クレープ屋の変な妖精に話しかけられた……
「ふぁーーー。グッズいっぱい買ったね。おにぃ」
ヒナはそう言った。
「そうだな。しかし、凄い人気だったな。ぷりとぷの人たち。ファンの熱気が凄かったな」
俺は言う。
俺らはぷりとぷのイベントの帰りだった。
「やばいよ。あれこそ本当のマニア。熱狂だよ。ファンは狂ってこそファンだね。普通じゃファンは勤まりませんよ」
とヒナが言った。
「全くだな。しかし、あんな女性ファンにキャーキャー言われてたらどんな気分になるんだろうな」
「さぁ……神の考えることは人智を超えているので……私には到底理解できかねますな……」
ヒナが難しそうな顔をして言う。
「おにぃもぷりとぷのファンになれば良いのに。一緒に推し活動しようぜ」
ヒナは言った。
「いや、あいつら全員男だろ? ま、でも男が男を推しちゃいけないって決まりはないからな」
「そうだろう。そうだろう。でもメンバーのれおん君は性別ないみたいだよ」
ヒナは言う。
「え? 性別ないってトランスジェンダーの人とか?」
「いや、れおん君は天使なんだよ。天使だからある人はれおん君は男だって言うし、ある人は女だって言う」
ヒナは言った。
「騙し絵みたいなキャラ設定だな」
俺は言う。
「あーーもう疲れた。おにぃ! あそこの公園で休んでいこ!」
とヒナが言う。
俺はうなずいて、大きな公園の中に入った。時間はもう夕暮れに近かった。俺たちは公園のベンチに座りヒナは買ってきた戦利品をゴソゴソと漁っていた。
「あれ? 貸しボートあるじゃん。あれ。乗っとく?」
俺は言う。目の前の大きな池にはアヒル型などの貸しボートを漕いでいるカップルがいた。
「やだよ。あれ足漕ぎじゃん。余計疲れるよ」
とヒナは言った。ま、そりゃそうか。ここには一休みするために入ってきたんだから。
「あ! おにぃ。クレープ屋が!」
ヒナが指差すとクレープ屋のキッチンカーが公園内で営業していた。
「あーー!! ヤバイ。お腹空いてきた! 食べたい!!」
ヒナが言う。
「うん……」
俺は気のない返事をする。正直俺はクレープは苦手だった。
「ねぇ! おにぃ! クレープ屋さん美味しそうだよ!」
つまりこれは一緒に食べろってことか?
「いや、俺クレープ苦手なんだよな。あの皮の部分が……あれを最後に食べるのが……なんとなく」
俺は言う。
「えーーー!! 皮の部分が美味しいんじゃん! それに! おにぃ! あのクレープ屋さん月一回しかエンカウント出来ないんだよ。だからメチャクチャラッキーなんだよ。あのクレープ食べられるの!」
「いやなんだよ。月一回エンカウントって。はぐれメタルより出現率低いじゃん」
俺は言う。
「そうだよ。見つけたらそれだけでラッキーなんだよ。ねぇ。おにぃ」
ヒナは俺に懇願する。
「なるほどな。じゃあクレープ買いに行くか!」
俺は立ち上がる。するとヒナが座ったままだ。
「え? 行くんだろ?」
俺は言う。
「疲れた……もう生クリームを体内に入れなきゃ一歩も歩けないよぉ。おにぃ! 頼む!」
とヒナは俺に言った。
俺は仕方なく一人で買いに行くことにした。なんていうかぷりとぷのイベント前にあんなにカッコつけた手前なんだかヒナの頼みを断れなかった。まぁどんな時もヒナの味方になると言ったからな。そりゃ言いづらいよ。
今日一日くらいはヒナの理想の兄貴でいたいからな。
俺はそう思っていた。
「いらっしゃいませ! どうぞ!」
クレープ屋の店員の元気そうな声が響く。
さてと、ヒナが欲しいのはWクリームキャラメルだったな。俺はメニューを見る。なにが美味しいかな。んーー。じっくり考える。
ここは定番のバナナの入ったカスタードバナナにするべきか。それとも期間限定のくるみチョコガトーショコラにすべきか悩む……
「お悩みでしたら黒糖きなこあずきクリームがオススメですよ」
なんだかすぐそばから暗い声が聞こえた。ん? 店員さんの声じゃない。俺は声の方をパッっと見るとそこには座敷わらしのようなおかっぱ頭の少女が立っていた。
「うわぁああああ!!!……あぁ……」
俺は叫んだ。ビックリした。いつの間にか至近距離にいたからだ。全く気づかなかった。
「あっ! ごめんなさい。店員の方ですか?」
俺は聞いた。
「いえ、店員ではありません。私はこのクレープ屋に住み着く妖精の一人です」
とそのおかっぱ頭の女性は言った。なかなかヤバそうだ。見た目の年齢は俺らくらい。外見上は少し暗い感じがするが、なかなか美少女だと思う。背は小柄かな。ウサ先輩ほどではないが。
「あっ? えっ? 妖精さん?」
俺は聞いた。
「どうしたんですか? お客さん。おっきな声を出して」
店員が笑って言う。
「えっ? あっ? 別のお客さんがすぐそばにいたんでそれでビックリして……」
俺は正直に言った。
「え? お店の前にはお客さんしかいませんけど?」
店員が言う。え? 俺はチラリとおかっぱ頭の女性を見る。いや確かにいる。店員の立ち位置だと俺が見えているならこのおかっぱ頭の少女も見えているハズだが……ゴクリ。一気にホラーめいていた。
この女性は本当に存在しているのか……
「変なこと言わないでください。ホラーじゃないですか。で、なんにします?」
店員は笑いながら言う。あっ……見えてない。本当に?
「このWクリームキャラメルと……」
「はい。Wクリームキャラメルお一つ」
店員が言う。
「黒糖きなこあずきクリーム……黒糖きなこあずきクリーム……黒糖きなこあずきクリーム……」
とそのおかっぱ頭の女性がブツブツ呪文のようにつぶやき出した。
うおっ! これは本格的にヤバイ。別のクレープを注文したら……呪われる! 確実に。
「この黒糖きなこあずきクリームお願いします」
「はい! 黒糖きなこあずきクリームですね。合計で1200円になります!
店員が言う。
するとおかっぱ頭の少女が
「スマホのアプリで100円割引……スマホのアプリで100円割引……スマホのアプリで100円割引……スマホのアプリで100円割引が出来る」
とまた呪文のようにつぶやき出した。うおっ! ヤバイ。俺は言うことを聞かなければこの子が成仏しない気がした。
「すいません。スマホのアプリで100円割引に出来ますか?」
俺が聞く。
「はい。大丈夫できますよ!」
店員がニコッっと笑って言った。
「じゃあちょっと待ってもらっていいですか? 今アプリをインストールするので」
俺は店員に言う。
「はい。かしこまりました」
と店員が言ってクレープを作り始めた。
「1100円になります」
俺は店員にお金を手渡した。
そしてクレープを受け取る。
「ありがとう妖精さん」
俺はおかっぱ頭の妖精さんにしか分からないほどの声の大きさで言った。
「どういたしまして……どういたしまして……どういたしまして……どういたしまして」
とその妖精がニチャァっと微笑んだ。
俺はそそくさとその場を離れる。
「ありがとう。おにぃ」
ヒナはお礼を言う。俺はヒナにクレープを手渡した。
「んーー!! おいひぃー!! おにぃも美味しい?」
ヒナが言う。
「うん……美味しいよ」
となんだか元気をなくしながら俺は言う。
「どうしたの? おにぃ。テンションだだ下がりじゃん!」
ヒナが言った。
「いや、さっき幽霊を見てな。クレープ屋の前で。なんだか可哀相になってな。あの子も生前はクレープを食べてたんだろうなって思うと。どうも」
「嘘っ! やめてよおにぃ。私怖いの嫌いだって知ってんじゃん。ふざけすぎだよ」
ヒナが怒ったように言う。
「……分かった。もう言わないよ。ヒナ」
俺は言う。いや、本当に見たのだがクレープ屋に住まう幽霊を。
「あっ! でもここの池。幽霊が出るって聞いたことあるよ。夜中にボートが独りでに動いてたって。あとこの池でボートを漕いだカップルは別れるって」
「そんなわけ……はぁっ!!!」
俺は池のボートでとんでもないもの見てしまった。ウサ先輩がアヒルのボートに乗っていたのを。それだけじゃない。ウサ先輩は学校の人体模型と一緒にアヒルのボートに乗っていた。
「ああああ……あああ……」
俺はつぶやく。
幽霊どころじゃなかった。現実世界にいたじゃん。幽霊よりも頭のおかしな人が。ウサ先輩の存在を忘れてた。
「ウサ先輩。陽キャですよね」
と俺の隣から声が聞こえた。
「ひぃいいいいいい!!!!」
ビクッっとして俺は叫ぶ。いつの間にか俺の隣にさっきのおかっぱ頭の少女が座っていた。しかもクレープを食べて!
◇
誰だ。このおかっぱ頭このクレープの妖精は。ウサ先輩と知り合いなのか?
続きます。面白ったら。ハート。フォロー。★お願いします。
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