第70話

気が付いた時には自分の体を自分の意思で動かす事が出来なくなっていた


周りが真っ黒な何も無い空間

そこにモニターのような物だけがあり

外にいる視点での外の様子が見える


担任「お前本気で言ってんのか?」


担任の責める声、違う!僕じゃない!!

僕はやってない!!

答えるのは自分の意志とは違う言葉


「だとしたら?」


違う!違う!違う!

誰か、誰か!僕の本当の声を聞いてくれよ!

声は誰にも届かない…


大会2日目…

昨日からすれば衝動はましになった気がする

それでも僕は何も無い空間に囚われたままだった


初戦の相手は阿部

憎さはあるけどこいつなら僕を止めてくれるかもしれない

そんな期待があった

阿部は期待通り優勢に試合を進めた

このままなら…

とここで予想外の事態が発生する

こうなってしまった原因の薬をまた飲んだ


突如地面が沼のようなものへと変化した

見渡す限り真っ黒なのは変わらない

移動してもどこも同じだろう

そもそも移動したくても足が沈んで動けない

モニターも見えなくなり

ただただ沼に少しずつ飲み込まれていく


………


どれくらいの時間が経っただろう?

今の僕に体という概念があるのか分からないから、あくまで感覚的なものだが足先から徐々に飲み込まれていき残るは顔だけとなっていた

そしてついに首から口までも飲み込まれた、不思議と息苦しくはない

なんとも変な感覚だ


とはいえそんな悠長にしている余裕はない

このまま完全に飲み込まれてしまえば完全に怪異になってしまう

何故だかそう分かった

これが僕の望んだ結末か?

違うだろ!!

でも今の僕にはどうすることも出来ない…


諦めかけたその時

文字通り一筋の光が差し込んだ


???「お前このままでいいの?」


誰もいないはずの空間

声など聞こえるはずもない

なのに声が聞こえてきた

しかもなんだろうか?聞き覚えがあるような


「お前誰だよ!」


???「このまま怪異になってもいいの?って聞いてんだけど」


声の主はこちらの質問には答えず、先程と同じ質問を投げかける

そんなの…決まってる


「良いわけないだろ!!」


こんな!こんなはずじゃなかったんだ!

僕はただ…

ただ父さんと母さんに…

そう。

ただ褒めて欲しかったんだ


???「なら必死で願え。望め。そして、掴み取れ」


まだ生きたい!こんな所で怪異になんてなりたくない!!

僕は、僕は一流の陰陽師になって父さんと母さんに褒めてもらうんだ!!


言われた通り強く。強く願った

すると、一筋の光だったものがまるで雲が晴れて太陽が現れるかのように眩しい光へと変わる


気付けば周りにあった黒い沼はもうない

黒いだけの空間は光溢れる真っ白な空間へと変わっていた


その光の中から手が伸びてくる

僕は迷わずそれを掴む

そこでようやく気付く

僕を助けてくれたのが誰なのか?と

さっきの声は誰だったのか?と

好きになるのは難しいが、お礼くらいは言ってやろう

そう思いながら光の中へと入っていった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る