34話「お前は頭がどうかしているのか?」。
妙な空気になった。
里沙いわく、おれと紗季とは思考回路が似ていると。
それはつまり、相性が良いということなのではないか。そう思って高い数値にしてみたが、紗季も同じ考えだったのか。
「相性が良いのは、いいことだ。殺し合うこともない」
「それはそうね。殺し合いほど無益なこともないでしょうし」
これでひとまず解散となった。
はっきりしたのは、とくに興味のない堂上や青山の数値化などできるはずもないということ。そもそも、そんなことで脳を使いたくもないと。
自分でいうのもなんだが、ロクでもない相談相手だなぁ。
その日は、漫然と過ぎていった。
やろうと思えば、いろいろなことができたのに。
相田から北門薫について、もっと聞き出すこともできた。みずから北門薫を訪ねることもできた(クラスは分かっているのだから、教室の奴に『北門薫さんを呼んでくれる?』で済む)。
または南橋志穂のもとに行くこともできたし、なんならデートに誘うこともできた。断られたら、3階の窓から飛び降りることもできた。
しかし実際は、何もしなかったわけだ。こうして無駄に一日が終わっていく。
だけど毎日、何かしら有意義に生きねばならない、と誰かが決めたわけでもない。それにまだ半日残っている。
今日は早く帰宅して、ずっとやりたいと思っていて、いまだにやっていないことをするのだ。たとえば──たとえば…………いまさら『イカゲーム』を見るとか。
気づいたらホームルームが終わっていて、クラスの半分は教室から消えていた。相田の奴までいない。薄情者が。
鞄をもって廊下に出る。何かが走ってきたと思ったら、紗季か。頬を紅潮させ、瞳をきらきらと輝かせている。
「紘一、紘一。いまさっき面白いことがあったわ。何が起きたか当ててみて」
ヒントもなく、いきなり『当ててみて』と言われた場合。相手はまず間違いなく、当てられることを期待してはいない。
そんな前提があるからか、おれは無性に当ててやりたくなった。
考えてみよう。最大のヒントは、実際に紗季が興奮している、ということだろうか。
つまり本当に『面白いこと』が発生したのだ。ただしそれは、紗季の価値観にとっての『面白いこと』。
さらにいえば、紗季とおれの関係性にかかわること。
ようは青春とか、それと密接にかかわっていることだな。まったく無関係なこと──たとえば学校のプールで河童の水死体を見つけた、とかでは、わざわざおれに報告しには来ないだろう。
そこまで考えたとき、ふいに朝の会話が思い出された。紗季に対してつけたステータス数値。容姿は90。校内でも有名な美少女。
「青山がデートに誘ってきたんだな!」
「どうして分かったの?」
「灰色の脳細胞のおかげで。それで、なんて答えたんだ?」
「オーケーした」
向う脛を蹴られたら、誰でも「痛い」と言う。そんな感じで、おれは口にしていた。
「お前は頭がどうかしているのか?」
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