第69話

武本は回避する為少し横にズレる

すぐに俺は指を鳴らす


パチンッ!


その直後、剣の刀身が6つに裂け武本を包みこむ


武本「グァッ!?」


今更気付いても遅い

そのまま剣は武本を地面に叩きつけ拘束する


校長「一体何が…」


一部始終見ていたはずの校長はまるで理解出来ないと口を開いていた


阿部?「俺の霊装武器は特殊で何にでもなるしどんな形にもなる。名付けるなら「千変万化」ですかね?」


校長「そんなのある訳…」


阿部?「本題はこっからです。俺はさっき陰陽術とは望む物を必要な霊力で発動させると言いました。ならそれは怪異になってしまった人間を元に戻すなんてのも…?」


実際には完全に元に戻すわけじゃない

そんな事やろうと思うと時間遡行になってしまうからさすがの俺でも無理…


武本はまだ完全に怪異になった訳じゃない

今ならギリギリ間に合う、本人が望みさえすれば…


さてやろうか!

霊力回路を拡げたといっても全然霊力が足らないな…

ま、足りないなら借りればいい


阿部?「愚かなる心の数々を戒め給いて、一切衆生の罪穢れの衣を脱ぎさらしめ給いて、萬物よろずのもの病災やまいわざわいをも立所に祓い清め給へ」


体から霊力が抜けていくのを感じる


武本「グオオオオォォォォ!グアアアアァァァァ!!」


武本が苦しみ始めた

どうやら術は上手く発動したらしい


阿部?「校長、あとは任せました。目覚めた時はいつもの俺です」




――――いつからだろう?


心がモヤモヤする

多分夏休みのあの日からだ


苛立ちが抑えられないのに、何故そんなに怒ってるんだ?と思う自分がいた


確かに阿部にはムカついていた

でも同じくらい不甲斐ない自分にもムカついていたんだ

それなのに何故かそんなの全てどうでも良くなって…ただ阿部を殺したい

そんな気持ちがふつふつと湧き上がった


ある日気付いたら

目の前に2年の担任が倒れていた

僕は見ないふりをした

…だって僕じゃないから

そう言って逃げた


本当は分かってた、僕がやった

でもやりたくてやった訳じゃないんだ!


そんな気持ちとは裏腹に、日に日に頭の中が阿部に対する憎悪で埋め尽くされていく

もうどうしたらいいのか分からなくなってきた…お願いだ、誰か助けてくれ


そうして迎えた選抜大会

そうだ!今日ここで阿部を殺せば、僕は…違うっ!そうじゃない


コロセ!コロセ!コロセ!


うるさい!殺したくなんかない!!


コロセ!コロセ!コロセ!


脳内に響くそんな声と殺人衝動を必死に抑えながら戦った

そして迎えた花村さんとの試合…


コロセ!コロセ!コロセ!


うるさい!うるさい!

段々と大きくなる声に抗う為に早く終わらせたかった

でも花村さんはかなり粘った


殺人衝動と理性が混ざり合い中途半端な攻撃になる

余計に戦いは長引く…


ならば、と降参を勧めても応じてくれない

だんだん頭が真っ黒になっていった

自分が黒い何かに塗りつぶされていくような感覚

このままじゃ花村さんを殺してしまう

最後にもう一度だけ…


「なんだお前?勝てねぇの分かったろ?さっさと降参しろよ、イラつくなぁ。勝てるとでも思ってんのか?」


こんな言い方がしたい訳じゃない

でも衝動を抑えながらだと上手く喋れない

どうしても乱暴な言葉になってしまう

それでも花村さんがリタイアしてくれればそれで良かった


――好きだから!!


思いもよらない言葉が聞こえた

頭が真っ白になった

正直に言えば嬉しかった


でも今の僕にはそんな事言って貰える資格はない

それに今はそんな事を言ってる場合じゃない


自己嫌悪の気持ちが湧き上がる

自己嫌悪のはずなのに…

自分への怒りのはずなのに…


その気持ちは全てあいつに対する怒りへと変わっていく


俺は意識を失った

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