もう他の女の子と話しちゃやだよ!
「大丈夫か? 大西! 立てるか?」
「葵! 大丈夫?」
口々に叫ぶ顧問や生徒たち。
「私が葵を保健室に連れていきます!」
あっこの子は……葵が俺に告白する時に一緒に居たあの子だ。その女の子は葵に
「立てる?」と聞いていた。
「いや、俺が連れて行くよ」
俺が割って入る。
「あ……あ……」
葵が俺を見て涙目で声にならない声をあげる。
俺は葵に肩を貸す。すると葵の友人も葵に自分の肩を貸した。なんだか葵の取り合いみたいになる。しばらく何事かと女子陸上部の部員たちは俺たちを見ていた。しかし
「よし、みんな練習に戻れ!」
との顧問の一声で
「ハイッ!」
っとなって練習に戻った。
◇
俺たちは葵を保健室に連れていった。そして保健室の先生に見せた。保健室の先生が言うには救急車を呼ぶほどの怪我じゃないとのことだった。俺は葵をベッドに運んだ。葵を見守る俺たち。
「お願い……奈緒ちゃん。悠斗くんと二人っきりにさせて……」
葵はそう力なくつぶやく。
「分かった。じゃあ悠斗くん。あなたに葵を任せます」
と、奈緒は釘を刺すように言って保健室から出ていった。
保健室に葵と俺の二人きりになる。保健室の先生は急用で保健室から出ていた。
葵が寝ているベッドは窓際にあった。窓から夕日が差し込む。夕焼けは部屋中を赤く染めていた。
窓の外から運動部の声が聞こえる。ここはそこから隔絶された野戦病院のように思えた。
葵はずっと黙っていた。そして窓の外を見ていた。葵のベッドの高さからはなんにも見えないだろうに、それでも窓の外を見ていた。
「葵。選抜メンバー駄目だったか」
俺はなるべく葵を傷つけないように優しく言う。
「うん」
葵が窓の外を見ながらうなずく。
「でも、頑張ったよ。俺葵が努力するのを見てたから。真剣な表情で練習してるのを見てた。それで駄目なら仕方ないよ。結果はもうどうしょうもない」
俺は言葉をしぼり出して葵のフォローをした。
「あーーもう私の青春終わっちゃったんだね」葵が顔似手を当てて言う。
「えっ?」
「あーーー。悔しかったなぁ。もっと練習しとけばなぁ。サボっちゃったもんあたし。仕方ないよ。全部あたしが悪い。みんな陸上一本で頑張ってたから」
葵は泣いているようだった。手で涙を拭いている。
「でも、来年もあるんだろ?」
俺は言う。
「ないよ」
「え?」
「来年は受験生だよ。私達。親からも3年生になったら勉強に集中しなさいって言われてるからさ」
葵は言う。
「だからこれが最後だったんだ。でも駄目だった」
と言って葵は悲しさを誤魔化すように笑った。
「あーーもう。誰かさんのことさえ好きにならなかったらこんなことにならなかったのにな」
とふざけるように葵は俺を見て言った。
「え? 俺かよ」
俺は笑って答える。
「悠斗くん。全然知らない女の子と喋ってたじゃん。あれ駄目だよ。あんなことしちゃ動揺しちゃうじゃん」
葵が左手を頭の方に上げながら言う。
「え? あれは違うんだよ。今日初めて出会った先輩で葵が考えているような関係じゃないよ」
俺は焦って言う。
「嘘ばっか。仲良さそうに話してたじゃん。浮気もの」
と葵が真剣かおふざけか分からない感じで言う。
「いや、本当に違うんだって」
俺は言う。いや違うのか? ウサ先輩と俺キスとかしてたんだが……なんにも違わない気が……まぁここでそれを喋ってもややこしくなるだけなので黙っておくか。
「中学時代からずっと陸上一筋だったからさ。オリンピック選手に憧れて自分もあんなふうになりたいって思って。でも試合のたびに思い知らされるんだ。あぁ自分はあんなふうにはなれないんだって。この世には才能がある人とない人がいる。私は才能がない人なんだって。だから一流選手ってあんなキラキラしてるんだね。みんなが諦めた夢を叶えた人たちだから」
葵が泣きそうな顔で笑って言う。
「うん……」
俺は話を聞いていた。
「心ってなんで思い通りにならないんだろうね。自分の心なのに。走ってるときも色んなこと考えちゃってさ。それで駄目だった。本当自分が嫌になる。走ってる時に、あぁあたしってやっぱり悠斗くんが好きなんだって思った。5年間続けてきたのにね。最後の最後で真剣になれなかった。本当最低だよ。あたし」
自嘲気味に葵は笑う。
「うん……」
「あのさ……悠斗くん。白衣を着たあの女の子って誰なの?」
と葵が聞いてきた。うおっ! ここは慎重に答えないと駄目だぞ。しかもあの実験は不可抗力だからな。まぁ途中俺もノリノリになったりしたけど。
「あれはちょっと変な先輩だよ。あの人天才タイプでよく絡まれるんだ。だから本当にただの知り合い。葵が考えてることはなにもないよ」
俺は焦りながら言う。
「嘘ばっか!」
葵は怒ったように上半身を起こして言った。
「いや! 嘘じゃない! 信じて!」
俺は正々堂々と嘘をつく。
バサッ! 葵が俺を抱きしめてくる。そして俺のお腹のところに顔をうずめた。
「やだよ……なんで別の女の子と喋るの? 最低だよ。私のことが一番だって言ってよ!」
と涙ながらに葵は俺の顔を見上げながら言う。
「……!」
俺は葵のその切羽詰まった表情に言葉が出てこない。
「ねぇ! なんで言ってくれないの? 全部あたしからじゃん! 好きっていうのもあたしからじゃん! 不安にさせないでよ! もう悠斗なんてだいっ嫌い!」
と俺の胸をポカポカ殴りながら葵は言う。
俺はガバッっと葵の体を掴んで言った。
「……葵……好きだ! キスするぞ!」
すると俺の真剣な表情が面白かったのか葵はプッっと吹き出した。
今の駄目だったのか……しまったぁ!! 俺は一瞬で後悔する。
だが、葵は笑った後、俺を潤んだ瞳で見上げて言った。
「はい」
俺はキスをした。
夕焼けの中、俺は葵に口づける。俺たちだけの時間が流れる。
何秒か何時間か分からないキスの後、俺たちは唇を離した。名残惜しそうに俺たちを繋いでいた唾液の糸が消えた。
葵は俺を抱きしめてきた。
「悠斗……あたしやっぱり悠斗のことが好きだ。今ハッキリ分かったよ。あたし悠斗のこと大好きだよ! てか」
葵はそう言うと笑った。
「あたしチョロすぎでしょ。キス一つで全部どうでも良くなっちゃった」
そう言うと葵はおかしそうに笑った。
「今なら悠斗が言うどんな嘘でも信じられるよ。だからあたしを絶対見捨てちゃ駄目だよ! 化けて出るからね!」
とふざけたように葵は言うとニコッっと笑って俺に微笑みかけた。俺は言葉の代わりに葵を抱きしめる。
「葵……大会に出れても出れなくても葵は葵だよ。俺にとってはなんにも変わらない。俺は葵のことが好きなんだ」
俺は言う。
「うん……」
俺の方を見つめて葵はニッコリと笑う。
しばらくそのまま抱きしめ合っていたが、俺は……
「俺ちょっとジュース買ってくるね。葵なにがいい?」
俺は言った。
「ミルクティー買ってきて! あそこの自販機で一番美味しいやつ!」
葵が言う。
「分かった。じゃあ休んどいて」
俺はそう言い残すと保健室をあとにした。そして自販機の方まで歩く。
「葵のあの感じ……ウサ先輩との研究は断った方がいいかなぁ」
俺は言う。
俺が自販機でジュースを選んでいると大吾が俺に声をかけてきた。
「おい! ヤベェって! ヤベェって!」
大吾が俺に言う。
「なにがヤバいんだよ。主語を言え。主語を」
「龍二が! 龍二が大変なことになってるんだよ!」
と大吾は興奮気味に叫んだ。
「龍二が……!」
◇
ヒロインとのイチャラブ多めでお送りしていきます!!!
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