33話 ステータス数値化。



 首尾の本題に入るとしよう。


「桐澤は、彼氏の青山なんたらとは、別れる気配はないようだ」


 紗季が溜息をつく。


「青山稲穂くんね。下の名前さえ入手できないって、どれだけの情報惰弱ぶりよ」


「言ってくれるね。で、どうするんだ? 桐澤と青山が破局してくれないことには、堂上にはチャンスがないぞ」


「略奪するのだから、必ずしも彼女らが破局する必要はないでしょう。ようは桐澤さんにとって堂上くんの価値が、青山くんを上回ればいいの」


「どうすれば、人の価値を決めたりすることができるんだ?」


 紗季は視線を天井に向けてから、何やら観念するように言う。


「わたしたちは、恋愛というのをあんまり分かっていないわよね? 恋する感情というものが、ちゃんと理解できていない。だからこそ、数値で見るべきなのよ。RPGでいうところのステータス。これの総合数値で、堂上くんが青山くんを上回ったとき、わたしたちの勝利となるわ」


「勝利? これって勝敗の話なのか?」


「ゲームならば、勝敗は決めるものでしょう?」


 恋愛相談の解決を、ゲームと解釈する。こういうところで、紗季はみずから、青春を体感できる権利を放棄しているのでは? それとも、しょせん青春もゲームなのだろうか。


「ステータスの種類はどうする?」


「そうね。まずお互いに高校生という身分は重要よね。たとえばこれが大人だと、経済力は重視したいところでしょうけど」


「とはいえケチ臭いのはダメなんじゃないか。おれにコーヒーを奢らなかったお前とか」


「細かすぎるのもダメよね。わたしが奢る必然性がなかったというのに、いまだに根にもっている、いまの紘一のようなね。そこは性格に当てはまるわ。性格の良しあしね」


「いきなり数値化不可能なことを言いだしたな。性格なんて、ある程度は相性で決まるだろ。何より、おれもお前も、青山や堂上のことをよく知らない」


「分かったわ。なら、まずはわたしと君、お互いの数値化をしてみましょう。練習がわりに」


「項目は?」


「性格、容姿、相性、将来性、あとは──青春力。数値は0~100で。ちなみに性格と容姿は客観性と好みをおりまぜて。相性は、これは主観によるわね」


「まてまて。青春力というのが0で決まりなのは間違いなしとして。将来性って、なんだ?」


「カップルというものは、この恋が一時的なものだとは、少なくとも気分的には思いたくないでしょ? 現実はともかくとして、大好きなあの人と一生を添い遂げたいと思うはず。そうなると経済力とまではいかないけれど、ある程度の将来性も大事になってくる。ダメな配偶者を養うハメにはなりたくないはず」


「まぁいいや。じゃ、やってみよう──はい、出た」


「早いわね。けど、わたしも計算は済んだわ。お互いに一つずつ発表していきましょう。まず性格ね。同時に言いましょう。せーの」


「55」とおれ。

「13」と紗季。


「……なんだ13って。おれの性格悪すぎだろうが」


「君の付き合いの悪さとか、他人を疎んじるところとか。そんなことより、わたしの数値が思ったより高かったわね」


「外面はいいからな、お前は。無難な友達づくりや、適当にコミュニケーションをとったりは、熟練の技だ」


 と言いつつも、それって『性格』というよりも『社会性』なんじゃないか、という気がしてきた。それを言うなら紗季が、おれのたった13について解説した中身も、『社会性』のようだったが。


「つづいて容姿ね。せーの」


「90」とおれ。

「80」と紗季。


「あら、わたしのこと高評価ね」


「客観的事実を盛り込めというのなら、お前は美少女ということになる。というか、おれが80というのは高すぎやしないか」


「紘一って、格好だけなら悪くないのよ。もっと、こう人間的魅力があったら、きっとモテたわよ」


『人間的魅力』がないって、それはもう致命的じゃないか。


 つづいて将来性を済ませたところ、お互いに50という可もなく不可もなくだった。


「紘一って、たぶん『その他大勢』な生き方をすると思うのよ。それはそれで、とても大切なことよ」


「紗季。お前はきっと、将来、何か大胆なことをすると思うよ。『その他大勢』の枠から飛び出して」


「あら、ありがと」


「しかし衝動的すぎるため、最後には大失敗をするに違いない。頑張れ」


「将来の失敗を、いまから励まされたくないのだけど」


 最後に相性を済ませることにした。

 青春力の項目は、どうせお互いに0だろうし。


「90」とおれ。

「90」と紗季。


 しばらくお互いに見つめ合ってから、おれたちは「えっ」と声をあげた。


「わたしたちって、相性抜群だったの?」


「驚きだな」

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