ウサ先輩。再び
「随分仲が良さそうに話をしていたね。悠斗くん。ミカゲくん」
と人体模型を担いでウサ先輩は俺らの前に立ちふさがる。ウサ先輩はこんな休日にも白衣を着ていた。小さな体にブカブカの白衣。謎のロリキャラ。ウサ先輩。
そういえばそうだった。ウサ先輩は一人でアヒル型の足漕ぎボートを漕いでいたのだ。正確には人体模型と一緒に。
「ウサ先輩……その人体模型はなんですか?」
俺は怒らせないように恐る恐る聞く。
「む、これは……ん? なになに? 君から話したいって?」
と言ってウサ先輩は人体模型となにやら会話をしている。
「ふんふん。ふんふん」
ウサ先輩はなにやら人体模型に対して相槌をうっている。
やっぱりウサ先輩が来ると一瞬にしてウサワールドが広がる。なんなんだこの感覚は……
「なるほどな。だ、そうだ。理解したかな?」
ウサ先輩がいう。
「いや分かんないでしょ! なにも喋ってないですよね! その人体模型!」
俺は突っ込む。
「なるほどよく分かりました」
と深くミカゲがうなずいた。
「通じた? なんで? いや無理でしょ!」
俺は言う。
「こら失礼だぞ。人間模型のくせに偉そうな口を聞くな!」
ウサ先輩は言う。
「人間模型……」
なんだそりゃ……
「そうですよ。人間なんてしょせん内臓と脳と筋肉と皮膚でコーティングしただけの肉人形に過ぎないですからね!」
ミカゲはウサ先輩に同意する。ウサ先輩もミカゲの言葉にうなずく。
いやなんなんだそれは……
「そうだ! これはつまり陽キャへの挑戦なのだよ。お前らはしょせんこの人形と変わらない。カラッポな存在なのだ。彼女のためにボートを漕いでいる男の頭の中は早く性交渉がしたいそれだけだ。人形となにが違うのかね!」
ウサ先輩は言う。
「なんにも違わないです! 先輩!」
ミカゲが言う。
「おいなんか宗教みたいになってきてんぞ!」
俺は突っ込む。
「じゃあ男の人って彼女といるとき、なにを考えてるんですか!」
とミカゲが俺に詰め寄る。
「えっ? それは……んーー。Hしたいなぁって……」
俺は言った。
「やっぱりそうじゃないですか! 男の人って性欲だけじゃないですか!」
ミカゲは叫んだ。
ヒナは俺らのやり取りを呆然とした目で見ている。
「それはちがっ……!」
あっ……! 言えない……俺は俺が葵にしたことを思い出した。早くバスタオルを取るように言ったり、単一指向性勃起不全症候群と謎の病名をでっち上げて勢いでHにこぎつけようとしたり。
俺は……最低だ……!
「すいません……俺は最低でした。性欲に負けました」
「そうだろう。そうだろう。ま、君も男の一人だからね。ただ女の身になってみたまえ。見ず知らずの人やどうでもいい男から性欲にまみれた目で見つめられる恐怖を。ある日突然そこらのモブ男が性欲に覚醒してなんか好きなんだけどアピールをしてくる恐怖を!」
ウサ先輩は言う。
「すいません……すいません。やりすぎました。許してください」
俺は泣きながら言った。
「本当女にとってはこの世はゾンビがそこら中にいる世界と変わらないぞ。真面目だった男が突然うおおおお!! って牙を向いてくるんだからな」
ウサ先輩は言う。
「そうか……男のせいで女性はそんなに苦しんでるんですね」
俺はつぶやく。
「それに君たちが好きな下ネタも私らからしたらゾンビが人間をどう食べようか舌なめずりしながら話し合ってるようにしか聞こえないぞ」
ウサ先輩は言う。
「すいません。本当に……反省します」
俺は言う。
「でも、好きな人にだったらHな目で見られても問題ないですよね」
とミカゲが言った。
「だったら問題ないだろ! 今は恋人同士の話をしてたんだろうが!」
俺は突っ込む。
「いや、今はモブ男の話をしてたんだぞ。な、被験者ゼロ号」
ウサ先輩がそう言うと被験者ゼロ号……人体模型はなにも喋らなかった。
「あーーなるほど! その意見はありですね!」
とミカゲが言う。
「いや、怖い! 怖い! なにが聞こえてるんだよ! 二人とも! 俺も洗脳されて最後になんか変な声が聞こえて来そうだからやめて!」
俺は言った。
「あ……あの……おにぃ。紹介して」
とヒナが言う。
「あっそうだね。ゴメン。こちらウサ先輩。たしか名前は鎧塚子兎でしたね」
俺はウサ先輩に合ってますか? という感じでアイコンタクトを送る。コクリとうなずくウサ先輩。
「ウサ先輩は天才なんだ。まぁ性格は変わってるところがあるけど良い人だよ」
俺はウサ先輩を紹介した。
「で、こっちはヒナ。俺の妹です。ぷりとぷが好きで今日はその帰りなんです」
「よろしくおねがいします。ウサ先輩」
ヒナが笑顔で言う。
「あぁよろしく頼む。ヒナちゃんでいいかな?」
ウサ先輩が言う。
「はい。ヒナでもヒナちゃんでもどちらでも」
とヒナが笑顔で言う。
「で、ウサ先輩はいつも人体模型と会話してるんですか?」
ヒナは言う。
「えーこれは」
と言ってウサ先輩は人体模型を見る。
「親友なんだ。ボクの」
ピキッ! 俺たちの周囲に微妙な空気が流れる。あっ……ヤバイなんなんだこの空気は……
俺たちは全員無言になる。
◇
凍りつく空気。どうなるんだ。
気になる方はハート。フォロー。★で評価お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます