17話 「えっ」。
南橋志穂と会った。
紗季とはまた違った、美少女。
優しそうな雰囲気は、性格が表出しているのだろうか。ふわふわした柔らかそうな髪の毛は──むかし我が家で飼っていたトイプードルを思い出させるな。胸は紗季より大きい、念のため。
いまは放課後。場所は空き教室。彼女が紗季への恋愛相談時に交換した連絡先で、呼び出させてもらった。
結局、紗季とは『契約によるカップル解消』を行った。これは双方の合意にもとづいて行われたものであり、どちらがどちらを捨てた、ということにはならない。
紗季の企みにのっかった、というより、里沙の助言を思い出したのだ。紗季はおれを開眼させた(少しではあるが、確実に)。紗季のおかげで、おれは少しだけ前向きに、青春というものにトライしてみようと思ったわけだ。
とはいえ、紗季が『同じ穴のむじな』であることに変わりはない。ある意味、紗季のほうが末期といえる。ならば、ここは距離を取るべきなのかもしれない。かくして『契約によるカップル解消』。
しかし、いざ南橋志穂を呼び出して、どうしたものか。
告白されるのを待つのか。まてよ。おれは彼女のことを好いているのか? 好きでもないのに、青春のため(または紗季の企みのため)、告白を受けるというのも不義理なような。
いやまて、相手のことを知らないところから始まるカップルだって、大勢いるに違いない。それら全てが不義理ということにはならないだろう。
「実は、西塔紗季と別れたんだ──どちらが捨てたとかではないよ」
「えっ」
南橋志穂は口に手をあて、凍り付く。
『それは困る』と言わんばかりの反応。別に小躍りされるとは思っていなかったが、この反応も想定していなかった。では、どのような反応があると思っていたのだろう。
「あの、すいません。もしかして、私のせいでしょうか?」
「何が?」
「えっ」
またも凍り付く。ここでおれが『何が?』と返すとは、夢にも思わなかったらしい。
「……あー、西塔紗季と別れた、ことについてか」
なるほど、なるほど。南橋志穂の反応の理由がわかった。
紗季の読みでは、こうだった。
──南橋志穂は自分の片思いに結末をつけるため、恋愛相談という形で、『東城紘一が好き』と紗季に告白した。この読みについては、我がカウンセラー兼妹の里沙も異論はない。
ところが、おれと紗季が別れてしまった。志穂さんとしては、自分の余計な告白のせいで、二人に不和を産んでしまったのではないか、と心配しても当然。
実際のところ、志穂さんの恋愛相談が、『契約によるカップル解消』につながったのは事実。ただし、それは志穂さんが罪の意識を感じることではない。状況は刻一刻とかわる。
恋しているわけでもないおれと紗季は、新たな青春の可能性のため前進したに過ぎないのだから(後退でないことを祈る)。
とにかく、こちらとしてはあまりに当たり前すぎて、志穂さんの心配を理解するのが後れてしまった。
「いや 志穂さん。あなたのせいじゃないよ。ところで、おれたち付き合う?」
「えっ」
今日、二度目の『えっ』、いただきました。
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