小雨の降る道

@tanpurasoba

短編

シトシトと雨が降る夜道を一人古いビニール傘をさした青年が独り歩いている。彼は雨が嫌いではなかった、しかし青年期特有の孤独感と精神的疲労、それらから来る論理的でしかない考えを心に浮かべ義憤に駆られたような、少しあきれたかのような表情をしていた。その考えは理屈付けはされていても誰かにぶつけたいがためのものだということはその青年にもとっくにわかっていたからだ。彼は自分の本心を誰にも語らなかった、その考えをいつも一人になると反芻している、凝り固まったその考えを疑わない理由は若さから来る傲慢ではなく自分が精神的優位を保っていると信じることで自分を安心させようとする心と自分の性根を白日の元に晒したくないという幼稚で臆病と言える感情だ。それにも薄々気が付いている。雨特有の苔を蒸したような匂いを感じながら青年は考えた、人はみな私と同じように誰にを己の考えを明かさず生きているのではと、しかしそれを確かめる術はない、心の中のことは誰にも、本人にすらわからない結局人はいつだって孤独を感じている。彼はどんなに時でもどこか一歩引いて俯瞰してしまっている。人は独りで歩いている。青年は家が着くとと普段通りの顔に変わり「ただいま」と言った。一人の人間は人でないのかもしれない。

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