幼なじみのお姉ちゃんが家に泊まる?
あ、あ、あ……この子の名前は成瀬川楓……ナルセガワカエデだ。子供の頃によく遊んだ女の子だ。カエデは俺より2学年上の大学生だった。俺はよく楓姉ちゃんと呼んでいた。楓姉ちゃんは大学生だった。
「久しぶりだね。ユウくん。元気してた?」
楓姉ちゃんは俺に胸を押し付けてくる。
「楓姉ちゃん。久しぶり……だけど、もう胸が当たってるからもうそろそろ……」
俺は楓姉ちゃんの背中を軽く叩く。てか、メチャクチャ胸を押し付けられているんだが。
「胸当てなきゃ抱きしめられないじゃん!」
楓が怒ったように言う。そしてまたギューーーっと俺を苦しいほどに締め付けてきた。
「降参。降参」
俺は笑って背中を叩く。
そして楓姉ちゃんと俺の体は一旦離れたと思いきや……
「もう一回!」
と楓姉ちゃんはまた俺に抱きついてきた。
「本当に久しぶり!」
俺は楓姉ちゃんにそう言う。
「うん……」
「もうそろそろ……」
「ダメ」
「……」
「いたたたた!!」
「これくらい強く抱きしめた方がいい?」
俺は楓姉ちゃんをバックブリーカーばりに強く抱きしめた。そこから逃れようと足掻く楓姉ちゃん。
「ちょっ! やめて! ホントに!」
「そっち側が抱きついてきたんじゃん」
俺はふざけたように言う。
「ちょっともう離して!」
なんだか楽しそうに楓は言った。それで俺は楓を離す。
「いた……はぁ……はぁ」
「はぁ……はぁ」
ガバッ!
っとまた楓姉ちゃんが俺に抱きついてきた。いや、これは締め付けてきた!
「私の方が力が強いもん!」
負けず嫌いだ。楓姉ちゃんは俺を腕で締め付けてくる。
「分かった降参! 降参!」
俺は笑った。
◇
俺たちは夕ご飯を一緒に食べていた。
「あれ? ヒナちゃんは?」
一緒に食べないの? というような感じで買え姉ちゃんは俺に聞いてきた。ヒナの分のご飯がテーブルに置いてある。
「たまーに朝ごはんを一緒に食べられるレベルだから仕方ないよ。俺たちがいなくなればそのうち降りてくる」
俺が言う。
「そっか……ヒナちゃんも大変だね」
楓姉ちゃんはそう言った。
「だろうな」
楓は部屋に閉じこもってインターネットばかりやっている。ネットを解約すれば部屋から出てくる。のかも知れないが、それをするとせっかく築いてきた信頼関係が破壊されるだろ。
「ネット解約するとか?」
楓姉ちゃんが提案する。
「ま、それも家族で考えたよ。だけどヒナにとってネットが唯一の外との窓口なんだよな。それを遮断するのはなって感じになって。ネットやりたいから体を売る可能性だってあるからな。ちゃんとご飯食ってたらそれでいいよ」
俺は言った。
俺たち3人は子供の頃よく遊んでいた。楓姉ちゃんが引っ越して俺たちは二人になったが。それまでは楓姉ちゃんをリーダーとしてここら一帯を遊び回っていた。ま、俺が陰キャに墜ちる前の話だ。
「そっか。そうだよね。ヒナちゃん可哀想だよね」
と言って楓は笑った。
「楓ちゃんはいつまでこの家に泊まるつもりなの?」
母親が楓に聞く。え? 泊まる? どういうこと?
「うーーん。一週間くらい泊めていただこうかと」
楓姉ちゃんが母親に言う。
「え? 楓姉ちゃんが家に泊まるの?」
俺は焦りながら聞いた。
「うん! そうだよ! よろしく」
楓姉ちゃんは微笑む。おぉマジか……俺はドキドキしてきた。脳内がなんだかエロい妄想でふくらむ。いやいや、駄目だぞ。あいてにも彼氏くらいいるだろう。自重しろ。俺。
「それで結婚式はいつやるんだい」
母親が聞く。え?
「三ヶ月後にやるつもりです。式場の予約が取れたので」
楓姉ちゃんが答える。え? 結婚式? 式場? なんの話?
「……えっと結婚って誰が?」
俺が聞く。
「ん? 私。私が結婚するの」
と楓姉ちゃんが普通のテンションで言ってきた。俺は箸を持つ手が止まる。え?
「いやぁでも相手の方結構歳上なんだろ? ちょっと心配だよ。上手くやっていけるか」
母親が言う。
「一度お会いしたけど優しそうな方でしたよ。逆に私が迷惑かけないか心配で」
と微笑みながら楓姉ちゃんは言う。
「ちょっとヤダーあんたどうしたの? さっきから動きが止まってるじゃない! ショックだった? 楓姉ちゃんが結婚するの」
母親は俺の表情を見て笑った。どうやら俺はショックを受け全身がピクリとも動いていなかったようだ。
俺の表情を見て楓姉ちゃんは気まずそうに笑う。
あ……うん。そうか。結婚するのか。いやいや、ま、仕方ないんじゃね? 俺には関係ねーし!
「だからあんたキレイになった楓姉ちゃんを口説いたりしたら大事だよ! 気をつけなさいね!」
母親が言う。
「大丈夫ですよ。ユウくんは真面目な子だから。浮気とかするような子じゃないので」
と楓姉ちゃんは笑って言った。
「……」
「あ……あの」
俺はやっとのこと言葉を絞り出した。
「楓姉ちゃんはその人のこと好き……なの?」
なにを聞いてるんだ。俺は。好きだから結婚するに決まってるだろ。
「んーー……好きだと思う。優しそうだし。お金持ちの人だし」
楓姉ちゃんはそう俺に言った。
「そっか……そっそれならいいや」
俺は言う。
「うん。応援してくれてありがと」
楓姉ちゃんは笑って言った。
「またヒナちゃんと3人で遊びたいね」
楓姉ちゃんは言った。
そうだ。俺たちは子供の頃よく遊んでいた。それこそ毎日が楽しくて大人になってもこの友情が続くと思っていた。
それが少しずつ変わっていった。残念ながら世界は俺たちだけのために用意されてはいない。ヒナは引きこもりになり、俺は学校でイジメられ、楓姉ちゃんは歳上の男性と結婚する。
正直なんで人間って成長するんだろうって思う。大人になると体は大きくなるが失うものが大きすぎる。俺はどんどん男になっていき、楓姉ちゃんはどんどん女になっていった。それが嫌だった。
男も女も関係なく一緒に遊んでいた時期はもう二度とやってこないのだろう。俺はそんなことを鬱々と考えていた。
◇
食事後
「悠斗。楓ちゃんが街をぶらっと散歩してみたいって。あんたも一緒に行ってあげて。もう暗いから」
母親は俺に言った。
「あぁ……別にいいよ」
俺もなんだか散歩してモヤモヤした気分を晴らしたいと思っていたからそう言った。
「ありがとう。ユウくん」
と楓姉ちゃんはそう言った。俺は思わずその目をそらす。正直やめてほしかった。その言葉は昔の関係に戻ってしまうみたいで。
俺は昔楓姉ちゃんのことが好きだった。いや、正確に言えば友情か憧れか自分でも良く分からない感情だった。
だが、それももう遅かったってことだ。楓姉ちゃんは結婚する。俺だけに時間が流れるんじゃない。楓姉ちゃんにも時間が流れるんだ。
「じゃあ一緒に行こうか」
と言いながら楓姉ちゃんは恋人みたいに俺に腕を絡ませてくる。うおっ! っと一瞬思ったがすぐに冷静さを取り戻す。
「じゃあ行ってくるね」
「行ってきまーーす」
俺たちは外に出た。
「なんか二人で外に出るの久しぶりだね」
楓姉ちゃんが俺の方を見ながら言う。
「うん。そうだね」
俺は言った。
「ねっ! 一週間だけ私たち恋人同士にならない? 今からデートしようよ!」
楓姉ちゃんが俺に言う。
「えっ? あっ……」
◇
どうなるのか。
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