第124話

異様さ。という言葉をあげるなら絶対に忘れてはいけない人物がいる


そう、私の友達ことあの阿部ばかやろうの事である

あいつはあの日以来、腑抜けてしまった

何をやるにも無気力

会話をすれば成立はするし授業だって普通に受けてる


何も悪い事はしていない

ただ、いつも気味の悪い薄ら笑いを浮かべヘラヘラしているのだ

私はそんなあいつを見ていられない


理由だって分かってるし多少は仕方ないと思ってた、でももう半年…

半年も経っているのだ、そろそろ立ち直ってもらわないと困る


あの中村でさえ今のあいつには話しかけるのを躊躇っている

皆が腫れ物を触る様に扱うのだ


そもそも何故あいつがこんなになっているのか?というのが分からない

原因は分かる「最悪の事件」だ

確かにトラウマになったっておかしくない光景だった


でもあの時あいつは誰よりも早く異変に気付き対処した、そしてそのお陰で私達3人は生き残れたのだ

褒められることはあっても、あいつを責める人間なんて誰もいない

もし仮に誰かに責任を取らせるとするならば、それは陰陽会だろう


あいつがこんなにも、半年間も思い詰める理由など本当にないのだ

だとすれば死んでしまった人の中に誰か大切な人でもいたのだろうか?

でも会場ではそんな素振りはなかった

あぁ…イライラする


あのヘラヘラした顔を引っぱたいてしっかりしろと言いたい

何がそんなにあんたを追い詰めてるんだ!って問いただしたい


なにより腹が立つのは結局何も出来ずにいる自分に対してだった


あいつには何度助けられたのだろう?

覚えてるだけでも3回

それだけじゃない、いつもあいつのアホなくらい前向きな言葉に、行動に、笑顔に私は救われてきた


あいつはきっと大した事してないよ、なんて言って笑うだろう

それでも私にとって、あいつはヒーローだったんだ


じゃあ今度は、あいつが苦しんでる時は私が助けてあげないといけない

それなのに…


勿論何度か声を掛けようと、話掛けようとした事はある

でもあいつ、休み時間の度にトイレに籠って吐いてる

この半年間ずっと…

それでも戻ってきたら何も無かったかのようにまたあのヘラヘラした薄ら笑いを浮かべるのだ


そんなあいつにどうして追い詰めるような事が出来る?

思い出させるようなこと言えるわけ…ない


結構私は恩人が困っていても何も出来ない人間なんだ


ブーブーブー


スマホのバイブが震える

画面には「父様」の文字


正直今、父様に話すことなんかないし話したくもない

それでも私は通話ボタンを押すしかなかった

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