第39話 ラングワース武芸大会

 翌日、つまり武芸大会当日のこと。


 ヒーラーによる治癒魔法ですっかり回復した歳三ではあったが、かすり傷がほとんどで体調的な問題は解消されていた。


 だが、普段から着ていたあの軍服は大規模な直しが必要なため、かねてより茂木が用意していた羽織と袴を身につけさせられてしまった。


 「やはりお似合いになりますね」

「まあ着慣れたものではあるからな……左三つ巴の紋までとは、瑞萌の入れ知恵であろうな」

「まあよくご存じで。はい、これをどうぞ」


 さすがに堂に入っている。

 出発前に見送りの人々が集まってきたが、室岡たちが口々にやはり普段着にしていた人は着こなし方が違うと持ちあげていた。


 今日が予選。明日が決勝ラウンドとなっており、ラングワースの住人たちも久しく街が物騒だったこともあり楽しみにしている人も多いようだ。


 露店が多く立ち並び、こうした光景を見るだけでも苦労して討ち入りをしたかいがあったものだと思えてくるから歳三も不思議であった。

 京では恐れられ、忌み嫌われ、恨まれ、さらには利用される日々であったことを思えば、随分と毛色の違う家業になったものだと感慨深くもなる。


 誰か一人が優勝し魔法の袋を手にすることが目標となっているが、日本人同士で当たった場合については歳三は指示を出してはいない。

 理詰めでいくならば、こちら側の剣技を懇切丁寧に披露することもないのでどちらかの棄権でよいのだが、当人同士で納得しなければ禍根にもなる。


 当たらねば楽なのだが、そう思いながら各自支援組織のない個人参加という体で参加登録の窓口に並んだ。


 ◇


 日本人村からは数名が代表として見学に来ているが、選手を組織的に送り込んだという噂は避けたいところなのでマキナ、室岡や唐沢、治療サポート役の美咲と昇司、それと実来と愛美を歳三が招待していたというから、マキナもこれには驚いていた。


 「レナスも行きたがってたけど、エルフの女の子は誘拐されやすいからって歳三が許可しなかったみたい」

 「私もいきだがっだああああああああああ!」


 あれだけ不愛想で愛嬌のない歳三ではあるが、意外にも子どもたちに好かれることが多い。特にレナスは助けてくれた恩人であることもあるためか、個別に剣を教えてとせがまれ、最近では実来や愛美と一緒に短時間ではあるが、面倒を見ている。


 歳三は幼少期から年下の面倒を見ることが多く、薬草の刈り取り、道場での指導などで関わっているから、下手な教師より子供たちの心を掴むのがうまい。


 あまり多くは語らないが、指導の緩急をつけたり褒め方が絶妙であると室岡が唸っていたという。


 

 ◇


 会場は魚の目玉にあたる位置にある闘技場遺跡で行われた。ここはオークション会場や演劇など多くの催し物が行われる円形広場が複数あるため、武芸大会に適した造りになっている。


 会場に到着するとさっそく甲斐がこっそり近づき、和風の装いに世辞を伝えてきた。

「先生、さすがにお似合いですね。俺はAブロック、先生はDブロックなので決勝まで当たることはなさそうです」

「他の者たちはどうなっている?」

「さっそく不破の奴が勝ち上がっていますよ。あいつはBブロック、うまくばらけた感がありますね」

 

 甲斐は歳三と会話できるのがうれしいのか、ニコニコとご機嫌な様子。待機している参加者を見渡してみると、意外にも女性の姿も多い。


 剣士系もいるが、魔法使い系の参加者の数も多く見える。対魔法戦闘であれば、勝手が違ってくるから当たることになるやもしれない。

 

 30分ほど待機していると歳三の番が訪れた。相手は冒険者ギルドのAランクパーティーに所属している有名な剣士らしい。


 試合会場は、中高の体育館ほどの大きさを円形にしている程度の広さであり、魔法使いでも間合いを取って戦えるよう想定してあることは明白だった。


 「奇妙な恰好! 男のくせにスカートはいてるのかよ! うわぁだっせええ!」


 いきった色男風、な剣士だった。木製の片手剣と小型盾。


 長い金髪で容姿にも自信があるのだろう。会場から黄色い声援が飛んでいた。

「まあ、すぐに俺がぼこぼこにしてやっから、降参するなら今のうちだぜ?」


『土方さまあああああああ! がんばれええええええ!』


 イキリ剣士の時とは比較にならない黄色い声援に、多くの観客たちまでどよめいた。


 なんと、ギルドの受付嬢やウェイトレスたちが応援団を組んで応援に駆け付けていたのだ。

「目立たないようにしてたものを……」


「てめえ、ぶっ殺してやるから覚悟しとけ!」


 イキリ剣士は、魔法剣士であったらしい。

 自らの木剣へ氷魔法を付与し、猛然と斬りかかってきた。

「うりゃあ!」

「気組がなっておらん!」

 つい剣術教練の癖が出た。


 魔法剣へ依存した工夫も技巧もない薄っぺらな面撃を、歳三は後から繰り出した剣撃で見事に撃ち落としてしまった。


「うがああ!」

 たった一刀で木剣を叩き落とされ、へたり込んだイキリ剣士の喉元へ木刀を突きつける。

「続けるならば剣を取るがよい」

「い、いえ、ま、参りました」


 意外にも引き際が良い。なんどか転びながら奴は会場からそそくさと逃げ出してしまったそうだ。


 難なく一回戦を突破した歳三だったが、あの応援団をなんとかせねばならぬと誰かを使いによこそうかと思案したその時、昇司が目の前に姿を現したのだ。


 「先生、そろそろ声がかかるのではと思いやってきました」

 「助かる。用向きは理解していようか?」

「はい。あの応援団の処置ですね?」

「うむ。あれはさすがにかなわん」

「では、ギルド本郡から緊急招集というウソの情報を伝えてきます」

「仔細は任せよう、感謝する昇司」

「そ、そんな、ありがとうございます!」


 得難い男だと、歳三は昇司を評価している。細々とした気遣いと大胆な行動ができる逸材であり、つい歳三も頼りにしすぎると自らを律しているほどだ。


 これで一安心……と思ったのも束の間。


 次の対戦相手を見て、思わず溜息が出てしまう歳三だった。


「うげえ! こっそり出場してみたら、何で二回戦で先生とあたんだよ!」

「太田……、そこまで俺の邪魔立てをするつもりならば容赦はせぬぞ」

「や、やべっ! べ、別に田村っちに出場しろって言われたわけじゃないっす! 賞金少し欲しかっただけですから!」


「問答無用」


 結果は散々。試合開始後、歳三の面撃を木刀で受けたまでは褒められたが、そのままへし折られた勢いで面を打たれて昏倒してしまう太田。

 だが、反応できたのはさすがと言える。


 その後も歳三は順当に勝ち抜き、明日の決勝ラウンドへの進出を決めた。

 試合による手傷どころか、かすりさえしていない実情に一部では注目されつつあるらしい。


 あたまに大きなたんこぶを作ってからかわれている太田はともかく、不破と米倉は決勝ラウンドへの進出を決めたのだが……


 新選組隊士の中で最も腕が立つと言われた甲斐が、予選最終戦で敗れるという波乱が起きていた。

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