第89話

そんな俺をさらに絶望へと落とすものが視界に入った

本来もっと早く気付いてもおかしくなかった

いや、本当は気付いていたけど見ない振りをしていただけかもしれない


早乙女こと…早乙女さおとめ 琉生るいは俺と同い年だった


なんなんだこいつは…

こんなのが1年?去年まで無能だった?そんな訳あるかよ…

ただの化け物じゃねぇか


こうして全国大会初日は幕を閉じた


敗戦報告の為、学校に連絡したらホテルは取ってるから見学して来いと言われた

正直そんな気分ではない、明日もあいつが…早乙女が勝つ様を見せつけられると思うと少し憂鬱になった



――翌朝

俺の脳はなんて便利なのだろう

寝て起きたらそんな事もすっかりどうでも良くなっていた


そんな俺とは対照的に藤原の様子がおかしかった

昨日までとはまた違って周囲を気にして怯えている様な、そんな印象を受けた


???「おい!なんでお前がいる?」


高圧的な態度とデカい声

普通にビクッとなった、藤原はそんな感じではなくただ震えていた


???「無視するなよ!なんでこんなとこにいる?瑠奈っ!!」


瑠奈…ルナ…?月?ルナティック…?

いや違うだろ!確か藤原の下の名前がそんな感じじゃなかったか?


藤原「はい。お兄様…」


お兄様!?

声の先には藤原とあまり似ていないが早乙女に負けず劣らずの背の高いイケメンがいた

兄妹揃って美形って一体何食ってんだよ…いや、普通に遺伝か


藤原兄「はい、じゃねぇだろ。何でいんのか聞いてんだよこっちは…まぁお前の実力じゃ代表にはなれねぇだろうからサポートってとこか?ここは思い出作りの場じゃねぇんだよ、さっさとクソ田舎で自分のミッションに専念しろや!」


口調は荒々しく言い方も悪いが何か違和感を感じる

それにこれだけ言われてんのに気が強い藤原が俯いて震えてるだけって…


あぁ、そうか―

今のやり取りでここ最近の藤原の様子に納得した

この兄貴、霊力が校長と同じくらいはありそう…つまり超級レベルって事だ

んで陰陽師ってやつは霊力が全てとされてきた


藤原は家で無能扱いされてきたんじゃないか?

そして同じ境遇の早乙女に親近感を覚えていたんじゃないか?

でもいざその本人はとんでもなく強くなっていて、自分は取り残され嫌な記憶だけ思い出したってとこだろう


ミッションが何なのかは分かんないが今日特に様子がおかしかったのは兄貴がいると分かっていたから…


藤原「はい。すみませんでした…」


ま、事情が分かった所で俺にはどうすることも出来そうにないし藤原がこの調子じゃな…

兄貴は不満そうに歩いていった

今の俺が藤原に何を言っても無駄だろう

でも…


「心配すんなよ。少なくともこの1年、お前は強くなってるよ。俺が保証する」


お前が頑張ってるのはちゃんと知ってるから…とまでは流石に言わなかった

照れくさいから

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