ミカゲウイルスってなに?


「あ、あ、あ……」

俺は言う。


「私ちゃんとした人間ですよ……私、影石御影……カゲイシミカゲって言います。よろしく」


と言ってミカゲは俺に手を差し伸べてきた。握手するつもりらしい。


うっ……握手か……


「よろしく。僕神谷悠斗っていいます。周りからは悠斗って呼ばれてます。怖がったりしてごめんね」

と言って俺は握手をした。


「ふふ……ユウト。あなたは今呪われました」とミカゲが言う。


「えっ? なんで?」


「私と握手をするとバイキンが伝染るんです。だから子供の頃はよくミカゲウイルスと呼ばれてました。ふふ……」

とミカゲは自嘲気味に笑う。


幽霊かと思ったらどうやら本当の人間のようだ。


「いや、感染んないでしょ。なんだよミカゲウイルスってくだらない」

俺は言った。


「えっ?」

ミカゲは驚く。


「それってよくある子供のイジメだろ。馬鹿な奴がよくやってるやつね。で、そのウイルスにかかるとどうなるの?」

俺は聞いた。


「う、ウイルスにかかると、仲間はずれにされますがっ!」

とミカゲは言う。


「構わないよ。ドンドン感染させてくれ。俺は人をウイルス扱いする馬鹿な奴らとは一生友達でいたくないね」

俺は言った。


「う……うぁ……」

恥ずかしそうにミカゲは赤面して落ち込む。


少し黙り込むミカゲ。

「私も昔そう言い返せばよかった……」

とポツリとミカゲは言った。


それから俺はミカゲとしばらく話していた。


「ミカゲは今何年生?」

「一年です」


「ウサ先輩と知り合いなの?」

「はい。同じ陰キャ仲間として仲良くさせてもらってます」

ミカゲは言う。最初から少しは印象が変わった。こう見ると普通の女の子だ。周りの人間が悪かったのだろう。


「休みの日はよくここに来てるの?」

俺は聞いた。

ドンっ! っと突然ミカゲがベンチを拳で叩いた。えっ? なんで急に怒り出した?


ミカゲは不機嫌そうだ。


「えっ……あっ……」

俺は何も言えない。


「私。陰キャって言ったじゃないですか……陰キャラがこんな陽キャ専用の場所にくると思いますか? くふっ」

とミカゲは一気にダークモードに入った。


あっ……しまった。言ってはいけない一言を言ったみたいだ。


「大体陽キャって初対面の時に質問攻めにしてくるんですよね。こっちが言いにくいことも平気で質問してくる。ミカゲ。昔、部活なにやってた? え? 帰宅部だけど。ミカゲの趣味は? え? 無趣味ですけど。その時点でなんか、あっ……ってなってみんな引いちゃうんですよね。いやいやいや! 質問したお前が悪いでしょ! っていつも思うんですけど。でも陽キャの連中は人の痛みは分からないんですね。便所で飯を食った人間にしか陰キャの気持ちは分からないですよ」

呪文のように早口で怨念のこもった言葉を吐くミカゲ。


「あっ……あのミカゲ……」

俺はそう言うもミカゲは止まらない。


「こっちは学校の休憩時間に休憩できないんですよ! 一人でご飯食べてるとこ見られるのが嫌だから常に場所を替えて逃げまくって。仕方ないから階段で食べてたら、あーー影石さん。そんなとこで食べちゃ駄目なんだ。って笑われて。しょうがないから私らの仲間に入れてあげるって言われて。ふざけんな! 私はお前らと一緒にされたくないから一人で食べてんだ! 陽キャ死ね!」


と言いながらミカゲは拳でベンチをガコン! っと殴った。


「陽キャ死ねよっ! って思ったけど口に出せなくて。しょうがないから陽キャ連中とお昼食べたら楽しくて結構テンション上がっちゃって。本当は陽キャ大嫌いなのに。なんかあたしその時、うわぁ! 自分惨めだーーって思って。陽キャからお情けでエサをもらった瞬間ブンブン尻尾を振る犬みたいだと思って。気分最悪で。で、陽キャ死ねよ!」

と言うとミカゲはまたベンチを拳で叩いた。


「って思ったんですけど、分からなくて。あたしどうしたら良いですかね?」

とミカゲは言った。


「あ……あ……あ……」


質問文が長すぎる。到底答えようがない。この質問に答えなかったら俺は呪われてしまうのだろうか……いやそんなことないか。


「まぁ辛ったんだね。お昼の時間が」

俺が言った。するとミカゲは目をうるうるさせて俺に言う。

「分かってくれるんですね! 私達にとってはお昼は地獄ですよ。ご飯なんていらないから早く授業終わらせろっていつも思ってましたね。いつもぼっち飯でした。なんでみんなあんなに集まれるんですか?」

ミカゲは俺に言った。


「いやぁなんとなくじゃない? みんなはどうか分かんないけど」

俺は言う。


「おにぃ。さっきから誰と話してるの?」

ヒナが俺にそう言った。


「えっ?」


「だからずっと独り言いってんじゃん。気持ちわるい」


嘘だろ……ヒナにはミカゲが見えていないのか。ずっと喋ってたじゃん俺。するとミカゲは本当に幽霊?

ゴクリとつばを飲み込む俺。


「ふふふ……そうですよね。私の暗黒オーラはあらゆる認識を阻害しますよね……ふふ……溜まりに溜まった『陰』の力にまた私は振り回されてしまったというわけですか」


とミカゲはまたダークモードに入る。ヤバイ……このままだとまた早口で呪文のように文句を言う呪文モードに入ってしまう。


「ふふ……それでは失礼します。お邪魔でしたね」

とミカゲは俺たちから去っていった。え? 去っていく? ひょっとしてミカゲ。メチャクチャ傷ついた?……遠くなるミカゲの背中。


ええい……クソっ!


俺はベンチより立ち上がった。そしてミカゲを追いかける。俺はミカゲに後ろから声をかけた。


「ミカゲ!」


「えっ? なんなんですか?」

ミカゲは驚いて振り返る。


「ミカゲはここにいるよ。ちゃんと俺には分かる。ミカゲと話してて俺は楽しかったよ。だからもっと一緒に話したい。このままバイバイって寂しすぎるだろ。そんな声をかけてほしそうな背中してさ」

俺は言った。


「そ、そんな背中してませんけどっ!」

ミカゲは焦りながら言う。


「お昼休みが辛かったのは分かるよ。友達がいなかったのも。ただ俺はミカゲと一緒にクレープを食べてて楽しかったよ。本当に楽しかった。だからそれを伝えなくちゃいけないと思ったんだ」

俺は言う。


「な、なんですか! 青春ドラマですか! やめてください! 陽キャ的なノリは。浄化されちゃうじゃないですか!」

と言いながらミカゲは焦る。


「だから寂しそうにどっか行かないでよ。俺が話を聞くから。ね。ベンチに戻ろう?」

俺は言う。


「ま、ま、あ、あなたがそう言うんなら戻ってあげてもいいんだからっ!」

とミカゲは言いかけると


「あっ! しまったあたし。謎のツンデレキャラみたいになっちゃった!」

とミカゲは焦った。俺は思わず笑う。


「じゃあ戻ろっか」

と言って俺は手を差し伸べる。

「うん……」

顔を赤くしながらミカゲは俺の服の袖口を掴んだ。

「え? なんで袖?」

俺は聞く。


「え? だってウイルスが伝染るから!」

とミカゲは焦る。


「大丈夫だって。伝染んないよ」

俺は笑いながら言った。


するとミカゲがギュッと俺の手を握ってきた。

俺もその手を握り返した。


俺たちはベンチに戻った。



「ごめん! ミカゲさん。全く気づかなかった! 嫌がらせじゃなくて。本当にゴメンなさい!」

とヒナがミカゲに謝った。


「いや大丈夫だよ。あはは」

ミカゲが微妙そうな顔で笑う。


「ミカゲちゃん可愛かったんだね! でもなんでだろう。さっきは全く見えなかったのに、今はミカゲちゃんがちゃんと見える!」

とヒナは言う。


お前そんな幽霊に対して言うみたいに……


「うん……それはね多分、誰かのことが好きになったからかな」

と言ってミカゲはチラリと俺の方を見た。


えっ? どゆこと?


「そっか。恋愛は偉大だね! ヒナも応援するよ!」

ヒナは言う。

「ありがとうヒナちゃん! ヒナちゃんが味方なら攻略余裕だよ!」

え? 攻略? どういうことなんだ……


ま、なんにせよ、ミカゲの笑顔が見れて良かった。買い物帰りクタクタで疲れた体で俺はそう思った。


ん? あれ? ウサ先輩忘れてる?



面白かったらハートブクマ★お願いします!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る