第71話

僕は今かなり貴重な体験をした

あの安倍晴明の術を間近で見たのだ

見たの…だが

今思い出しても全く理解出来ない


まず最初の霊弾

最初からとんでもないものを使っていた

仕組みも理論も分からないが

あれだけ強力な怪異を5分程度足止めしていた

現存する陰陽師で同じ事が出来るものなど僕を含めていないだろう


次に霊装の形態変化だ

真装以外で霊装の形が変わるなど聞いた事がない

もしかするとあれがあのお方…いや、阿部くんの真装なのかもしれない


トドメにさっきのあれ

完全に理解不能


理解不能だが分かったこともある

やはりあの方こそ安倍晴明で、最強の陰陽師なのだと

その証拠は目の前に倒れた武本くんの姿が証明している


阿部くんがあとは任せたと言って倒れたと思ったら

怪異が苦しみ始めた

しばらくして激しい光を放ったと思ったら武本くんの姿に戻っていた


後を任された僕は僕の仕事するとしよう

生徒達の避難は完了している

校内にいる小鬼達の残数は…

ざっと100くらいか

幸い距離はそんなに離れていない

霊力はかなり使うが仕方ない


校長「捉え給え捉え給え、悪しき力我が霊力の基へと集え。捕縛結界」


これは結界内に存在する怪異を全て僕の元に引き寄せる結界

中級以下の怪異なら確実に捉えることが出来る

怪異を霊力の輪によって身動きを封じて捉える

そのせいで大量の霊力を使うんだけど…

数十秒後、100体程の小鬼が目の前で山積みにされる


前回の事件のせいで授業用の怪異が減ってたから丁度いい…

ある程度を捕獲し残りは全て倒す


校長「氷結」


これが僕が天才とされる所以の陰陽術

制約はあるが対象を細胞レベルで一瞬で凍結させることが出来る

なので軽く力を加えるだけで…


トン!


粉々となる




こうして波乱だらけだった校内選抜大会は幕を閉じた


今回の件だが、公的には救世の宵闇が武本を暴走させるよう洗脳して混乱に乗じて怪異を放ったとされた

武本に対する処分は謹慎1週間と1ヶ月の校内清掃となった

洗脳されてたとは言えこればっかりは仕方ないだろう


選抜大会については俺と武本は両者敗退扱いとされ、山本先輩と篠原先輩の代表決定戦が後日行われた

篠原先輩の近接戦に対し山本先輩は陰陽術による中遠距離戦で挑んだが

結局最後は詰め寄られ篠原先輩の勝ちとなった


不幸中の幸いというか副産物があって

怪異化したとき霊力回路が拡がって武本の霊力は中級レベルまで増えていた

本人には教えてやらないけど…

謹慎明けで学校に来た時、俺の側まできて何かをボソッと呟いていたがなんだったんだろう?


全てが終わって元通り

でも俺には最後の戦いが残っていた

今俺は体育館裏である人を待っている


細見「ごめん!待った?」


そのある人がやってきた

俺の心臓は壊れるんじゃないかってくらい速く鼓動を打つ


「いや、全然大丈夫っす」


細見「で?話って何かな?」


「俺、今回の試合頑張りました…」


細見「うん。凄かった!鬼龍院くんにも勝ったもんね」


「はい。でも…それは…」


細見「周ねぇから聞いたよ…私の為に…頑張ってくれたんだよね?」


細見先輩はどんな顔をしているんだろう?

怖くて顔が見れない


「はい!でもそうだけど、そうじゃなくて…」


細見「私、しょうがないと思ってたんだ。それがこの世界の普通だから…それに変なおじさんと結婚させられちゃう子だっているしそれに比べたら、ね?でもそう言ってても本当は私が好きな人と結婚したい…だから結婚しなくていいって聞いた時は本当に嬉しかったんだよ!ありがとう」


そう笑う細見先輩の顔は世界で1番輝いて見えた

心が痛い

その好きな人って…


「でも、そんなんじゃ…ないんです。俺は、頼まれたとか関係なくて。ただ先輩が結婚するのが嫌だったんです、先輩の事が好きだから」


今俺はどんな顔をしてるんだろう

細見先輩はどんな顔をしてるんだろう


細見「えっ…」


「でも分かってるんです。先輩の事はよく見てたから…本当は優勝して伝えたかったけど、中途半端なのも俺らしいかなって。先輩、好きでした。初恋でした!!いや…今でも好きです!でも、先輩の隣には相応しい人がいます。だから!絶対幸せになって下さい!!俺が鬼龍院に勝ったの無駄になんないように!!」


少し早口になってしまった

細見先輩の顔を見れない

涙が出てきそう


「初恋が先輩で良かったです!!それだけです!失礼します!!」


涙が零れないように

見られないように

サッとお辞儀をして走った



それを見送る細見先輩の顔はなんだか照れたような、何かを決意したような顔だった

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