実家
新幹線を降りると、日が傾き始めていた。京都駅のホームは人の濁流で、蒸し暑さを助長させていた。スムーズな人の流れは
<とにかく眠い。おまけに体がだるい>
時計を見ると予定より3時間も遅れていた。不自然な体勢で長時間、眠ったツケだ。実家はまだまだ先だ。
最寄駅から実家まではタクシーで移動した。駅から5キロメートルはとても歩けない。
実家前に到着した頃にはすっかり日が落ちていた。コオロギとカエルの声が響き渡り、田んぼや畑に囲まれた中に屋敷が建っていた。じいちゃんが自分の建築会社に建てさせた自慢のお屋敷。
「ただいま」
「遅かったねえ。和室に晩御飯を用意してるので、待ってて」
台所の方から母さんの声がした。
<晩飯、台所じゃないんだ>
実家にいた頃は台所のテーブルで食事をとっていた。二十畳もある和室を食事に使うのは親戚が集まるときくらいだ。
「おお、こんなに」
和室に移動した
しばらく帰らない息子でも戻ってくると嬉しいものなのか。そう思うと、一年以上、帰省しなかったことに少々、罪悪感が沸いた。
「予定より、だいぶ遅かったな」
父が和室にやってきて座った。そして、ばあちゃんが来たあと、母が飲み物を運んできた。
「
「部屋で食べるって。受験生の夏は大変ね。建築系に進みたいって、毎日十二時間くらい勉強してるわ」
「そう、建築か……」
「母さん、ひとまずビールだ。お前、
「ああ、もらう。それにしても、四人でこんなに食べきれるのか?」
「向こうでどうせ、ロクな物、食べてないんでしょう。今日はいいもの食べなさい」
「
ばあちゃんがビールをチビチビ飲みながら聞いた。
「まあ楽しいかな。友達も沢山できたし。あまり興味がない古典文学も読まされるけど。ところで、ばあちゃん、元気そうだな」
「おおよ。毎朝3キロ歩いとる」
じいちゃんが亡くなって、しばらくは落ち込んでいたようだが、今はすっかり元気に見えた。
「おまえ、高校三年のころ、小説家になりたいと言ってたじゃないか。ライトなんとかっていう。古い文学も参考になるだろう?」
「ライトノベルな。そうかもしれないけど、その古典文学がとにかく厄介でさあ……」
あまり気乗りがしなかった帰省だが、アルコールの力もあって
「あんた。彼女できたんか。紹介しなさいよ」
母が突っ込んだ。
「そこはポイントじゃないの。それに、言った通り、別れたんだよ!」
「振られたってやつね」
母もいつの間にか、コップに自分でビールを注いで飲み始めていた。
「結果的にオレが振ってやったみたいなもんだ」
「それにしても、お前の話だと、確かに連続して不運が起こっているなあ」
父は酔って赤らんだ顔。
「それで、怖くなって実家に帰って来たってわけか。ガハハハハー」
とばあちゃんが銀歯、丸出し笑った。
「そんなことねえって」
それは、本当のことだった。
「何せよ、三回忌に戻ってきてくれたのは良かったわ」
「明日はこの部屋に親戚がいっぱい集まる。のんべえが多いので、お前も覚悟しとけよ」
父は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます