龍二が殺される? ま、どうでもいいけど

「龍二が大変? なんの話だよ」

俺は大吾に聞く。

「あいつ殺されるよ。本当に殺されるんだよ」

怯えながら大吾は言った。


俺は思わずプッっと吹き出す。

「殺されるわけねーだろ! 誰が大吾を殺すんだよ。あんな炎上で人が死ぬわけねーだろ」

俺は笑いながら言う。


「違うんだって! 3年生の奴らが龍二を狙ってるんだって。ボコボコにして半殺しにするって」

大吾が恐怖に怯えながら言った。え……怯えすぎだろ。こいつ。ネタじゃないのか?


「なんでだよ」

俺は聞く。


「3年生の昔不良でメチャクチャ喧嘩が強い先輩がいて今は更生して真面目になったんだけど、その人が龍二を探してるんだって。なんでも例の動画が拡散してそれがきっかけで企業の内定が取り消しになったんだって!」

大吾はそう言った。


「そんな……」

そんな大事になってたのか……


「いやでもそれおかしいだろ! 悪いのは龍二じゃん! その先輩が同じようなことしてたら話は別だけど、龍二が悪いだけなのに、なんで内定取り消しになるんだよ! 意味分かんねーだろ! それ」

俺は言った。


「俺だって分かんねーよ! 企業のイメージが悪くなるってことじゃねーの? そんなこと俺に聞くなよ!」

大吾は怒る。


……マジか……メチャクチャ大事になってんじゃん。まぁ龍二が殺される分にはなんにも問題ないけどな。むしろどんどん殺してくれって感じだよ。てか、なんでこいつこんなに怯えてるんだ。聞いてみるか。


「てか、大吾。お前なんでそんなに怯えてるんだ。お前が……あぁそうか! お前一緒に大智くんを殴ってたもんな! それでお前も先輩からぶん殴られるんじゃないかって……そういうこと?」

俺は自分で言いながら理解した。


大吾は力なくうなずく。


「殴られとけば? 悪いのはお前じゃん。おつーーーー」

と言いながら俺は保健室に帰ろうとした。


「待ってくれよ! 助けてくれよ! お前と俺の仲じゃん! 友達だろ?」

大吾が言う。


は? 俺はカチーーンときた。は? 友達?


「はぁ? その友達を裏切ったの誰だよ! お前だろ? 昔俺とお前仲良かったよな。それで龍二が俺をイジメだしたらお前も一緒になって俺をイジメたよな! 俺あの時のお前の表情忘れねーからな! それが……はぁ? 都合のいい時だけ友達ヅラすんな! そもそも友達を理由にしてお願いしてくる奴は総じてクソなんだよ! だから、お前もクソ野郎だ!」

俺はブチ切れる。


「ごめん……あの時はホントにごめん……」

大吾は泣きそうになっている。


「それでその先輩ってのは?」

俺は聞く。

「あぁ……政宗くんと小太郎くんなんだけど……」

なっなんだ。その名前だけで強そうな感じは……


あっ! 知ってる。学校ですれ違ったことがある。いつも二人で仲良く喋ってる二人だ。

名前は伊吹政宗と林小太郎……3年生でとびきり目立つ存在だ。


「よぉ。お前ら2年か」

俺の背後からドスの利いた声が聞こえる。

大吾は、はぁっ! っと怯えたような表情になっている。まさか……噂をすれば影か……俺はゆっくりと振り返った。


そこには二人のDQNがいた。一人はガタイがデカく筋肉質、もう一人は細身で、でもただならぬ雰囲気を醸し出している男。


「龍二しらね? 成宮龍二。探してんだけど」とガタイの大きい方が俺に言う。てか、こいつら本当に高校生か……


「いや……途中で帰りましたけど……」

俺は震える声で言う。


「ねーだから2年に聞いても無駄だって言ったじゃん! 政宗。時間の無駄だよ!」

と俺くらいの筋肉の小柄な方が言った。どうやらこの小柄な方が小太郎でガタイの良いほうが政宗なのか。おそらくそうみたいだ。


「うっせ。黙ってろ。てかお前さ。龍二のダチ知らね? そいつ殴って龍二の居場所吐かせるからさ」

と政宗は言う。龍二の友達?……てかなんで殴るんだよ。普通に聞けよ……

俺はチラリと大吾を見た。大吾は俺と目線が合うとひぃいいい!!! っと怯えだした。


どうすべきか……ここで「あっ! こいつ龍二の友達なんでどうぞ好きにしてください! おつーー」って言えば俺はこの場から開放される。だが、大吾はどうなる……ボコボコに……いやされてもいいんだけど……今ここでこいつを売ったら大吾はもう俺に協力してくれないだろうな。


まだまだこいつには利用価値がある。ならばここは知らないフリを……


「あーーーキミ知ってる! 見たことある! 政宗。この子俺知ってる!」

と小太郎の方が俺を指さして楽しそうに叫んだ。え? 知ってるって。なにを。まさか俺が龍二の友達だと勘違いしてる? え? それはまずい。だがこいつらみたいな馬鹿ならそれもあり得る!


「なにこいつ龍二の知り合い?」

政宗が小太郎に聞いた。はうっ! 違う! 違う! 

「いやちげーーよ。政宗。この子有名人なんだよ。ほら見てみ。このメチャクチャバズってる動画!」

と言って小太郎はスマホを取り出した。そして動画を流した。


「うおおおおおおおお!!!」

鳴り響く歓声。

「ワンちゃん無事だったか」

「やったな兄ちゃん!」


あれこの音声どっかで聞いたことある気が……

「うおっ! すげぇ! 犬を助けた! ヤベェ! なにこいつ! ずぶぬれじゃん!」

政宗は小太郎のスマホを見て驚く。


「しかもメチャクチャバズってるしこの動画!」

政宗は驚く。

「だろ? この制服ここの制服だぜ? 犬を助けたのこいつだよ」

と言って小太郎は俺を指さした。


「うおおおおお!!! マジか! お前メチャクチャ良いやつじゃん!」

政宗は俺のところに駆け寄る。そしてバンバン肩を叩いた。


あ……あ……


「だろ? だから初めて見たとき、あれ? こいつ知ってる顔だって思ったんだよな」

と小太郎が言う。


「え? これ場所どこ?」

と子供みたいに政宗は俺に聞いた。


「◯◯川のあのでっかいショッピングモールがあるところの近くだけど」

俺は声が震えながら言う。


「え? あそこ危なくね?」

政宗が言う。

「いや命がけだよ。これ」

小太郎が言う。


なんだ……なんだよ……この展開……俺は内心ビビり散らしている。まるでライオンと話しているみたいな感覚が俺を襲う。俺はビビりながら受け答えをする。


「お前やったな! すげぇじゃん! 警察から表彰してもらった?」

政宗は俺に聞いた。


「いや、警察には知らせてないから……」


「なんだよそれもったいねーな! 俺だったら警察行くな」

政宗は言う。

「そうだよ。もったいないよ。表彰したら一回悪いことしても見逃してくれるのに」

と小太郎が言う。


「いや、そんなんじゃねーよ! こいつは純粋な善意でやってんだよ! こいつすげーよ!」

と政宗は俺に言う。


「この動画結構バズってるんだよね。バイト先でも毎回この話されるし」

小太郎が言う。

「じゃあお前有名人じゃん! 写真撮ろうぜ! 写真」

と言いながら政宗はスマホを取り出して俺に近づいて自撮りをしようとする。

「うぇーーーい」

と巨大なベロを出して政宗はドン引きする俺を尻目に俺とツーショットの自撮りをした。

「コタ! お前も撮っとけよ」


「じゃあ撮ろうぜ」

と言って小太郎も俺と一緒に自撮りした。


なんていうか反社との写真みたいだが……俺は流石に断れなかった。いやいや無理でしょ……流石にこれは断れないよ……


「お前名前は?」

政宗は俺に聞いてくる。

「神谷悠斗だよ」

もう半ば魂が抜けながら俺は答えた。


「連絡先交換しようぜ。悠斗」

小太郎がそう言うと俺はなぜかDQNとスマホを突き合わせて連絡先の交換をした。


「じゃあ悠斗。君らは龍二と関係ないんだね」

小太郎が言う。


「うん。龍二は友達でもなんでもない。むしろ俺はあいつにイジメられてたから」

俺は言う。


「だから言っただろ! こいつら関係ねーって!」

大きな声で政宗は言う。

「言ってねーだろ! お前! 嘘つくな!」

と言って小太郎と政宗は笑い合った。俺はそれを呆然と見ている。


「時間取らして悪かったな。悠斗。じゃあ俺ら行くわ」

と言って政宗と小次郎は立ち去ろうとする。


「あの……」

俺は後ろから声をかける。


「ん?」

小太郎が振り向いた。

「龍二を殺すって本当ですか?」

俺は聞くを


すると小太郎は笑って答えた。

「本当だよ」

と。


そしてそのまま二人は俺たちから去っていった。


「ふわぁ……」

っと一気に力が抜ける俺たち。まるで竜巻だった。ただ会話しただけなのにとんでもない精神力を持っていかれた。


「お、お前! と、友達になった! 政宗くんたちと、と、友達になった!」

大吾は俺を見ながら怯えている。


? 何いってんだこいつ。


は、はーーん。こいつは……そういうことか……こういう大吾みたいな小物はヒエラルキーに弱い。強いものに媚びて弱いものからは徹底的に搾取する。だから俺がイジメられていた時に龍二側に回ったんだ。多分俺の方がこいつよりヒエラルキーが下だと思ってたんだな。こいつは。だが、政宗たちと知り合うことによって、こうグイッっと俺の方がヒエラルキーが高くなった。


それに怯えているのだろう。本当、小物だな。こいつは。でも大事な能力だよな。世の中を渡っていくには……


「感謝しろよお前。お前のことはとりあえず黙っておいてやる。俺を裏切ったら全部政宗くんたちにバラすからな」

と俺はスマホを大吾に見せつけるようにピラピラさせながら言う。


「あぁ……分かった」

震えながら大吾は言う。


さてと保健室に戻るか。俺は保健室に戻った。


「おそーーい! ミルクティーは!?」

と葵がむくれる。あっ! 忘れてた!


「ごめん。忘れてた……」

俺は申し訳無さそうに言う。


「うそーー!! メチャクチャ待ってたんだよ!! 悠斗くんなにしてるかなぁって」

葵はベッドで上半身を起こしながらむくれる。


「ごめん。色々あって」俺は言った。

「色々あったってなにが?」

葵が俺に聞く。


「いや、本当……」俺は保健室の床にへたり込んだ。

「本当に色々あったんだ……」

俺はしみじみと言った。


「ユウト……」

葵が言う。


あたりはすっかり遅くなっていた。保健室も大分暗くなっていた。


「家まで送るよ。葵。一緒に帰ろう」


俺は言う。


帰り道俺と葵は一緒に帰っていた。

「いいよ。足は大分痛みが収まったからカバンはあたしが持つよ」

葵が言う。


「いいから持たせろって。俺に。あと足の痛みが続くようなら病院行けよ。自分の体を第一に考えてくれ」

俺は言う。


葵は俺の言葉を聞いて顔が赤くなる。


「そんなこと言っても、あたし許してないからね! 保健室で一人でメチャクチャ不安だったんだだから」

と笑いながら葵は言った。


「うっ! それは許してくれないのか……」

俺は言う。


「ダメだよ。絶対に許さない」

と葵は笑いながら人差し指の銃口を俺に向けて言った。


「じゃあどうしたら許してくれる? みんなが見てる前で土下座した方がいいか?」

俺はふざけて言う。


葵はふと立ち止まる。そして意を決したように言った。


「あたしとデートして」

葵は急に真剣な表情になり俺の方を見ずに言った。


「デート……」


「そう。最高のデート。王子様とお姫様がするような最高のデート。あたし一日だけでもいいからお姫様になりたいんだ」

と葵は俺にニカッっと笑いかける。


「そうだな……じゃあデートプランを考えてみるよ」

俺は言った。

「あーはいダメーー」

と葵は言う。


「え?」


「一緒に考えるのが楽しいんじゃん。旅行と一緒だよ。それもデートなんだから」

葵が言う。


「うん……そうだな」


街の灯りがきらめいている。葵といると全ての景色が美しく見える。世界にこんな色があったんだ。こんな光があったんだ。驚くことばかりだ。葵と一緒にいるだけで俺は特別な世界に行ける。


あぁ……俺は葵が好きなんだ。と俺は検めて思った。

葵がいるだけでこの最悪な世界を無条件で肯定できる。俺はそう思った。



さぁ龍二がどんどん追い詰められていきます。

葵とのイチャラブもが加速していきます。


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