第五章 過去と未来
第38話 「 いつか来る日のために 」
基本的には歳三がいなくても、日本人村の日々は滞りなく過ぎていく。
錬金術師の二人が素材用の獣脂と植物繊維集め精製の指揮を取ってくれているので、唐沢は弾丸の素材になる鉛やニッケル、鉄などの金属類の確保に励んでいた。
「 いつか来る日のために 」
気づいたら、皆がそう口に出すようになっている。生きるために使っていた力を、抜け出すために、抗うために使いだすようになってから皆の目付きが変わっていく。
保護した日本人はラングワースの商店や飲食店、武器防具の店に契約料を払った上で日の丸の国旗や誠の旗印を立てておくことで、店主や店員に話しかけてくる日本人を日本人村へ紹介してもらう仕組みができつつあった。
案内してくれたら礼金を払うことで、小遣い稼ぎになると商人たちに広まっていき、ラングワース郊外で発見した場合も、冒険者が礼金目当てで連れて来てくれることも多くなってきた。
こういうことも、歳三の配慮から生まれたものであった。
マキナは大会出場の準備で医薬品や唐沢と一緒に日本人参加者にあった防具を揃えるなど、忙しく動いていた。
だが、隠してはいたものの大いに不満がある。
「なんで私を連れてってくれないのよ。どうせ修行でしょ? 私だったらきっと……」
つい独り言をこぼす程度には、苛立っているマキナ。
そんな彼女を癒してくれるのは、先入観なく抱き着いて遊びをせがむ、あのレナスの存在だった。
ダークエルフとエルフでありながら、同じエルフの系統であるためどことなく一緒に過ごすことが多い。
なんとなく姉になった気分であるため、自衛用の呪文などを教えてはいる。
だがこのレナスというエルフの幼い少女の魔力量に、マキナは思わず溜息をもらしそうになった。
尋常ではない。大貴族や宮廷魔導師クラス、いやそれ以上は軽くあるほどであり、ヴァール帝国が拉致したというからには何かしら、特殊な理由があるとマキナは睨んでいた。
だが、そんな危惧を吹き飛ばしてしまうほどにレナスは特に歳三とマキナに懐いた。
こんな風にエルフとダークエルフが仲良くなれる日が、来たら良いのに。
マキナにとってはエルフ以上にヴァール帝国への憎しみが強すぎるため、そう思えたのかもしれない。
不破と甲斐は新選組きっての腕利きへと成長中である。大会に向けての練習にも気合が入り、米倉はなどは殺すつもりで撃ち込んでこいと、歳三がいない分を埋めようとしているようであった。
不破健介は19歳、大学生の剣道部出身だった。クラスは ブレイドファイター。
その土台もあってか、歳三のしごきによりさらに腕を上げている。
歳三とはまた違った良い男で、女性たちからの人気も高い。
家は裕福らしく、嫉妬や妬みとは無縁の生活をしてきたため陰がなくふわりとした印象を与える。
甲斐修平は20歳 クラスは ソードマスター
高校卒業後に警察官採用試験に合格し、高校から続けていた剣道のおかげか新選組にて、不破よりも腕が立つという評判だ。
職務的にも、新選組の指揮官として期待されている。
性格は意外にも明るくひょうきんで、ムードメーカー。元警察官ということもあり、自然と頼られる兄貴分の性格だ。歳三からの信頼も厚く、修平自身も日本に帰っても歳三が上司だったら! を公言しているほどに慕っている。
この二人は互いにライバルであり、非常に馬が合うため切磋琢磨している。
日本人村でも二人に対する期待は高い。
新たに保護した日本人の中でも、若く戦闘クラスを所持する者はやはりそれなりに戦いへの抵抗があまりないタイプが多いようであった。
戦闘狂というよりも、異世界で生き抜くためならば柔軟に対応すべきという感覚の持ち主が多い。
本来冒険者の中では、斧使いやアックスファイター、短剣使い、槍使い、槍術師などのクラスを持つ近接職は多いのだが、日本人に限ると、近接職は剣を扱う、扱える職が大多数を占めるというのが実態だった。
サムライの国であるからこそ、刀に憧れる男子が多いのもその証拠かもしれない。
僅かに剣以外の近接職としては、槍使いが数名と、武闘家という空手と柔道の有段者が一名。
意外にも、近接職と後衛職の比率は 4:6 で後衛のほうが多い。
魔法使い系、精霊術系、召喚系、ヒーラー系、ドルイド系、神凪系、賢者系、符術系 など多岐にわたる。
全体的な戦闘職と生産職の比率は 6:4 やや戦闘職のほうが多いものの、生産職は日本人らしい緻密で繊細な仕事から、市場ではかなりの収益を得ており戦闘職の支援や日本人村の経営の大きな収益を占めるに至る。
最近では日本人保護のための受け入れ班を常設し、ほぼ毎日のように現れる彷徨える日本人たちを保護していた。
当然、説明しても聞き入れず、いきって外へ飛び出し逃げかえってくる者がいたものの、日本人村の人員は着実に増えつつある。
そう新選組も。
例の武芸大会まの前日になっても帰ってこない歳三に、マキナや夏恋、瑞萌たちは焦りを通り越し、万が一何かあったのではないかと捜索隊の手配をするべきかを議論していた。
そんな中、旅塵に塗れ傷だらけになった歳三が帰還したのは、日も暮れようとしていた時刻のこと。
「歳三のばかあああああ!」
マキナはこれでもかと、どれだけ心配したか、一言ぐらいちゃんと告げてから出かけなさい、行先は伝えなさいと、もう最後には泣きながら説教というか不満や愚痴、という名の寂しさをぶつけまくった。
「いや、そのすまなかった」
「どんだけ心配したと思ってるの! もう、こういうことしちゃだめだからね!」
「き、肝に銘じよう」
それからは傷の手当やら、ぼろぼろになった軍服の補修を依頼したりとマキナは今まで歳三のために動けなかった鬱憤を晴らすかのようにそれはそれは、甲斐甲斐しく動きまくった。
瑞萌と夏恋も歳三に声をかけようとしたものの、駆けずり回って世話を焼くマキナを見ていてるとこれは近づけぬと、遠巻きに眺めながら安堵と寂しさの混じった溜息をつくのだった。
「お母さんじゃん」
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