第22話

走っていた阿部が急に足を止める


青鬼達は好機とばかりに振りかぶる

そして振りかぶった拳が…


振り下ろされる前に一瞬にして阿部から校庭を包むほどの結界が展開される


阿部?「お?何回か見ただけにしては割と上手く出来たな」


体は確かに阿部正晴であるはずなのだがその雰囲気は全く異なるものへと変わっていた

そもそも阿部正晴には陰陽師はおろか霊力すらまともに扱えないはず


なのに間違いなく結界が展開されている

しかもその結界が青鬼に触れると青鬼達は身動き1つ取れなくなる

明らかに校長の作った結界より上位の結界だ


阿部?「想定よりも早かったけどそろそろ回路繋いでもいいかなって思ってたし丁度いいか…」


パチンッ!


阿部が指を鳴らすと…


なんということでしょう!

結界内にいた青鬼の頭が全て跡形もなく吹き飛んだではありませんか!


阿部?「取り敢えずはこんな所か…」


一息付くと壁にぶつかって気絶している藤原の元へと歩いていく

何をするのかと思えば気絶している藤原を地面に寝かせ、その隣へと寝転がった


阿部?「役得、役得」


藤原の体を抱き締めるように手を回したと思ったら、まるで糸が切れたように眠った



――1年教室



皆が死を覚悟した


花村は最後まで抑えきる事を諦めなかった

武本はなんとか立ち上がろうと力を振り絞った

杉山も最後までナイフを投げ続けた

中村は霊力が底を尽き気絶したまま

桜井は絶望し、泣き崩れた



桜井「誰か…助けてよ…」


そう呟いた瞬間、普段はやる気も頼り甲斐もないが今1番聞きたかった声が聞こえた


担任「よく耐えた。お前らは最高の生徒達だよ」


次の瞬間には教室内にいた全ての青鬼の体が左右真っ二つになった


担任は心底安堵した


もう駄目だと思ったけど本当に良かった…

普段隠している感情を吐き出したくなったが、グッと堪えて泣いている桜井を抱き締める


桜井「ぜんぜぇー」


勿論担任は桜井が女である事を知っているが、他の皆は男だと思っているので少しドキドキした


担任「もう大丈夫だから、泣くんじゃない」


いつも通りのセリフだが、いつもと違って優しさを感じる

先生は、ちゃんと先生なんだと皆が認識した瞬間であった


落ち着いた担任は違和感に気付き辺りを見回す


担任「おい!阿部と藤原と黒川はどこだ!?」


いるはずの3人の姿がない

考えたくない”まさか”が脳裏をよぎる


杉山「多分校庭です…いつも残って練習してるから…たまたま今日は俺が行けなくて…」


そう言う杉山の顔は暗い

杉山のせいではないが今の状況を理解し、私と同じ想定をしているのだろう


担任「私が校庭に行って3人を助けに行く!お前らはすぐ体育館へ行け!!他の先生が居るはずだ」


それだけ告げて窓から飛び降りる

2階からだが問題はない

綺麗に着地を決め3人を探す


どこだ!?どこだ!?

探してはいるが内心諦めている自分がいる

教室の方は立地を利用した上で5人でなんとか耐えていたのだ

それでもあと1秒でも遅かったら誰か死んでいてもおかしくは無かった

なんなら全滅していた可能性だって充分にあった


それが周りにはほとんど障害物がない校庭

藤原がいるとは言えたった3人だ

しかも阿部は霊力すらまともに使えない

正直言って足手まといだろう

そんな状態でまだ耐えているなんてほとんど有り得ない

それこそ奇跡でも起きない限り…


私は自分を呪った

元よりこの作戦を承諾しなければ…

もっと生徒達へ教えていれば…

すぐ生徒達の所へ行っていれば…


決して間違った事をしたという気持ちはないないが、後悔は募る

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