第3話【子爵家の屋敷にて】

 ――その日の放課後、僕は学院から渡された依頼書を持って指定された子爵邸に来ていたが門前にて警備の者と問答を繰り返していた。


「だからこの依頼書を見てくださいよ。学院から正式に発行されているものですから。それに学院から僕が来る事を事前連絡してあるはずですのでその確認をしてみてください」


 僕が何度も繰り返して依頼書を提示して説明しても、門番の男は首を縦に振らない。


「確かに学院からお嬢様の家庭教師を派遣してくるとの連絡はあったが君のような子供が来るとは聞いていない。学院がカリオスト子爵様のご令嬢に対してこのような子供を寄越すとは考えられない。その依頼書も何処かで盗んだか拾ったのではないのか?」


 この繰り返しである。正式な依頼書を持参している僕を疑って通さないとか真面目を通り越して使えない人物なのだろう。


 何度目かの受け答えに疲れた僕はとうとう切り札を切る事にした。


「仕方ありませんね。では僕は学院に戻ってこの事を報告させてもらいますよ。依頼主に会いに行ったら門番の人に追い返されて会わせてもらえなかったと。依頼は受付不受理で依頼主からのキャンセルをしたと報告を上げさせてもらいますね」


 それを聞いた門番は顔をしかめながら「ちょっとここで待て」と言い残して詳細を確認しに門の中に入って行った。


 門番の男は数分で戻り「依頼書を出せ」と言い、渡すと受け付けのサインをして戻してきた。


「学院がこんな子供を寄越した事には大いに不満だが依頼書は本物のようなので仕方ない、ここから真っ直ぐ行くとお屋敷の正面玄関だ。その右手に業者用の入口があるからそこにいる者に依頼書と内容を告げてから指示を仰げ。いいか変な行動はするんじゃないぞ」


 僕は書類を受け取ると、ものすごく失礼な門番をスルーして指示された入口に向かいそこから屋敷内の応接室に通された。


(すでに疲れたな。でも今から会うのは子爵家当主だから失礼な事をすれば不敬罪もありうるから気をつけないと……)


 僕が気を引き締めなおしているとドアが開いて先ほど僕を案内してくれた執事の男性と壮年の男性、そして幼い女の子が入ってきた。


「アリオン・メビウスと申します。この度は学院よりお嬢様の家庭教師の依頼を命じられて参上致しました。こちらが依頼書になりますのでご確認をお願い致します」


 僕は先に挨拶をしてから依頼書を提示し、ゆっくりと丁寧なお辞儀をした。それを見た男性が頷くと話を始めた。

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