第47話

俺の体を青い霊力が包み込む

今までのような薄い青ではなく綺麗な青

それは記憶の中にある担任の霊装展開と遜色無いものだった


身体中に力が湧き上がる

昨日までの霊装展開とはまるで違う

これが「本物」なのだと理解出来た


ただ…

こんな、こんな…


山村「こんな簡単だったのか?って顔してるな」


思っていた事を言い当てられた

だって、それなら…


山村「それならなんでもっと早く教えてくれなかったのか、って?あいつは説明不足な所はあるが無駄な事はしねぇよ」


無駄な事はしない…

そのセリフ、細見先輩も言っていた


山村「今回の事もそうだ。多分霊装展開したまま持久走とかなんとかしたんだろ?」


また思っている事を当てられた

一体なんなんだこの人は


「やったけど」


山村「ならそれは無駄じゃないな!仮に最初に教わってたら今より余計に時間がかかってたはずだ」


「いや、でも走ってただけで!」


そう

やった事なんて走ってただけなんだ


山村「それが大事なんだよ。今の感覚で思い当たる事、あるだろ?」


今の感覚ってことは霊装展開の事だろ?


…少し考えてみたら分かった

あまりにも自然に出来てしまったから気付かなかった


さっき霊装展開した時の感覚は、疲れきって後半ギリギリ耐えながら走っている時の感覚と同じだったのだ


おっさんは俺の顔を見てニヤリと笑った


山村「気付いたか。しかもそれだけじゃない、持久走は徐々に霊力を体を慣れさせるのにも最適だ。それをしないと怪我をする可能性もあるからな…」


「ふぅ…」


おっさんも担任も態度や言動は適当だけど、実力も教え方も凄い

分かってたはずなのに、どこか俺が頑張ってるから、センスがあるから強くなってるんだ!っていう気持ちがあった


そうじゃない

教えてくれるから俺は強くなれているんだ

そう心から思う事でやるべき事がはっきりした

今はおっさんの言う事をきちんと理解して修行する!

幸いおっさんは、担任と違って説明不足な事もない


そして、大事な事も思い出せた

細見先輩…

先輩の為にも俺は強くならないといけない

誰よりも…



―――――



俺の名前は、山村翔平

山暮らしをしている無職のおっさんだ


ひょんな事からかつての教え子の生徒を預かる事になった

聞いてた話によると、根性はあってセンスもある。頭も悪くない

ただ経験と知識がないらしい


どうやらこの4月から陰陽術を使い始めたみたいで、そんな奴を選抜大会で優勝出来るようにしろ、と

まず無理だ、できる訳がない

今年は3年に鬼龍院もいるらしいし、そいつの優勝で決まりだろう

本人にも言ったが適当に見て断るつもりだった


だがそいつはとんでもない人物だった

集撃。基礎の基礎だが、1番難しいと言っても過言ではない

何故ならこれが強くなるだけで見ている世界が変わるのだ


なのにそいつはいきなり型破りな集撃をやろうとしていた

しかも無意識で

それなのに動きは完璧

そんなのはまるで…何百年も前の陰陽師が転生でもしているかのようじゃないか


だがそいつはそんな素振りもなく、至って普通の人物だった

もしこれが演技だったなら役者と言われても疑わないだろう


そしてついさっきの出来事だ

それなりの説明はしたが本当はありえない

たった一言聞いただけで、霊装の完全展開を成し遂げるなんてのは…


本来は地道な修行を1年くらい続けてようやく至る境地なのだ


とんでもない奴を預かる事になってしまった

そう思うと同時に、こいつならもしかするかもしれない…と期待してしまった

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