ウサ先輩。陽キャになりたいんすか?

チュンチュン……


朝俺は起きていた。今日は金曜日か……今日頑張れば明日休みだな。俺はSNSを確認する。

「龍二あいつどうなってるかなぁ」俺は一人つぶやく。


SNSを見ると……うわぁ……炎上しまくっていた。多くの動画投稿者が龍二たちの家に行った動画を投稿したり、掲示板でも加害者全員がまるでネットのオモチャのような扱いになっていた。


しかもうわぁ……俺が送った龍二たちの過去のSNSでのやらかしもガソリンとなって更に炎上を加速させていた。


「ガソリン投下するか」

俺はスマホを華麗に操作して龍二たちアホグループが過去に花火禁止の場所で花火をしている動画をインフルエンサーにDMで送った。お尻にロケット花火を刺したり、人に向けて花火を打ったり危険なやつだ。


いやいや若者の悪ふざけじゃないか。それぐらい多めに見てやれよって思う方もいるかもしれない。しかし、これはイジメの動画なのだ。

ロケット花火の的になる奴もロケット花火をお尻に刺される奴もイジメられていた人間だ。あいつはイジメと娯楽の区別がついてない奴だった。


イチゴは普通に美味しいけど大福で包んだら更に美味しい! みたいな感じなのだ。つまり、あいつは普通に花火して楽しめばいいだけなのに、それにイジメをプラスすることによってより良く人生を楽しもうとするクズだった。


おふざけじゃん! って言う人は分かっていない。おふざけで殴られる人間の気持ちが。ロケット花火の的になって逃げ惑う人間の気持ちが。それを相談しても「それただのおふざけでしょ」で済まされてしまう人間の気持ちが。

俺は過去のトラウマを思い出し気分が悪くなった。

まぁDM一つで復讐出来るなんていい時代だな。俺は思った。普通にしとけばこんなことはされない。


俺はスパイの大吾からのメッセージも確認する。龍二は心底参っているようだ。


グループチャットには……


マジで鬱だ……俺の人生どうなるんだろ……


政宗くんと小太郎くんが龍二を殺そうとしてるって! 逃げた方がいいよ!


もうどうでもいいよ。俺は……あの偉そうな3年俺がぶち殺してやるわ!


龍二くん頑張って!




などのテンション低めのチャットがされていた。龍二に脅されていた大智くんは龍二との連絡を断ち切っているようだ。昨日大智くんの家まで龍二が来たが居留守を使ったようだ。そっちの方がいい。てか、自宅にあんなDQNがあそびーーましょ! って来たらそりゃホラーでしょ!


俺は学校に登校した。校門前ではマスコミが多く集まっていた。

「すいません! イジメの動画についてなにか知ってることはありませんか?」

とインタビューされる。俺はそれを無視して校門の中に入った。


まぁ身バレするのが一番怖いからな。学校が公式に隠蔽の指示を出してるのだから……まぁ指示っていうかお願いだが……お願いに反する行為をしたら罰される意味不明なお願い(脅迫)

だが……


俺は教室につき席に座った。いつもの同じような授業が始まる。退屈だ……


龍二の件は一段落ついた感じか。政宗や小太郎も龍二を殺したりしないだろう。話してみたら割とまともな奴らだったからな。ま、殺されても俺には関係ない。


キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴る。昼休みだ。俺は食堂に向かった。理科室をふと見ると理科室の扉からニョキッっと手だけが出ていた。小柄な女性の手だ。


俺が通り過ぎようとするとその手は俺に向かって、おいでおいでしていた。

うっ……なんか嫌な予感がするが……


俺は理科室の扉の隙間を覗き込んだ。ぬあっ! ウサ先輩が凄まじい形相でこちらを睨んでいた。ウサ先輩が隙間女みたいな感じで俺を見ていた。


「なんですか?」

「とりあえず入りたまえ」

ウサ先輩は言う。


俺は理科室に入った。

「さてキミはボクとの約束を覚えているかね」

ウサ先輩は言う。

「あ! 身長を伸ばす薬ならもう少し待ってもらいたいんですが……絶対手に入れますので」

俺は言った。


「おい! 何の話だ! 身長を伸ばす薬なんてキミに頼んでないぞ! 実験だよ! 実験! 被験者第一号くん!」

ウサ先輩は言う。ウサ先輩は白衣を着た小柄な女の子だ。


「いや僕今から飯にしたいと思ってたんですが……」

「やめたまえ……やめたまえ……食堂でぼっち飯はキツイぞぉ……友達が居ないやつだと思われるからな。食堂は学校でのスクールカーストが如実に現れるところなのだよ。一人で飯を食っている。それだけでスクールカースト最下位な感じになってしまう。最悪だよ。あそこは」

ウサ先輩は言う。


「う……やめてください。そうやってトラウマ直撃するの。趣味が悪いですよ……」


「キミとボクは一緒だからね。ボクもぼっち飯を嗜もうとしていた。二人でぼっち飯と洒落込もうじゃないか?」

ウサ先輩は言う。


「いや、僕は一緒にご飯を食べる友達がいるんですが。それに飯くらい一人で食べましょうよ」

俺は言う。


「うおっ!」

ウサ先輩はショックを受けたように驚く。


「どうしたんですか?」

「それは話が違う……ボクがキミを被験者に選んだのは……ボクと同じ陰キャラだと思ったからだ。ボクは君に素質を感じたのだよ。濃厚な『陰』のオーラを」

ウサ先輩は言う。


「なんか僕凄い能力者みたいですよね。でもウサ先輩。間違ってますよ。陽キャも陰キャもないんです。人は自分が出せる場所。その場所なら誰でも陽キャになれるんです!」

俺は言った。


「うおっ! なるほど。なかなかの名言だな。しかし、人は誰でも陽キャになれるという言葉と、陽キャも陰キャもないという言葉が完全に矛盾してるのだが……君は気づいているか?」

ウサ先輩は俺に聞いてきた。


「うっ……確かに」


「しかし、キミの意見は気に入らんな。まるで陰キャが悪いもののように言っている。陰キャでいいじゃないか。陰キャ最高! むしろ悪は陽キャなのだよ」

ウサ先輩は言う。


「どういうことですか?」


「陽キャは恋人と人前でイチャイチャするだろ? あれは周りの人のテンションに超絶デバフをかけるんだ。絶対許せないだろ?」


「確かに陽キャは悪ですね……分かります」

とりあえず俺は同意した。


「それにSNSで幸せアピールをしている陽キャ。あいつらは自分たちはイイねを稼いで自己肯定感マックスになっているが、それを見てる人たちは自己嫌悪感マックスになっているのだ」


「たしかに、それは駄目ですね。誰ですかね。SNSを発明したバカは。許せないですね」


「いや、まさかSNSを作った人も自慢ツールとして使われると思ってなかったのだろう……まさにテクノロジーは進化したが人間の脳は退化した。その証明じゃないのかね?」

ウサ先輩は俺に聞く。


「てか、適当に相槌打って共感してましたけど、さっきから一体何の話をしてるんですか?」

俺は聞いた。


「む……キミにだけは理解してもらえると思ったのだがな……やはりボクはボッチなのだな。天才ゆえの孤独というやつか。構わん。凡人のキミは凡人らしく学食で飯を食うがいい。ボクは被験者ゼロ号くんと会話をする毎日に戻るだけだ。な、被験者ゼロ号くん」


と言うとウサ先輩は人体模型に話しかけた。


「ん? そうかそうか。自分が一緒にいるからウサ先輩は寂しくないよってか。本当に優しいやつだな。被験者ゼロ号」


人体模型は当然のごとく返事をしない。


「……」

なにかすごく切ないものを見せつけられている気がするが……


「分かりましたよ。購買部でパンを買ってきてここで食べますよ。ウサ先輩を僕がぼっちから救いますよ!」

俺は言った。


「本当か?」

とウサ先輩はパッっと明るい表情になった。


「では一緒に買いに行こうじゃないか。シチュエーションは朝チュン後のカップルが幸せの余韻に浸りながら朝のベーカリーに焼き立てのパンを買いに行く。という脳内設定で頼む」

興奮気味でウサ先輩は言った。


「朝チュン後……パンを買いに行く? 先輩それ陽キャですよね」

俺は聞いた。


「うおっ! ち、違う。これはあくまで実験なんだ」

ウサ先輩は焦りだす。


「嘘つかないでくださいよ。何やってるんですか。陽キャは悪でしょ。『陰』の掟に背くんですか? ウサ先輩」


「うあっ! それは……」


「なにがカップルが朝のベーカリーにパンを買いに行くシチュエーションですか。些細な日常に幸せを感じないでください。俺らはパンを買っても一緒に食べてくれるのは公園のハトくんぐらいなんですよ。見くびるなよ陰の力を!」

俺は怒った。


「す、すまない。ボクが間違っていた。やはり朝のベーカリー設定はまだ早すぎた。では購買部で背が低くてなかなかパンを買えないボクのためにキミが『はい、焼きそばパン買ってきたよ』って言って買ってきてくれて、そこでボクがドキドキしながらパンをハムハムするって設定はどうだ?」

とウサ先輩が言う。


「先輩……それも『陽』ですよね。先輩ひょっとして陽キャに憧れる裏切り者ですか?」

俺は聞いた。


「ち、違う! ボクは……」


「はぁ……まぁいいですよ。朝のベーカリーですね。その脳内設定に僕もお付き合いしますよ。でも先輩。正直に言ってください。陽キャを馬鹿にしつつ憧れているんですね」


「うぅ……認めよう。僕は陽キャに憧れている。イチャイチャ展開が好きなのだ」


「分かりました。では行きましょう」

俺はウサ先輩に手を差し伸べた。俺の手を取るウサ先輩。俺はウサ先輩をまるで舞踏会のダンスでも踊るような感じで購買部にエスコートした。


「ごめん。パン全部売り切れちゃった! 次からはもっと早く来て!」

と購買部のおばちゃんが容赦なく現実を叩きつける。パンは俺らが変な会話をしている間に売り切れたようだ。


「はは……仕方ないな。すまない。これはボクのせいだ。罰としてボクは腹ペコのまま昼休みを過ごすからキミは学食でご飯を食べたまえ……」

なにげにメチャクチャショックを受けながらウサ先輩は言う。


脳内予想図がメチャクチャに壊れてショックを受けているのだろう。


「何言ってるんですか? ウサ先輩。先輩がお昼抜きなら僕もお昼抜きですよ。一緒に腹ペコになりましょう!」

俺は言った。


するとウサ先輩は目をウルウルしたあと、挙動不審になったみたいな感じで


「お、おい! 急にイケメンになるのはやめたまえ! 照れるだろう!」

と謎に俺の体をバンバンさせながら照れまくって言う。


俺らは理科室に戻った。

ウサ先輩が小さなお弁当を広げる。

「先輩なにやってるんですか! お昼抜きじゃなかったんですか? 前言撤回しすぎでしょう」

俺は突っ込む。

「うぅ……なんか急に食欲が出てきてな……人は矛盾する生き物なのだ。君も一緒に前言撤回したまえ」

ウサ先輩は言う。


「え?」


「お箸は一つしかないんだが、これで大丈夫だろう? ボクとキミは恋人同士なのだから」

と恥ずかしそうにウサ先輩は俺を見つめて言った。


「はい、あーーん」

とウサ先輩は箸を使い俺に玉子焼きを食べさせた。


「美味しい?」

「最高です!」

俺は親指を立てた。


クスッっと笑うウサ先輩。

パンは食べられなかったが……これはこれで中々悪くない。そう思った。

イチャイチャ多めです!


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