胸の痛みを消す方法を知ってるのはキミだけ

で、これからどうするか……だ。龍二への復讐はまだ済んでいない。大智くんが言いなりになって全部ご破産ってことになる可能性もある……もっともっとあいつを追い詰める方法は……


授業中俺はずっと考えていた。もはやこれは相思相愛だろって言うくらい考えていた。


俺はなにげに左頬を触る。あれも浮気になるのだろうか……実験だもんな。被験者だもんな。問題ないだろう多分。


ブゥン……スマホのバイブが鳴った。教師に見つからないようにスマホの画面を見る。


私絶対頑張るからね! 応援してね!


と葵のメッセージだった。俺は教師に見つからないように


葵なら絶対に出来る! 葵は天才だ!


とメッセージを送った。


キーンコーンカーンコーン


放課後


俺は葵の様子を見にグラウンドに行った。夕焼けが赤くグラウンドを染めている。生徒たちの影が長く伸びていた。


ここで葵が大会の選抜メンバーに選ばれるか決まる。葵が事前に準備運動をしているのが見えた。俺を見つけると俺に向かって大きく手を振る葵。

「がんばれーー!!」

俺もそれに合わせて大きく手を振った。葵は中学時代から陸上一本だったらしい。だから今日の気合の入り方は尋常じゃないハズだ。


俺は邪魔にならないところで遠巻きに葵を見る。むむむ……やっぱり体操着姿の葵も可愛いな。葵がいつも俺に見せる表情とまるで違う。真剣で……なんだか葵が手の届かない他人のように見えた。


「ふむ。さっき手を振ったのがキミの彼女なのかね」

といつの間にか近くにウサ先輩がいた。白衣を着てなぜか仁王立ちだ。


俺は急に声をかけられたので驚いてウサ先輩を見る。

「彼女じゃないんです。まだ付き合ってないというか……ちょっと微妙な関係で」

俺は言う。


「なんだじゃあセフレか?」

ウサ先輩が言う。なんでなんだよ。


「先輩! それは流石に怒りますよ。葵はセフレなんかじゃない。大事な女の子なんです。ところで先輩。セフレってなんの略ですか?」

俺は言う。


「うぁ! それは……せっせっ……卑怯だぞ! 被験者1号くん!」

「自分で言ったんじゃないですか。ウサ先輩の口からセフレって聞いたんですよ。いやぁーーーマジでセフレの意味分かんないなぁ!! どこぞの先輩に教えて欲しいなぁ!!」

俺はささやかな復讐をする。


「うああ……あぁ……」頭を抱えるウサ先輩。


グラウンドでは顧問が生徒たちを集めてなにやら説明しているようだった。

遠すぎて聞き取れないがかすかに声が聞こえる。


「選抜メンバーを決定する! 恨みっこなしだ! 全員ベストを尽くすように!」

「ハイッ!」女子たちの声が聞こえる。


「青春だなぁ。ボクは生まれつき運動が苦手でね。スポーツにかける青春ってものが分からないんだ。悠斗。キミも運動が苦手な方じゃないのかね?」

ウサ先輩が言う。


「いや、俺はそこそこ出来ましたね。部活は面倒くさくてやめましたけど。こう見たらもっと部活頑張っとけばって思ったりしますね」

夕焼けの中俺は言った。


「う……キミはボクと一緒で陰キャだと思っていたのだがな……体育祭の時にみんなで一丸になって取り組んでいる陽キャたちを羨望の眼差しで見つめながらも軽蔑している。そんな心の歪みを持つ『選ばれし者』だと思っていたのだがな……」

ウサ先輩は言う。


「なんですか。その『選ばれし者』っていうのは」

本気でなんなんだ。それは。


「体育祭の準備の時に陽キャ連中にもっと真剣にやれよ! って謎説教されて、いや体育祭なんてどうでもいいし、真剣にやるんじゃねぇよ! てか、お前は体育祭で活躍して女子からモテたいだけだろ! って内心ブチギレてる『闇の力を持つ存在』のことだが……」


「いや、ますます意味が分からなくなりましたが……」

グラウンドでは次々に女子たちが走っている。


「ところで悠斗くん。ボクがキミをなぜ被験者として選んだが分かるか?」

ウサ先輩が聞いてきた。


「えっ? なんでですか?」


「それはボクがキミを捕らえた時に胸が少し痛くなったからだ。ズキリと鈍くね。ボクはその時おやおやこれは恋の病の初期症状かなぁって思ったね」

ウサ先輩は言う。


「それで、キミとキスをしそうになった時、まるで世界にボクとキミしかいない感覚に襲われた。初めての体験だったよ。ボクは自分の頬が熱くなるのを感じたし、運動もなにもしてないのに心臓が激しく打つのを感じた。全身の血管に痛いほどにちが流れて踊り出したい気分だったよ」

ウサ先輩は言う。


「実はね。キミがあの子に手を振っているところを見たんだ。そしたらズキッっと胸が痛くなった。キミがボクの心を傷つけたのか、それとも元々ボクの心が傷ついていたのをキミが見つけたのか。ボクにも分からない」

ウサ先輩は俺に詰め寄る。顔と顔が近くなる。


「この胸の痛みを癒やす方法はキミが知ってるんじゃないか? え? どうしたら胸の痛みは消えるのか、教えてくれ」

とウサ先輩は真顔で俺に聞いた。


「え……あ……」ウサ先輩の迫力に俺はたじろぐ。


ガシャーーン!! グラウンドから音がした。俺はグラウンドの方を見る。


「!」

そこには足を抱えて倒れている葵の姿があった。ハードル競走をしていた葵がハードルにぶつかり転んだようだ。

「あっ!」

俺はすぐさま立ち上がる。


「葵が倒れてます。ごめんなさい。ウサ先輩。俺行きますね」

「あぁ……」


ウサ先輩はそう言うとなんとも言えない寂しげな表情で俺を見た。


俺は葵のところに走り寄る。


葵はどうなるのか!

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