第2話 東堂悠璃

(うちの高校の制服…)


目の前の少女は今目の前にある加瀨が通う高校の制服であるセーラー服を着ていた。

黒く長い髪は真夏の太陽の光に照らされて、仄かに茶色く艶やかに輝いている。


「一部始終をずっと見てたの。それでその、貴方にも視えているのか気になって」


凛としたハキハキとした声に加瀨はハッと我に返り、彼女の姿に見蕩れていたことを実感

し、頬を染めながら彼女に訊ねた。



「あの…あなたは誰ですか?」

こんな人見たことが無い、と加瀨は思った。


ここまで目を合わせられないほど可憐な人物を見かけたなら嫌が応にも記憶しているはずである。

ともすれば不思議であり不気味である、と頬を染めながら何を言うかという感じではあるが加瀨は若干の不信を感じていた。


それを彼女も感じ取ったようで、


「あら、名乗るのが遅れてごめんなさい。私は東堂…東堂悠璃。9月から転入することになったの。それで貴方の名は?」


と東堂は軽くペコリと頭を下げた。


「あ、俺は加瀨です。加瀨神太郎。ここの…鎌倉第一の2年生。」


後ろに佇む巨大な青少年教育施設たる高校を指差しながら、加瀨も頭を下げる。


「…あらそうなの。それなら…そう、これからよろしく加瀨君。」


にこりともしないその端正な顔立ちで挨拶を交わした後、


「それでもう一度聞くわね。貴方にもあの黒猫は視えているの?」

真っ直ぐに加瀨を見つめながら東堂は静かに訊ねた。


「どうしてそんなことを?」


「質問を質問で返さないでちょうだい。」


冷たく突き刺さるような剣幕で問いを跳ね返されると、うっと加瀨は言葉に詰まり、口を閉じたまま彼女の視線に耐えきれず顔を逸らす。


“なぜ視えるのか”


東堂は加瀨の先の一部始終を見たと言った。見た上でそう尋ねているのだ。

そして加瀨はその質問の真意を既に理解していた。


「答えなきゃ…いけないか?」


「ええなるべく…いや、ちゃんと答えて欲しいの。お願い。」


人には言いたくないと加瀨は常々思っていたが、ここまで詰問されるとそうは問屋が卸さないというものだ。

観念して加瀨は俯きがちに口を開いた。


「…ああ」


「そう、やっぱり貴方にも視えていたのね…」


東堂は路端に人為的に置かれたであろうカーネーションやガーベラの小さな花束をソッと見ながら、静かに呟く。

晴天だというのに、海岸から吹く風はやけに肌寒く感じた。


暫くしてから、また加瀨の方を向き直った。

最初は何か考えているようだったが、やがて

先ほどと同じく真っ直ぐな眼で見つめながらこう言った。



「加瀨君、貴方に頼みたいことがあるの。」

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