35話 不合理型強迫観念零式。
「わたしの頭は正常だけど?」
語尾が『?』なのかい。
しかし、おれもくだらないことで激しく反応しすぎたな。
「青山とデートし、その事実を桐澤にリークする。偶然を装いつつも、動かぬ証拠の形で。そうすることで桐澤の青山への好感度を下げ、堂上が略奪できる可能性を作ると。そういう計略だな?」
「そう、そう」
「却下する」
「なぜ?」
「なぜかというとだな……」
なぜだろう。
紗季が青山とデートするというのは、どんな目的があるにせよ、地味に不愉快だ。この感情に名称をつけよう。不合理型強迫観念零式と。
「よし考えてみろ。お前が青山とデートしたくらいで、桐澤の好感度が下がるかは分からないぞ。お互いに取り決めているかもしれないだろ。お互いに、異性とデートまでなら有り、と。それくらいの自由があったほうが、長続きするのかもしれんな。知らんけど。だから青山の好感度を落とさせるためには、もっと手ひどい裏切りをさせる必要がある。たとえば、青山が他の女子とセックスするとか。
紗季。お前、まさか恋愛相談を成功させるためだけに、青山と寝たりしないだろうな」
ここで「寝る」と言われたら、紗季の両肩をつかんで、激しく揺さぶる必要があった。「正気に戻れぇぇぇぇ!」と怒鳴りながら。
杞憂だったようで、紗季は首を横に振る。
「わたしの処女性は、そんな簡単には投棄できないわよ」
なんで『性』がつくんだろ。とにかく、ひとまず安心。
なぜ安心しているのかは、自分でもよく分からないが。いや、これがすなわち、友情というものか。友である紗季の身を、心配してやっていると。
わざわざ。
おれは友情に厚い男だったのだなぁ。
「じゃぁ、君がデートする?」
「青山と? バイセクシャルだったのか」
「違う違う。君がデートするのは、桐澤さん。そうよ。それが一番だわ! 紘一が桐澤さんを寝取ればいいのよ。で、がつんとエッチ。そうして桐澤さんをとりこにしたところで、無情に捨てるのよ。ハンバーガーのピクルスみたいに」
「お前、ピクルス食べないのか? あんなに美味いのに」
「とにかくね、紘一に捨てられた桐澤さんは、傷心。そこを堂上くんが慰めることで、次なる恋に落ちる──という算段よ。かくして恋愛相談は完遂。わたしたちは晴れて、missioncomplete」
詐欺だろ。どこからどうみても、詐欺だろそれは。しかも悪質な。
だが、そんなことよりも、この策略のひとつの要素が、おれには引っかかった。実に引っかかったので、変に動揺してしまった。
「まてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまて」
「何回『まて』と言ったか、わたしに当てさせる気? 16回ね」
「お前、おれが桐澤と、その、あれだ。セックスしても、気にはならないのか」
「ならない。まって。ちょっと興味はある。愛のないセックスって、大人っぽいわよね」
この女の両肩を揺さぶりたい。
そのかわりに、おれは宣言していた。
「おれはな、南橋志穂をデートに誘うからな」
「志穂さんを? いきなり話が変わったわね。けど、そうね。わたしに言えるのは、がんばってね紘一」
なんでこうも無性に腹が立つんだろうか。
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