両方とも俺のことが好きなのか?

「えっ?」

葵の声が聞える。バレた! 俺はかがみ込んで上半身を隠す。


「どうした?」

ウサ先輩の声だ。


「今なんか知ってる人の声が聞こえた気がして」

葵が言う。


「高校の友達かね?」

ウサ先輩は言った。


「いえ、そうじゃなくて付き合ってる人なんです」

葵が照れながら言った。


「ふむ。なるほど。お熱いことだ。キミは本当に恋をしてるんだね。ひょっとしたら、自分の買い物のときに気がついたら恋人に何を贈ったら喜ぶかなんて考えてないか?」

ウサ先輩は言う。


「えっ! そうっ! そうなんです! なんでわかったんですか? 一人でいるときいつも、あの人がいま何をしてるかって考えちゃって」

と葵が言う。


「そういう時はその彼の方も、今君が何をしてるのか考えているものだよ。本当に愛し合う二人には時間も空間も邪魔だて出来ない」

ウサ先輩は言った。


「キャーーー!! 凄い! 名言! 小説家の方ってすぐにそんな言葉思いつくんですね! なんかエモい気分になりましたよ」

葵が黄色い声で言う。


「ふふん。褒めたまえ。褒めたまえ。ボクも自分の才能が恐ろしいよ」


俺は必死で考える。どうしたら二人を引きはがせる? 俺の名前が出たら終わりだ! 俺は彼女がいるのに別の女の子に告白した最低野郎のレッテルを貼られる。なんとしても、それだけは避けないと……


なんとかして……なんとかして……クソッ! 俺はいつもそうだ。なんで場の空気感に流されちゃうんだよ! このままじゃ両方から嫌われて終わりだ!


しかし、お互い顔を見合わせても分からないんだな。顔を見合わせた時点でアウトだと思ったが。まぁ、あの時のグラウンドでの位置結構遠かったからな。顔までは見えなかったのか。


「本当にあの人も今、私のことを考えていてくれていると思いますか?」

嬉しそうに葵が言う。


いや、俺が今考えてるのは浮気がバレないことだけですけどーーー!!


「思うよ。ボクはその奇跡を信じるよ。恋をすれば心が一つに溶け合う。二人で一つの心になるんだ。キミは量子テレポーテーションって知ってるかね」

ウサ先輩が言う。


「量子テレポーテーション?」


「量子もつれの関係にある2つの粒子のうち一方の状態を観測すると……もう一方の状態が確定する。まるで心と心が通じ合う恋人みたいにね」

ウサ先輩は言う。


「素敵っ……」


「この世を繋ぐ全ての力は愛なのだよ。さ、葵くん好きな人に電話したまえ」

ウサ先輩が言う。


いやーー! ちょっと待って! 今電話をされたらマズい!


「でも、重たい女って思われたくなくて……」

葵が戸惑うように言う。


いいぞ! 葵! 電話をするな! 先輩に騙されるな! あっ! 電話が来る前にスマホの電源を消さなきゃ! あっ! コロンコロン! 俺は焦って手が滑った。スマホを床に落とす!


「それが重たいと思うような器の小さい男とは別れたまえ。いい試金石になる。キミの彼氏は今頃こうスマホを持って待ち構えているだろう。約束しよう。彼は一回目の着信音が鳴り止む前に電話に出るハズだ」

ウサ先輩は自信満々だ。


いや、今、スマホの電源消そうとしてるんですけどーー! 



「わかりました。かけてみます」

と葵は決心したように言う。



うわぁああああ!!! マズい! マズい! スマホはテーブルの下だ。俺は必死でテーブルの下を覗き込んで手を伸ばしてスマホを取ろうとする! このままだったら着信音が鳴ってバレる!


プルルルル

「!」

葵のスマホから呼び出し音が鳴る。あっ!


「ああああああああああ!!!!!!!」

と鳴り響くスマホを胸に抱えるように持ちダッシュでその場から逃げ出した。


「えっ? なに? なに?」

驚いて振り返る葵。だが、そこには誰もいなかった。


「まぁこの世には奇人変人がいるもんだね。で、どうだ?」


「出ないですね……」

葵は言う。


「あああああああ!!!!」

俺は叫びながら走る! そしてある程度走ったら電話をとった。


「あっ! ひょっとして忙しかった?」

葵の声が聞える。


「うん、ちょっとだけ。でも、そばで聞い……いやっ! 今、なんとなく葵が電話してくるって……思った」

俺は言う。


すると電話口からキャーー!! っと声が聞こえた。言っただろう。とウサ先輩の声が電話口から聞こえる。


「ごめん。用事はないんだ。ひょっとしたらユウくんも私のこと思っててくれてるかなって思って」

葵が嬉しそうな声で言う。


いやいや、名前言うたやん。ユウくん言うたやん。なにしてんねん。葵。終わりやねん。それ言われたら。俺。もう。俺はなんだか冷静になって突っ込んだ。


「ウン。オモッテルヨー」

俺は魂が抜けた声で言う。


「うん。それだけ。それだけが分かればいい。ありがとうユウくん」

葵が言う。


あーあもっかい言ったよ。こいつ。何電話しとんじゃ。もう俺は終わりだよ。こんなんだったら、もっと早くHしとけば良かった!!


「あぁ」

俺は返事をする。すると電話口で


「ユウくん。良いやつだな」

とウサ先輩の声が聞こえた。


「……!!」

気づいてない? まさか……繋がった? 首の皮一枚? 泣きの一回入った?


俺は

「愛してるよ。葵」

と渋めに言う。


「うん。私も大好き」

葵が言った。これは繋がってる。首の皮一枚。


「……」


「……」


「葵切って」


「駄目だよ。切れないよ。そっちが切って!」


「じゃあ切るね」

俺は言う。


「え? 切っちゃうの?……ホントに?……」


あああああああ!!!!!!


「葵。きりがないから」

俺は笑いながら言う。


「なんか……私たちバカップルみたいだね」

と葵の嬉しそうな声が聞える。


「……」


「……」


「ゴメン。名残惜しいけど……切るね」


「ユウくん。ちょっと待って」


「なに?」


「……」


「……」


「……」


「ユウくん。大好き!」


そして、プチッ。

電話は切れた。


……


戻るか。


「いやぁ……なかなかの電話だったぞ」

ウサ先輩が葵に言う。


「なんか……私電話して….やっぱりあの人のことが好きだと思いました」

葵が嬉しそうに答える。


俺は周りの客や店員の不審そうな目を無視してさっき座っていた席に座った。プランターで区切られ葵とウサ先輩の声が聞こえる位置にだ。


「やはり、命短し恋せよ乙女。だな。恋する乙女ほど可愛らしいものはない」

ウサ先輩の声が聞こえる。


「駄目ですよ。先輩。それジェンダー的にアウトですよ」


「そっ、そうか。手厳しいな。こりゃ」

二人の笑い声が聞こえる。一体何の話だ。


「今の時代それを言うなら、命短し恋せよ人類、ですよ」

葵が言う。


「いや……それはヴィーガン的な観点から見過ごせないな……動物にも恋する権利があるだろうからな」

ウサ先輩が言う。


「では命短し恋せよ地球上の全ての生き物! はどうですか?」

葵がおかしそうに言う。


「いや、それは永遠の生命をもつと言われるベニクラゲの権利を擁護出来てないな……」

ウサ先輩が言う。葵とウサ先輩はお互いに笑いあった。いやだからこれはなんの会話なんだよ。


あっ……! ここのファストフード店。スマホでテーブルオーダーが出来るのか。俺はアプリをインストールしてテーブルオーダーをすることにした。


俺はアイスコーヒーを頼むことにした。


「おまたせしました。アイスコーヒーです」

店員がアイスコーヒーを持ってきた。こりゃ便利だ。今の時代スマホがあるとなんでも出来るな。さすがスティーブ・ジョブズ。天才だな!


「実はボクも好きな人がいて」

ウサ先輩の声が聞こえる。


「えーそうなんですか?! 相手はどんな人なんですか?」

葵の嬉しそうな声が聞こえる。


「実は……ついさっき告白された」

ウサ先輩の声が聞こえる。


ブバッ! 俺はコーヒーを吹き出しそうになる。


「えーーー!! 凄い! ウサ先輩にも恋愛の神様フィーバータイムですね。今が一番楽しい時じゃないですか!」

葵の声が聞こえる。


「そうなんだ。実はボクはこう見えてメチャクチャ幸せを感じていてね。人生の幸せのピークかもしれない」

ウサ先輩のウキウキした声が聞こえる。


俺はコーヒーを飲む。


「じゃあ、先輩! やっちゃいますか! スマホでぇ! 今すぐ電話!」

葵の声が聞こえる。


ブバァ! 俺はまたコーヒーを吹き出した。


おおおおおおおいいい!! スティーブ・ジョブズ!! お前ちょっと出てこい!!



どうなる? 


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