夏の終わり

『今度、結婚するんだ』

そう笑った君の顔は幸せそうで、いつもの何倍もかっこよかった。

よかったね、だとか。おめでとう、幸せになってね、だとか。結婚式には呼んでよね、だとか。ありふれたお祝いの言葉が自分の口から溢れて視界を閉ざしてしまう。

私はちゃんと笑えていただろうか。ちゃんと疑われようもないぐらいにお祝いできただろうか。


7歳も歳上の近所のお兄さんに昔から恋をしていた。高校に入った年に告白しようと思っていた。でもその年に就職でどこかへ行ってしまった。

高校では彼氏も作らずに勉強と部活を頑張って、綺麗になるべく努力もした。いつか戻ってきた時に見返して、想いを伝えるために。

でも数年ぶりに帰ってきた君が言ったのは結婚の報告。頭をガンっと殴られた気がした。


いつものように制服を着て、いつものようにローファーを履いて。足に馴染んでいたはずの靴がいやに重い。引きずるように足を動かして私は家を出た。君の家の前を通るたびに思い出す君の顔。

いつか、私も心の底から君の結婚を祝えるだろうか。嘘でコーティングした、当たり障りのない言葉ではなくて、本心からの言葉を伝えられるのだろうか。


もうすぐ夏が終わる。私の恋も夏の終わりとともに終わりが告げられた。レポート用紙に書いた、君への届かないラブレターを持って。たどり着いたのは思い出の丘。君に教えてもらった、紙飛行機の折り方。

君への思いもそっと風に乗せて飛ばした。


秋になれば私も先に進まないといけないのはわかってる。でも夏の間だけは好きでいさせて欲しい。

紙飛行機に想いを託して。君に届かないで、私の想い(届いて欲しい、私の恋心)


(クリエイターマッチングプロジェクトに提出)

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