ウサ先輩の恋愛研究室
まずはこの縄を外してやろう。
「んしょ……んしょ……」不器用ながらも頑張って縄を外すウサ先輩。
「よし外したぞ。さぁ恋愛被験者第一号くん。名前はなんて言うのかね」と俺を見下げながら鎧塚小兎は言う。
「神谷悠斗です」
「では被告神谷悠斗。君は私のプライベートな姿をスマホで盗撮した。そのことを認めるかね」ウサ先輩がそう言う。
「プライベート……なんか人体模型にキスしてたのは撮りましたけど。学内ですよ。ここ」俺は言う。
「黙れ! 君は言い訳が多いなぁ! 認めるか認めないかどっちなんだ!」ウサ先輩が詰め寄る。
「撮ったことは認めますけど……プライベートじゃないです」俺は言う。
「ふん。まぁいい」
と言いながらその女の子はパイプ椅子に座った。小柄な少女のような姿だ。白衣の袖の長さが合っていなくて、なにか掴むたびに袖をまくっていた。あれは不弁だろうな。普通の服にすればいいのに。
「ところで君は童貞かね?」突然聞いてきた。
「え? なんて言いました?」
俺は聞く。すると急に自分の言ったことが恥ずかしくなったのか……
「とっとっところで……キミはど、ど、ど、ど、どうてー↗なのかね?」とウサ先輩は吃りながら言う。
「それセクハラですよ。やめてください。先輩」俺は引く。
「そっ! そうか! では言い方を変えよう! キミはヴァージンなのかね?」
「内容一緒でしょうが! 言い方変えただけですよね!」俺は突っ込む。
「むむむむむ……こんなに経験してるか、経験してないかが聞くのが大変なんだな……」ウサがそう言う。
「そんな質問答えられないですよ」
俺は呆れたように言う。
「では、論理的に解決しよう。まず君の中学時代の部活はなんだ?」
「卓球部です」
「では童貞だな」とウサ先輩は言った。
「なんでなんだよ! 偏見だろ! それは!」
「はぁう! 卓球部はモテない奴らの集まりじゃなかったのか……」
「ちなみにウサ先輩はヴァージンなんですか?」俺は聞いた。
「うんそうだな私はって……うぇーーーー!!! なんてこと聞くんだ!! せ、せ、せ、せ……なんだっけ……」
「せの次ならそ ですけど」俺が言う。
「ちがーーう!! そうじゃない! そうじゃないんだ!!」
ウサ先輩はテーブルをバンバン叩いた。
「ヴァージンじゃないってことですか?」
「ちがーーう!! そうじゃない!! そうじゃない!!」
両手で机を手のひらでバンバン叩く。
いちいち面白いなこの子は。
「とにかくだ! キミはボクに恋愛を教えてもらうからな! キミにはボクをドキドキさせる権利を与えてやろう! どうだ嬉しいだろう!」
ウサ先輩がいう。
「じゃあどうしたらいいんですか?」
俺はおもむろに立ち上がる。ウサ先輩は椅子に座っていたせいで身長の差は歴然だ。
「うおっ! 君はデカいな……」
「やめてください。デカいとか傷つきますよ」俺は言う。
「そっそうか済まない」
「ドキドキさせるって具体的にどうしたらいいんですか?」
俺は言う。
「そ、そうだな。愛の言葉を囁くとか、髪を撫でるとか、キスをするとか」
「じゃあキスしますよ。いいんですね」
俺は念押しする。そしてウサ先輩に唇を近づけた。
「うわぉおおおおおお!!! ちょっと待て! ちょっと待て!」ウサ先輩は言う。
「ドキドキしましたか?」俺は聞いた。
「はっ! 確かにドキドキした! その調子だぞ! 被験者いちごぉーーーー!!! ちょっと待て!」
俺はウサ先輩が言い切らないうちにキスをしようとした。まぁこれくらいやればこの子も満足だろう。
「ちょっと待て! 心の準備が!」
「じゃあウサ先輩からキスしてください。タイミングはいつでもいいですよ」
俺は椅子に座って言った。
「お、お、ボクからやるのか……」うさ先輩は驚く。
「はい。いつでもお受けします」
ウサ先輩は椅子から立ち上がり俺の両肩に手を置いてフーーフーーっと獣のような息をする。
「では、行くぞ!」ウサ先輩は覚悟を決めた。
だが
「キスする前にちゃんと告白してくださいね。マナーですから」俺は言う。
「えっ? マナー?」
「可愛らしい声で悠斗のことがしゅきぃ……だいしゅき……これが告白のマナーです」
「え? なんだそれは! 本当か?」
「はい。本当に好きなら好きがしゅきぃになるハズなので。これがマナーです」
もはや無茶苦茶だがここは勢いだ。
「はっ! そうか。好きになりすぎて呂律がおかしくなるんだな……なるほど。それは確かに理にかなってるな」
騙されてしまうウサ先輩。
「ゆ、悠斗のことが」ウサ先輩の体がブルブル震えている。
「しゅきぃ……だいしゅきぃ……」ウサ先輩が言う。
「本当に俺のことが好き?」
そう言いながら俺は親指でウサ先輩の唇を触る。
「しゅきぃ……だいしゅきぃ」
ウサ先輩がトロっとした表情になる。これは……なかなか破壊力があるな。俺は思わずキスしたくなった。
ていうかドキドキしてきた。実験? 被験者? これはもういけるだろう。てかカワイイ……可愛すぎんか……ぷっくりとした唇。この唇が俺のキスをされるために待ってるなんて……脳みそが焼かれる……!
「ウサ先輩。俺もしゅきぃ……だいしゅきぃ……」俺もしゅきぃ語を話した。
するとウサ先輩が
「プッ!」 っと吹き出して俺の顔はウサ先輩の吹き出すツバまみれになる。
「ちょっとそれ! 無理だ!」笑いながらウサ先輩は言う。
「ウサ先輩のことが好きだって気持ち結構入れてたんですけどね……」俺は残念そうに言う。
「ほら! これで!」とウサ先輩は突然俺の左頬にキスをした。
「ドキドキした?」扇情的な目でウサ先輩は俺を見た。
「は……はい……」
「さーーてと! 研究結果を測定するか!」と言ってウサ先輩は指に小さな器具をはめた。まるでパルスオキシメータのように器具だった。
「これはラブゲイン測定器だ。これでボクの恋愛感情を測定出来る」数値が出る。
数値は……92%! だった。どれくらい凄いか分からない。
「うおっ! 中々の数値だな! ボクは確実にキミのことが好きになってるぞ!」
ウサ先輩は言う。俺はその言葉にドキリとする。
ウサ先輩は俺の肩に両手を回しながら言った。扇情的な眼差しで俺をうっとり見つめながら言う。
「ま、キミは中々使えるようだから逃さないぞ。ボクの恋愛の被験者として働いてもらうからな。せいぜい頑張ってくれたまえ」
と唇をペロリと舐めながらウサ先輩は言った。
◇
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