第14話【子爵令嬢フローラの実力②】

「なんだガキじゃねぇか!? 今のはお前がやったのか!?」


 別の男が叫ぶのを冷めた目で見るフローラが魔法を唱えた。


「イリュージョン・シーケンス・ファイアボール」


 力ある言葉と共に百を越える炎の玉が男達を取り巻き、空中で静かに漂っていた。


「うわぁぁぁ!? なんだこの数のファイアボールは!? こんな数の制御なんて大魔道士でも無理だ! このガキ、とんでもないバケモノだ!」


 男達は逃げる事も出来ず、ただ呆然と炎の玉を見つめて次々とその場にへたりこんでいった。


「ダークバインド×10」


 その時、別の方向から魔法を発動させる声が響いた。


「うわぁ!? なんだこの影は? 絡みついて身動きがとれねぇ!?」


 魔法の発動からわずか数秒で地面から現れた黒い影は男達を絡め取りその場に抑え込んだ。


「えっ!? この魔法は私のじゃ無いわよ?」


 イリュージョンの魔法制御に手一杯だったフローラは一瞬何が起こったのか理解出来なかったが次の瞬間に聞こえてきた拍手の音と聞き覚えのある声に全てを理解した。


 パチパチパチパチ


「素晴らしいですね。さすがフローラお嬢様です。でも最後の決め手にかける使い方はひとつ間違えると大怪我をしますので気をつけくださいね」


「アリオン!」


 学院長室を飛び出した僕が訓練場に到着した時には既にフローラがイリュージョンでファイヤーボールを生み出した後だった。


 正直言って殺傷能力の低い魔法しか習得していない彼女が盗賊達相手にここまでやるとは思ってなかった僕はかなり肝を冷やしたのも事実だったがそんなことは顔には出さずに優しく微笑みながらフローラ嬢を迎え入れた。


「しかし、結果的にはお嬢様のおかげで怪我人もなく皆助かったのですが、無茶をし過ぎですよ。お嬢様に何かあったら僕が領主様に殺されますからもう少しだけ自重をして頂けると嬉しいです」


「あはは。ごめんなさいね。目の前であんな事になってしまって咄嗟とっさに体が動いてしまったの」


 彼女はイタズラがバレて叱られた子供のように振る舞うと僕の顔を見て笑った。


「わぁぁぁ!!」

「助かったの!?」

「良かったぁ!」

「怖かったよぉ!」


 子供達は口々に叫び、手を取り合って喜んでいた。


「一体なにが……」


 ようやく大人達も状況を把握すると男達を捉える護衛達、慌てて学院長に報告に走る教師達と試験どころではなくなっていた。


 ――数日後に実技の再試験が学院の訓練場にて行われたがそこにフローラの姿は無かった。

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