28話 「完璧なプランだな、相棒」。



「堂上くん。あなたは運がいいわ。

 ちょうどわたしと紘一は、難しい案件を片付けたところだったのよ。だから、あなたの恋愛相談に全力を注げるというわけ」


『難しい案件』というのは、南橋志穂の件だろうか。

 考えてみると志穂の場合、あれは恋愛相談とは言えないものだった。恋愛相談に偽装しての、告白。それも玉砕することが前提の、ある意味では安心安全な告白。今回の堂上の恋愛相談が、紗季への告白だったら、面白いなぁ。


「好きな人がいるんだ」


 と、堂上が妙に甲高い声で言った。もともと声がわりが不完全な声音だったが。緊張しているのだろうか。


 おれは右ひじで、堂上の脇腹をつついた。それから紗季を箸で示す。紗季は「人さまを箸で指さすとか、失礼よ」とのこと。


「堂上、好きな人というのは、彼女のことか?」


 おかしな言語でも聞いたように、堂上は変な顔をした。


「西塔さんを? だって西塔さんは、東城くんの恋人じゃないか。だいたい好きなひとが西塔さんだったら、君たちに恋愛相談するのはおかしいし」


 正論だなぁ。ところで堂上の認識では、おれと西塔はまだ付き合っていることになっているらしい。


 しかし堂上にとって、おれたちは何に見えているのだろう。まさか恋愛のプロフェッショナルに見えているわけではあるまい。

 だいたいフェイク混みの噂のせいで、紗季は寝取られた身だし。

 まてよ。おれは浮気男じゃないか。紗季と別れたことを、ちゃんと告知しておかなければならないな。いやその必要はないのか。もう志穂とデートすることはないのだから。

 なんだろう、このモヤモヤした感じは。


 おれがスッキリしない気分でチャーシューを齧っている間にも、紗季は話を進めていた。


「好きな人というのは、誰のことなの?」


「1組の桐澤さん」


 ここで南橋志穂とか北門薫(ところで男子なのか? 女子なのか? 名前だけだと、どっちでも有りだよな)が出てきたら、面白かったんだがな。


 ところで意外なことに、おれは桐澤という女子のことを知っていた。同じクラスなのだから当然かもしれないが──いやいや、我ながらたいしたものだと思うね。


 そういえば桐澤といえば、サッカー部の青山とカップリングしていたような。


「堂上、桐澤には恋人がいるぞ」


 驚いた様子もなく、堂上は強くうなずいた。


「そうなんだよ」


 承知の上だったのか。だから恋愛相談なのか。

 ──好きになった子には、彼氏がいました。どうすれば良いのでしょうか? と。

 おれの解答は──『潔く諦めなさい』。

 だが──脳裏に、なぜか南橋志穂の顔がよぎった。


「その桐澤さんの恋人というのは?」


 と紗季が、おれに尋ねてくる。


「青山って奴」


「では、計画はこうよ。わたしが青山って人を誘って、ひと気のないところで二人きりになる。青山って人が、わたしの色香にのまれて襲ってきたら、そこを隠し撮り。それから紘一が駆けつけて、青山って人をひととおりボコる。あとは、わたしを襲った証拠動画で脅して、桐澤さんと別れさせる」


「もっと簡単な手がある。青山はサッカー部なんだ。レギュラー争いしているくらいうまいらしい。だから奴のアキレス腱をサバイバルナイフで切断してやったら、レギュラーは絶望。青山はショックで落ち込み、精神を病み、ドラッグに溺れることだろう。そうしたら、桐澤も青山に呆れて捨てるはず」


「まって。桐澤さんが世話やきだったら、逆効果になるわ。青山くんには、ドラッグの事故で死んでもらいましょう」


「青山がダークウェブ経由で購入したドラッグに、悪質なものを混ぜるとしよう」


 紗季が右の拳をつきだしてくる。


「完璧なプランね、相棒」


 おれは身を乗り出して、紗季の拳に自分の拳をあてた。


「完璧なプランだな、相棒」


 それから、唖然としている堂上に言っておく。


「念のため言っておくが、ぜんぶ冗談だからな」

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