鉱石を食べる兄弟

人類が滅んだ未来の世界。新たに文明を築いた生命体も歴史は繰り返されるように、我々と同じような生活をしていた。彼らは家族を作り、家に住み、余暇を楽しむ。

とある兄弟もまた、休日の夜に映画を見て楽しむのがお決まりとなっていた。兄が持ってきた映像媒体に弟が絡みつく。

「今日の映画はなに?」

「人間が生きてた頃の話が再現された映画だってよ」

「えー人間ってあの数世紀も前に絶滅した種族のこと?」

「おう、人間の生態がわかるから歴史学でも役に立つってよ」

「お勉強かよ、おもしろくない」

「それがな、人間の恋愛劇らしくて面白いって友達が言ってたぜ。いいから今日はこれ見るからな」

「ちぇっ、横暴だ」

「そんなこと言うんだったらこれは分けてやれねぇな」

弟は不貞腐れたように沈み込む。そんな様子を見た兄はニヤリと笑って手に持っていた紙袋を弟に見せびらかした。紙袋の中には小さなガーネットとそして丸く加工されたラピスラズリが入っている。

「クズガーネットと瑠璃玉だ!兄さんどうしたの、こんな豪華なお菓子」

「へへっ、父さん秘蔵のお菓子だよ。ずっと倉庫の奥に眠ってたの見つけたんだ」

「それ父さんにバレたら怒られない?」

「大丈夫だろ、ずっと眠らせてだんだぜ。絶対忘れてるっての」

兄は赤くキラキラと光るガーネットを数粒掴み、口の中に放り込むと噛み締めた。口の中でプチプチと弾けるガーネットは青春のような甘酸っぱさを口全体に広げていく。

「くぅー、これこれ。このガーネットの控えめな甘さの中に混ざる酸っぱさがいいんだよな」

「兄さん、俺も、俺にも分けて!」

「あー?俺のチョイスに文句言うやつにあげたくはねぇなー」

「ごめんって、さすが兄貴!映画のチョイスのセンスが高い!」

「現金なやつだな、まったく」

ガーネットとラピスラズリを見せた途端に手のひらを返す弟の姿に兄は苦言を呈するがため息をついて諦めた。

「ほら、全部1人で食ったら殺すからな」

「わかってるって!」

「全く本当だろうな……」

わーい、とさっそくガーネットを食べ始める弟を横目に兄は映画を再生するべく準備を始めた。


再生された映画はごく普通の人間たちによるラブストーリーである。人間の生活は兄弟たちにとってあまり目新しいものではなかった。ただ一つ、食生活を除いて。

映画の中では人間たちが油であげられた芋の根を美味しそうに食べているのだ。

「げっ、この人間の女、芋の根をわざわざ植物から絞った油で食ってるぞ」

「なんで植物を植物で加工してるの?」

「植物とあとは生物の肉しか食えないって。しかもそれを加工して食ってたって先生が言ってた」

「ふうん、面倒な人種なんだね、人間って」

「でもこうやって見てみると人間って毒があるのに植物を食べてるってほんとなんだな」

「ね、人間って野蛮だし理解できない」

「宝石とまでは言わなくても輝石でも十分美味くて栄養あるのにな」

「人間もラピスラズリ食って生きていけばよかったのに」

弟はラピスラズリを一粒、また一粒と口の中に入れる。歯で噛みしめればラピスラズリ特有の渋さと甘さ、そして中に混じっている不純物がプチプチと歯で押しつぶされていく感覚がする。

映画も終盤にかかり、時刻はもう夜遅くなっていた。映画に夢中になっていた兄弟たちは自分たちの背後から忍び寄る赤い触手に気がつかない。

「あんたたち、いつまで起きているの!明日も学校があるんだから早く寝なさい」

「「はーい、ママ」」

兄弟の母親は2人を宙吊りにして注意する。彼らは納得がいかないという顔をしながらもショッキングピンク色の触手を同じように空へと伸ばして返事をした。


ディストピア飯小説賞応募作品

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物語のカケラ 胡白 @Schere

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