言った。あたしは内心ドキッとした。あれから三年経つというのに未だにトラウマになっている。
「うん……」
「まあ……無理に克服しろとは言わないけどさ。なんだかもったいないなって思ったの」
「もったいないって?」
「茜ちゃん可愛いから」
「そんなこと……あたしより可愛い子はいるし……」
俯きながら言うと、梨花ちゃんはニコニコしながら言った。
「この機会に茜ちゃんに暴露したいことがあるんだけど」
「えっ、何!?」
彼女はジュースで喉を潤した後、顔を赤らめながら言った。
「私……今ね。好きな人がいるの!!」
「えーー!!ウソ誰!?」
「同じクラスの
「如月くんーー!?」
声が大きいとばかりに、あたしの口に手を当てる。
如月くんは同じクラスであの梶原くんの親友だ。アイツと違ってイケメンだし、しかも成績優秀であたしと学級委員を務めている。それから、話すときの声のトーンが低めだけど、優しさが滲み出ている。梨花ちゃんが好きになるのも分かる。
「如月くんってさ、好きな人いるのかな……。席も離れてるから訊けるタイミングもないし……。そう思うと茜ちゃんが羨ましい。お互い学級委員だし」
確かに学級委員繋がりでよく話している。といってもほぼ業務連絡ばかりだけど。
「じゃあさ、あたしがさりげなく訊いてみようか?」
「本当?ありがとう。お願いね」
※※
翌朝。その日は如月くんと朝早くから委員会の打ち合わせがあったのでついでに訊いてみた。
「ねぇ、今さ好きな人いる?」
「えっ、いないけど」
「そうなんだーー。ありがとう」
その後、時間差で梶原くんもやってきた。彼の姿を見ると、つい構えてしまう。何度言われても結果は同じなのに……。告られたくなくて、無意識のうちに廊下へ逃げてしまった。
「何やってんだ。あたし……」
※※
昼休みになると、あたしと梨花ちゃんはいつも中庭でご飯を食べている。そして、朝訊いた情報を伝えた。
「そういえば如月くんね、好きな人いないって!!」
「えっ!?そうなんだーー。ありがとう!!」
半ば興奮気味な梨花ちゃん。それから、どうアプローチしようか考えていた。
※※
教室に戻ると、如月くんがあたしに話しかけてきた。
「木内さん。放課後急遽、委員会の集まりがあるって。予定とか大丈夫そう?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ宜しく」
「いいなぁ。私も如月くんと二人で話せるチャンスないかなーー」
「そういえば明日、朝早くに如月くんも来るから二人で話せるよ!!」
「そうなんだ。早起き頑張ろう!!」
※※
翌朝。梨花ちゃんは如月くんを見つけて挨拶をする。頑張れと心の中でエールを送る。
「おはよう如月くん!!」
「おはよう宇津木さん。早起きだね」
「うん……如月くんに話があって……」
「話?」
呼吸を整えてから、スマホを取り出して勇気を出して言った。
「如月くんと
予想外の申し出に驚いた彼の頬が赤く染まる。そして彼女に笑顔を向けて言った。
「えっ……。すごく嬉しいんだけど。俺で良かったら交換しよう!!」
スマホをポケットから取り出してお互いに交換していた。その様子を見ていたら、なんだか羨ましくなった。
※※
少し経った頃、箒を持って廊下を掃除をしているとに梶原くんに声を掛けられた。
「おはよう」
「お、おはよう……」
普段よりも半ば緊張している。何を言おうとしているかも分かっている。声を掛けられたからには逃げられない。
「木内さんのこと好きです!!」
「ごめん……」
「そ……そうだよな。俺みたいなヤツと釣り合うわけないもんな!!」
苦笑いしながら頭をかいていた。逆に何度も告白されると、不思議とだんだん気になってくる。
なんでだろう……。
「今日もダメだったけれど、俺は諦めないから!!付き合ってくれるまで何度でもリベンジするから!!」
ストーカー宣言をしてきてさすがに笑いを堪えきれずクスッと笑ってしまった。
「何で笑うんだよ。これでも今日は今まで以上に
「ごめんごめん!!つい……」
抗議する彼の様子が面白くてまた笑ってしまった。
「ねえ。何でいつも断るのか、良かったら教えてくれないか?」
真面目な表情で訊いてくる彼を凝視できず、思わず視線を逸らしてしまった。だって本当のことを言ったら、掘り下げられてしまいそうだから……だから咄嗟にウソをついた。
「実は……他に好きな人がいるの」
「そうなんだ……」
「でもね、気持ちは充分に伝わったよ!!良かったら、友達として仲良くしてくれたら嬉しいな」
彼は複雑な表情をしている。しばらく考えた後で頷いた。
「ありがとう!!あたしのこと『茜』って呼んでいいからね。あたしもカケルって呼ぶから!!」
「うん……」
※※
これでもう告られないと思っていた矢先、廊下を歩いていたとき、とある人物から声を掛けられた。
「あれ茜じゃん」
「えっ……?!何で?」
続く。
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