妹をイジメていたDQNに報復 1

「ねぇおにぃ。ぷりとぷのイベントに一緒に来て!」

休みの日、俺は遅めの朝食のパンをかじっていると妹にそう言われる。

妹は神谷陽菜……カミヤヒナだ。年齢は同い年。俺はヒナより1分早く産まれた。1分間だけ俺のほうが兄貴だってことだ。


ヒナと俺は別々の高校に通っている。正確には通っていた。だ。ヒナは高校でイジメられて不登校になってしまった。それで今は高校に行けずにいる。


兄として可哀想だと思うが彼女の人生なのであまり口出し出来ない。ヒナはこうやって好きな配信者や動画投稿者のイベントの時だけ外に出る。それ以外はほとんど家の中で引きこもっている。そのせいで肌の色は病的な白さだ。


「ぷりとぷ? あぁあの歌い手か。どこでやってるの?」

「んとね。◯◯駅近くのイベント会場だよ」

ヒナが言う。


「遠いな! 電車で一時間以上かかるじゃん」

俺は言った。

「そりゃそうだよ。メチャクチャでかいイベント会場だもん。一人だと誘拐されちゃうよ!」

ヒナが言う。こいつ友達は……いないもんな……


「一緒に行ってきたら? お金なら出してあげるから」

それを聞いていた母親が言う。

「本当! やったーー! お母さん大好き!」

ヒナが母親に飛びついて言う。


「ほら」と言って母親は俺たちに3万円を渡した。

「せっかくの休みなんだから一緒に楽しんで来なさい」

母親はそう言う。


むむ……こんな子供にそんな簡単に金を渡して良いのか? という感じがするが俺たちは金を受け取った。


「ありがとう。お母さん」俺は言う。

「お母さん大好き! 楽しんでくるね。私着替えてくる」

ヒナはそう言うと二階の自分の部屋に行き着替えを始めた。


「いつになったら学校に行けるんだろうね……あの子……」

母親が言う。

「そりゃヒナのペースがあるからね。一歩ずつだよ」

「なんか不登校になってあの子、辛そうでねぇ。あんまり過保護になっちゃ駄目だと思いながらも笑ってる顔が見たくてつい、お金を出したくなる。お金じゃなくてもっと話し合わないと駄目ってのは分かるんだけど……」

母親が思い悩むように言う。


「あのさ。心配しすぎだよ。ヒナは大丈夫だよ。俺なんかより頭いいんだから。大学だって余裕だよ。大体あの高校がクソなんだろ? イジメ加害者の肩をもっちゃってさ。あんなん不登校になって当然だよ。意味不明じゃん」


「でも、あれだけ頑張って行った高校なのにね……」

母親が残念そうに言う。


そうだ。ヒナは高校入試を頑張ってレベルの高い私立高校に入った。だが、そこで待ち受けていたものは……


母親はヒナの今の現状に納得がいってないようだ。


母親はまだヒナの残像を追っているのだ。ひょっとしたら不登校じゃなかったかも知れないヒナ。イジメられてなかったかも知れないヒナ。今ここにいるヒナを見ていない。ヒナはそれを敏感に感じ取っている。


親の敷いてくれたレール。高校が用意してくれたレールから強引に外されたのだ。卑劣なイジメによって。自分で外れたわけじゃない。


……


俺は後悔していることがある。ヒナのイジメが分かった後の家族会議の時だ。


俺はヒナに言ってはいけない一言を言った。

俺はなにげなく

「相手にも事情があるんじゃない?」

と言った。


イジメている方にも事情があると俺は言った。俺は言い訳はしたくはないが、両方の立場から考えて欲しかった。向こうの立場、こっちの立場。それを考えないとイジメなんて解決しない。そう思ったからだ。


家族会議で俺がその一言を発した時、ヒナはそこから無言になった。俺はちょっと今の一言はまずかったかなって感じで俺は特に気にすることなく、その場はそれで終わった。


だが、ヒナはその日からふさぎ込んだ。俺と口も聞かなかった。ある日、母親がヒナになぜ、ふさぎ込んでいるのかを聞いた。すると俺が原因だった。


「ねぇ。おにぃ。相手に事情があるならヒナはイジメられても我慢しないといけないの? 相手が親から虐待されてたら、ヒナは殴られても我慢しないといけないの? 事情があるならなにをしても許されるの? ヒナの事情より相手の事情の方が大事なの?」

ヒナは俺に言った。


俺は答えられなかった。

「おにぃなんてだいっ嫌い!」

ヒナは恨むように俺に言った。


ヒナとはその後少しずつ和解したが

今でもその言葉が未だに引っかかっている。


「お母さんさぁ。なんでイジメられた方が不登校にならなきゃいけないの?」

俺は聞いた。

「うん……」

「だって悪いのはイジメた方じゃん。なんで被害者の方がその場から消えないといけないんだよ。消えるのは加害者の方だろ!」

俺はなぜか母親にキレてしまう。母親に言っても仕方ないのに。


「うん……それね。向こうの先生にもそう言ったんだけどね。公立校に転校を勧められて……」

なんて理不尽な話なんだ。あぁ腹立つ。


「どしたの? 喧嘩?」

服を着替えたヒナが一回に降りてきた。


「いや違うよ」

と俺と母親はハモるように同時に言った。


俺たちは外に出た。


「うわ……お日様エグいなぁ。これじゃ日に焼けちゃうじゃん」

ヒナが言う。

ヒナは少しぐらい焼けた方がいいのだが……


俺たちは電車に乗る。

「まずはーイベント会場に行って。あっ! 服も欲しいな。あとぷりとぷのグッズも買わなきゃ。昼ごはんも食べてー。あと映画も見ようか!」

ヒナが言う。

「俺ぷりとぷ知らないんだけど。なにが楽しいんだよそれ」

俺は言った。

「えーーー! 知らないの? おにぃ。有名じゃん。ぷりとぷ。生配信もしてて声だけで女性ファンを妊娠させたって伝説もあるんだよ」


「いや、ヤバいだろ。それ。ゼウスの生まれ変わりかよ」


「あとメンバーのなぉとくんも高校の時にバレンタインチョコをメチャクチャもらったから、それでドミノしたらギネス記録に載ったって」


「なんなんだよ! その伝説は! てか、ギネスもなに認定してんだよ!」

俺は言う。


「真夏の体育館でやったから立ててあるチョコが溶けたりして大変だったんだって」


「いや、それ事前に分かるよね! なおとくん!」


「おにぃ! なおとくんじゃなくて、なぉとくんだよ。真ん中のは小さな ぉ だよ。人の名前間違えるなんて最低だよ!」

「いや、人の名前? VTuberだろ? あいつら……人……なのか?」

俺は言う。


「人じゃない神だよ。神様だからお布施するのは当然! 神社でご朱印もらうようなもんだよ。ファンにとっては生きる活力なんだから」

ヒナが言う。


「すげぇなぁ。なぉと」


「違うよ。おにぃ! なおとじゃなくなぉとだよ」

「いや言ったじゃん! なぉとって!」


「言ってない! 全然違うじゃん! なぉとだって!」


「いや怖い怖い! どっちもほぼ一緒だろ! ファンの人はそんな些細な発音の違いを認識出来るのかよ! なんなんだぷりとぷのファンは!」

俺は驚いた。


「ね! おにぃ! 学生証持ってきた?」

ヒナが聞く。

「え? 持ってきてないけど」

「駄目だよ。おにぃ。入場割引あるんだから学生証持ってこないと!」

「あぁそっか学割か。ま、一般で入ればいいだろ」

「えーー。でも千円くらい違うよ」

ヒナが言う。


結構違うな。いや学生からしたら千円は大分デカい。


俺は微妙にショックを受けながらイベント会場についた。

イベント会場はショッピングモールの中にあり一階ぶち抜きでイベント会場だった。


「へーショッピングモールの中にあるんだ。でもイベント開始がまだだからどっかで時間潰さないとな」

俺はヒナにそう言った。


俺たちは時間を潰せる場所を探す。


「あっ!」

っとヒナが叫んで俺の背後に隠れた。

「どした?」

俺は言う。


「あっ……あいつら……おにぃ。あいつら……」

ヒナの声が震えている。


ん? なんだ一体。俺は前方を見る。するとフードコートに7人くらいの男女のグループがいた。男3女4 どうやら高校生みたいだけど……いかにもDQNっぽい見た目だ。


「あいつらがなに?」

俺が聞く。

「ヒナと同じ学校の……ヒナをイジメていた……人たち」

とヒナは言う。俺はそれを聞いた瞬間頭の中が燃え上がるように真っ赤になった。動機が激しくなる。


あいつらがヒナをイジメてた?


俺は思い出していた。



ある日ヒナは制服に墨汁をかけられて帰って来た。理由を聞いても答えてくれなかった。ヒナのイジメのせいで俺の家庭はメチャクチャになった。悪いのはイジメてる方だが。


毎日のようにヒナと父親が怒鳴り合っていた。

「学校に行け!」

「やだ! 行きたくない!」


ヒナは最初自分がイジメられていることを語らなかった。俺がヒナの話を聞くとポツポツと答えてくれた。学校で無視されたり馬鹿にされたりされていると。


その痛みをヒナはずっと抱えていた。誰にも言えずに。親に心配をかけたくないから。親が期待した通りの勉強熱心で努力家のヒナから自分が外れてしまったと思いたくなかったから。でもヒナの心は限界だった。


親の期待と学校への恐怖で押しつぶされたヒナの心は壊れた。

ある日ヒナはカミソリでリストカットをしていた。こうすると気分が落ち着くとヒナは言った。それを見て俺は泣いた。


なんでヒナがこんな思いをしなきゃならない。ヒナにこんな思いをさせた奴らが許せなかった。ヒナの気持ちが分からなかった自分が許せなかった。



俺はおもむろにフードコートで雑談しているそのDQNグループのところに行こうとした。


「おにぃ! なにやってんの! いいよ。やめてよ!」

とヒナが俺の腕を掴んで止める。


本当は殺してやりたい。あいつらをぶん殴ってやりたい。あいつらに俺らが味わった痛みを思い知らせてやりたい。なんで俺らが泣き寝入りしないといけないんだよ!


「ヒナ止めるなって。ちょっと話をするだけだって」

俺は言う。


「もう良いよ。帰ろうよ。あいつらも、ぷりとぷのイベントに来たんだよ。あいつらもファンだったもん。だからここに来たんだよ。絶対。もうあいつらの顔も見たくないから。帰ろうよ!」

ヒナが俺を止める。


「でもなぁ……」


俺が言うと


「あれ? 悠斗じゃん。なにやってんの?」

となにやらドスの利いた声が聞こえた。


俺はそっちを振り返るとなんとそこには……あぁ……最悪だ。なんでこんなとこに……3年生の政宗と小太郎がそこにはいた。政宗と小太郎はDQNの親玉だ。


あああああ……どうなるんだ。俺ら。



タイミングの悪いところで政宗と小太郎が登場です。この話は長いので2つに分割します。これからどうなるのか。


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