12・反撃

 1・『反撃』

「ビーコンがMSPに切り替わりました」

 ナビ画面を見て星野が切迫した声を出した。パトランプの赤い閃光とサイレンが雨の国道に乱舞している。菱形を載せたパトカーは、法定速度を大幅に上回る速度で、本格的に振り出した大雨の中を疾走していた。

「緊急配備状況は? 」

「到着地点不明の為未だ下達されていません」

「宮島ぁ! 聞こえるか! 」

「聞こえております」

 ナビから落ち着いた声がした。

「栃木、群馬、埼玉県警に事前要請急げ。範囲絞ったら道路封鎖させろ。それとMSPデータ! 」

「了解。MSPデータを送ります。警部の現在位置から10キロ先を移動中」

 ナビの画面が消え再表示されると、マップ上に赤いルートが示された。D1と表示された丸がゆっくりと北上していく。

「絞込みは? 」

「該当が複数個所。次の分岐の進行方向で……」

 ナビの向こうで罵り声がした。

「到着地点が判明しました」

 宮島の冷静な声がした。

「何処だ? 」

「人特研、人類特殊進化研究所です」

「……何? 」

「その跡地に向かっている可能性が大です」

「あそこは破棄されたんじゃないのか? 」

「確かに研究施設は震災で破壊され、封鎖されている筈です。ですが進行方向先にはその施設しかありません」

 菱形は息を吸った。

「埼玉、群馬両県警に周辺道路封鎖させろ! 」

「了解しました。施設周辺5キロの完全封鎖を命じます。では警部、後藤君をお願いします。私は人特研へ向かいます。警部の方へも応援部隊を差し向けます」

 菱形は宮島の素早い行動に驚きの声が出た。

「今からか? どうやって」

「それはお答えできません」

「テメェふざけてんじゃねぇぞ! 」

「ふざけてなどおりません。私は現在高度な政治力学で動いている為、説明出来ない迄です。後日全て説明申し上げます。今まで私が警部に隠し事をしましたか? 」

 菱形は言葉を飲んだ。

「私も現場に乗り込み指揮を執ります。一部始終、きちんと報告します」

 菱形は歯を食いしばった。

「おい……殺すんじゃねぇぞ」

「その為の現場指揮です。ご安心を。では急ぎますので」

 ナビから宮島の気配が消えた。

 バチバチと大粒の雨がフロントガラスに勢いよく当たり一瞬で弾け後方へ飛んで行く。高速で動くワイパーの向こうに照らし出された道は、嵐の中だった。

「急げ。後藤君を助け出した後、小野寺葵も助ける」

 星野は頷き、アクセルを踏み込んだ。

 ◇

 大雨の中、立川駐屯地を3機のCV-22Jオスプレイは、スメラギ隊、オオワシ隊、アカツキ隊の3小隊を載せ飛び立ち、埼玉県と群馬県の県境に急行した。それぞれ隊は完全武装した陸自の特殊部隊で1機に10名、計30名が搭乗していた。そのうちの指揮機を務めるスメラギ隊の中に、11人目として宮島は乗り込んでいた。

 オスプレイのキャビンの中はターボシャフトエンジンの発する轟音が鳴り響いている。轟音はイヤーマフを兼ねたヘルメットでどうにか防いでいたが、それでも漏れてくる低周波は、絶え間なく振動する機体と相まって、宮島を不快にさせていた。

「特務陸佐、研究所の衛星写真が送られてきました」

 宮島の耳に甲高い声が響く。キャビンは自然と声が大きくなる。

「全員に展開」

 宮島のバイザー内に衛星写真が表示された。宮島の目にはそれが空中に浮かんで見える。

「今から1週間前の人特研の映像です。映像から何らかの工事が始まっていると推察されます」

 宮島は衛星写真に焦点を合わせ、まばたきを2回して画像を拡大した。写真には山を切り開いて出来た台地に青いブルーシートで囲われた長方形の建物が見える。建物の周りには数台の黒い車と、2台の大型クレーンが見えた。敷地の大きさの割に建物は小さいが、敷地のほぼ半分は赤茶けた土がむき出しになっている。その赤土の上方に位置する山肌は、そこだけ木々は無く大きく抉られていて、緑の下草で覆われている。大震災の時の爪痕だった。恐らくこの部分が大きく崩壊して山津波となり2棟あった内の1棟を押し流したと思われた。赤土はその時の名残である。そして敷地を外れると急峻な谷になっている。人特研敷地はその谷を跨ぐ1本の橋で外界と繋がっていた。

「着陸可能箇所は? 」

「画像解析の結果、周辺道路、橋は不可。建物屋上階にヘリポートがありましたが、震災の際屋上階は破損し、一部天井が崩れた状態のままです。よって対象建物からの反撃が無い前提での敷地内着陸が可能です」

 建物直上からの急襲は当然駄目ね、宮島は舌打ちした。

 ポンっと電子音が鳴った。

「D1、移動を中止。座標動かず」

 宮島は即断した。

「アカツキ隊はD1座標へ急行。D1の救出に当たれ。その際警察官2名の遭遇もありうる。慎重に行動し、状況によっては警察官の指示に従え。作戦行動復帰は追って指示する」

「了解。アカツキ隊。D1座標へ向かいます」

 また電子音が鳴る。バイザーに「WAKUI」の文字が表示された。

「新しい情報だ、クソアマ。衛星写真遡っていじくりまわしたが、敵の数は多くても10人そこらしかいねぇ。楽勝だな、ぶっ殺して来い。それと建築申請時の人特研の設計図面と仕様書だ。戦争ゴッコで使えや」

 早口で涌井が叫んだ。

「感謝するわ、涌井」

「気持ち悪い事いうな。だが厄介な事があるぞ。あの建物の壁にはイノセン社のように電磁波遮断シールドが埋め込まれている。建物内部ではどうにか無線は使えるが、中長距離通信は恐らく遮断される。お前は空からの高みの見物って訳にはいかなくなる」

「ほんと厄介ね、でもそれくらいの覚悟はしているわ。心配してくれるの? 」

 返事もなく突然、ブッと音が切れ、バイザーに数枚の設計図が展開した。

 2棟はH型に配置され、棟の中央部で渡り廊下により連結していた。各階層の平面図と立面図から、地上5階地下1階だと分かる。宮島はそのひとつひとつに焦点を合わせる。設計図の枠が赤く点滅した。

「データリンク、全隊に展開。スメラギ隊及びオオワシ隊は敷地中央へ強硬着陸する。各員建物配置を覚えろ。CQB近接戦闘も有りうる。だが現状は配置変更していると思え。対象勢力はブリーフィング通り民間傭兵の可能性が高い。数は10名程度だが、佐村了が居る事を忘れるな! 」

     ◇

 ナイフの刃先が脇腹の傷跡に入り込む。ブツと縫合糸が切れる音が体内から聞こえた。当時に冷たい感触が体内に入り込み、肉を切られる鋭い痛みが後藤の脇腹に突き刺さる。痛みから逃れる本能で体が勝手に身を捩ろうとしたが、上半身は肩を抑えられ、下半身は男が両足に座り、それすら出来ない。余計痛みが胴回りに集中し失神しそうになる。

 傷口が開きそこに男の2本の指が刺し込まれる。男の指はくの字に曲がり後藤の体内を引っ掻き回した。血糊が男の指に絡みつきヌメヌメと体内を動く。傷口は線から穴へと広がっていき血と脂が脇腹から滴り落ちる。外から押されていた痛みとはまた違った激痛が、失神しそうだった後藤を辛い現実へと引き戻した。

 床に落ちているゴミを拾い上げるかのように、男の指が何かを掴み何の躊躇もなく体内から引きずり出した。後藤は猿轡の棒が砕ける程の鍔力で強く噛み、痛みに耐えた。

「それか? 」

「らしいな。見た事ない型だが」

 ちっと舌打ちがした。ボタン電池程の薄さの長さが数センチはある楕円形の物体が、黒緋に染まった男の指に挟まれていた。男はそれを床に置くとナイフを振り上げ突き刺した。切っ先には楕円形の物体は突き刺さっている。男は2、3度ナイフを床に叩きつけると物体は綺麗に半分に割れ、床に転がった。

「追けられたか、さてどうする」

「指示あるまで待機の命令だ。とりあえず連絡入れて指示を仰ぐ」

 男がナイフを後藤の足元に置いた時だった。

 後部座席の両側ガラス窓が同時に爆裂した。砕け散ったガラスが車内に散弾の様にはじけ飛ぶ。両側の破壊された窓から雨風と共に腕が飛び込んで来て後藤を抑えていた男達に掴みかかった。上半身に居た男は襟首を掴まれ、そのまま後方に引きずられると、がら空きになった喉ぼとけに腕が差し込まれ、裸絞の体勢になった。下半身に乗っていた男は首に太い二の腕が絡むと、強力な力で後ろに引っ張られた。

 後頭部が破壊された窓枠を強打し寸時動きが止まったが、太い二の腕は構わず男を車外へ放り投げた。

「星野ぉ! 離すなぁ! 」

 風雨の音にも負けない菱形の大声がした。

「りょぉぉぉかあぁぃぃ! 」

 菱形の足元には、背中から地面に叩きつけられた男が仰向けのまま、鬼の形相で身を動かそうとしていた。菱形は男の顔面目がけ渾身の力で靴底を振り下ろす。肉が潰れる音が風雨に交じる。男の動きは止まったが菱形の足の動きは止まらなかった。再度足を持ち上げると今度は全体重を載せる勢いで男の顔に再度踏みつけた。今度は骨が折れる音が重なって鳴る。足をどかすと、だらしなく口を開き、白目を向いている男の顔が見えた。

 寝てろ! 菱形は再び車内に腕を入れ、後部ドアのロックを解いてスライドドアを開けた。車内に飛び込み後藤の足を掴もうとした時、菱形の顔に衝撃が走り、首が後ろに仰け反った。星野に掴まれていた男の蹴りが、顔面に入った。菱形は車外に転がり出そうになったが、手を広げ両側のドア枠にしがみ付いた。天を仰ぐ顔に雨が当たる。

 くそがぁぁ! 菱形は両腕に力を込め再び車内に体を投げ入れた。蹴りが飛んでくる。今度は顔を掠め左肩に直撃したが、腰の入っていない力任せの蹴りでは、痛みを菱形に与えるだけで、突進を止める事は出来なかった。菱形は次々と繰り出される蹴りを受けながら後藤の足首を掴むと手加減しないで引っ張った。後藤の体が座席の上を滑り、菱形と共に車外に転がり出た。

 砂利の上で後藤は膝まずいた態勢になった。

「大丈夫か? 」

 菱形は猿轡を外した。雨がふたりを洗う。後藤は力なく頷いた。

 車内で首を絞められていた男は、腰の裏に手を回しベルト後ろに装着していたナイフを抜き出すと、首を絞めていた星野の右腕に突き立てた。刃先は右上腕尺骨に当たり止ったが、男はそれに沿って星野の右腕を切り裂いた。筋肉と神経を切断された腕は一気に力を無くし力が抜ける。星野は激痛に歯を食いしばり耐え、残った左腕で男の顔面を抱き込もうと、身を乗り出した。その時男は思い切り首を後ろに振った。強烈な一撃が星野の顔面を直撃し、男を拘束していた二の腕が解かれた。

「警部! 」

 星野は腹の底から大声を上げ、背中から地面に落ちた。

 その声に振り返ったと同時に車内から男が飛び出してきた。

 菱形は本能的に身を翻した。ざっと衣擦れの音がする程の距離を、男が矢の如く走り抜ける。菱形は何かが当たった感触が残る右わき腹に手をやった。肉体には届いていなかったが、雨で濡れ重くなった上着がざっくりと切り裂かれていた。

 菱形はまだ蹲っている後藤を守るよう一歩前に出た。2、3メートル先には男が既にこちらを向いて立っていた。雨は変わらず降っていたが、一時の勢いは衰え、今は小雨になっていた。菱形は男の顔を睨む。車内から漏れる光に浮かび上がった男の顔を、菱形は知っていた。

「ハムの次は運転手で、次は誘拐犯か? 警官の再就職は厳しいなぁ北岩ぁ! 」

 北岩は答えず菱形を睨み返していた。右手にはナイフがギラリと光っている。北岩は腰を落とし左手を少し前に出した。

 馬鹿野郎が、菱形も左足を前に出し迎え撃つ体勢を取った。

 北岩が突進し一気に間を詰める。菱形の心臓めがけ槍の如くナイフが突き出される。菱形は身を捻り寸毫でそれをかわすと北岩の右手首を掴み、同時に北岩の腕関節に下から掌底を喰らわした。逆関節を喰らった北岩の腕から鈍い音が鳴った。ナイフが地面に落ちる。

「痛ぇなぁ……」

 菱形が低い声を出した。菱形の右わき腹に北岩の左手が深く食い込んでいた。ふたりの体は重なる様に密着し、顔も息が掛かる近さにあった。だが北岩の眉間に皺が寄る。北岩は左手首を廻そうとしたが、強い抵抗を感じた。

 菱形は素早い動作で北岩の右腕を抱えると腰を落とし更に北岩の懐に入り込み一本背負いを放った。北岩の体が宙を舞う。空中で大きく回った北岩の身体は、そのまま背中から地面に叩きつけられた。

 菱形は掴んでいた北岩の右腕を離し、半歩後ろに下がった。右わき腹に手をやり、そこに突き刺さっていたナイフを抜き取った。深く息を吐き出す。ナイフは防刃ジャケットにチタン鋼の板を仕込んだ特殊ジャケットで止まったが、それでも北岩のナイフを伴った突きの衝撃は、菱形の肋骨にひびを入れていた。

「佐村相手に何の準備もしないで来るわけねぇだろ」

 北岩は仰向けのまま動かなかった。菱形はナイフを無造作に後方に投げ捨てると腰裏にある手錠に手を掛けようと、寸時目線を北岩から切った。

 バババン。3発の乾いた銃声が暗闇に響いた。

 ドクン! 後藤の心臓が強く波打った。

 北岩は仰向けの状態で左手を頭上に伸ばし、隠し持っていた銃で菱形を見ずに乱射していた。初弾は外れたが2発目は菱形の腹部に、3発目は左太ももに命中した。左脚が崩れ菱形は左側に大きく傾きながら地面に倒れ込んだ。下半身は完全に力を失い、倒れ込む寸前で地面に両手をつけ身体を支えるのがやっとだった。

 下腹部と左脚に、焼き鏝を当てられたかのような灼熱を感じる。菱形は苦悶の顔を上げた。北岩は立ち上がっていて菱形に黒い銃口が向けられていた。

「てめぇ……佐村が何をするのか……分かって」

 菱形の苦しい息遣いと共に発せられた言葉を、北岩は遮った。

「葵様を助ける」

 感情の全く籠っていない声だった。

 ――何?

 菱形は北岩を睨んだ。冷や汗と雨が混ざった生ぬるい水が、菱形の顔を濡らす。

「正気か? 佐村は葵を捨てて、後藤君に乗り移ろうとしているんだぞ」

「……その後、その男の心臓を、葵様に移す」

 菱形の瞳孔が大きく開く。

 北岩の言葉は、菱形の体中の血液を瞬間沸騰させ、動かない脚を動かした。

 外道がぁ!

 叫びと共に手負いの獣の最後の反撃の如く、北岩に飛びかかった。

 バン!

 無情の銃声が響いた。

 菱形は弾かれた様に後ろに仰け反り、ゆっくりと倒れて行った。

 北岩は銃を向けたままゆっくりと菱形に近づいて行く。

「銃を捨てろ! 」

 北岩の背中に声が飛ぶ。星野が車を背にして左手に持った銃を北岩に向けていた。北岩は止まり首だけを横に向け右肩越しに星野を捉えた。

 星野の右腕は力なくだらりと下がり、血が止めどなく流れていた。銃口は星野の荒い呼吸に同調し、絶えまく上下にぶれている。裂けた右腕の痛みが、星野の遠くに行きそうになる意識をどうにか留めていたが、血圧と体温が下がって行くのも実感している。背中を車に預けていなければ倒れそうだった。

「その状態で当たると思うか? 」

 北岩は再び歩み始めた。

「動くな! 撃つぞ! 」

 残った力で星野は絶叫した。

 北岩がタメの無い動作で左脚を軸に一瞬で回転する。身を翻し瞬時に止まる。伸びた左腕の先にある銃が、星野に狙いを付けたと同時に引き金が引かれた。刹那の遅れで反応した星野も引き金を引いた。

 2発の銃声が重なる様に鳴った。

     ◇

 オスプレイの後部ランプが開け放たれた。乱気流が雨粒を伴ってキャビンに吹き込んでくる。機体の後方下部に取り付けられたサーチライトが発光し、ブルーシートに覆われた、かつての人特研のビルが照らし出された。事前の情報の通り、5階建ての屋上の床の一部は崩落していた。

 ブルーシートはローターが発する下降気流で大きくはためき、めくれあがってビルの周囲を囲んでいた単管足場が露わになった。

「射撃準備良し! 」

 後部ランプに設置されたM134ミニガンのトリガーに指を掛けたガンナーが、風切り音に負けない声で叫ぶ。

「発砲! 」

 ガンナーの肩に手を置いていたスメラギ隊隊長の櫛田が命令を下した。電動モーターがM134の6本の銃身を高速で回転させる。

 断続的な発射音とオレンジ色のマズルフラッシが銃口から迸り、無数の火線がビルに叩き込まれていき、盛大に火花と火の粉が爆ぜる。オスプレイは発砲を続けながら滑る様に機体を水平にスライドさせていく。ブルーシートに無数の穴が次々と空いていき、鉛弾の暴風が足場とビルの外壁に叩きつけられる。足場は簡単に弾け飛び、単管パイプとアルミ製の床が吹き飛ばされ、地面に次々と落下していった。

    ◇

 銃撃が始まる数秒前、雨雲に覆われた暗闇の急峻な山谷を縫って、2機のオスプレイが、人特研を急襲した。

 オオワシ隊機が先行し、その直ぐ後をスメラギ隊機が続く。両機ともプロップローターを垂直に立てたヘリコプターモードだった。スメラギ隊機は人特研敷地に侵入するとブルーシートに覆われた建物の手前で機首を軸にしてドリフトの様に大きく右旋回し、後部ランプを研究所建物に向けた。

 宮島のバイザー内の画面右半分には、ガンナーのヘルメットに装着されているカメラを通じて火花を爆ぜているビルが映し出されている。ビルからの反撃は無い。オスプレイは回り込みながら、容赦ない銃撃をビルに浴びせていた。

 制圧射撃を行っているスメラギ隊機を右手に見ながら、オオワシ隊機は通常よりも早い速度で急降下していった。コクピットにGPWS地上接近警戒装置の警戒音が鳴り響く。パイロットはローター制御装置のレバーを最大限に押し込み、ローター出力を最大限にした。フリーフォールのようにキャビン内に居た隊員たちの体が浮き、次に下に押し付けられた。

「ハードランディング! 」

 パイロットが叫ぶ。既にリフトオフしていた降着装置は、地面に叩きつけられる寸前のオスプレイを受け止めた。衝撃緩衝装置が最大限に働きオスプレイは数回バウンドしながら地面に激しく着陸した。キャビン内部も激しく上下する。同時に後部ランプが開いた。ハーネスを素早く解放した完全武装の隊員たちが、一斉に後部ランプドアに向って走り出した。

「オオワシ隊、着陸確認! 」

 宮島にオオワシ隊からの報告が届く。

「橋本、大下は車両を破壊に向え! 残りの者は突入!」

 宮島が命令を下す。

 絶え間なく続く空中からの銃撃により、ブルーシートと足場はほとんど消し飛び、ビルはその姿を現した。震災の時に発生した火災の跡の黒い煤が所々残る外壁に、弾痕が次々と刻まれていく。壁の面積に対して少ない面積の窓にも容赦なく機銃弾は打ち込まれていった。震災に耐え残っていた嵌め殺しのガラスも砕け散り、飛び込んで来た銃弾が室内部で跳弾する。

「オオワシ隊の突入確認後、我々も強硬着陸する。全員装備の最終確認 」

     ◇

 銃声が暗闇の山間に消えて行った。

 星野は撃たれたと思い、目を思わず閉じた。だが右腕の痛み以外、痛みは無い。北岩が外したのかとすぐに目を開け、そこに信じられない光景を見た。

 北岩の左手が真っすぐに天に向いていた。いや、向かされていた。

 誰かが北岩の左手を掴み、天に向けさしていた。誰だ? 星野はその突然の闖入者を認識するのに数秒掛かった。

「後藤君!」

 星野は思わず叫んでいた。

 北岩も信じ難い表情で自分の身に起きた事を受け止められずにいた。さっきまで地面に蹲っていた後藤が、目の前にいる。だがそれ以上に信じられなかったのは、後藤は後ろ手に回され、両親指をナイロン手錠で拘束されていた筈だ。それを引き千切ってきたのか?しかも自分の左手首を万力の如くの力で締め付け、上に引き上げている。後藤は俯いていて、濡れた前髪が顔を隠し北岩からは見えなかった。

 北岩は腕に力を込め、後藤の締め付けを振りほどこうとしたが全く動かず、逆に更に締め付けが強くなり、手首が折れそうになった。ギリギリと手首が鳴る。骨が変形して神経を圧迫し、握力が無くなる。銃が北岩の手から落ちた。北岩は後藤の金的からの下腹部を狙い、右足を後藤の股間に入れ込むと右膝を立て思い切り蹴り上げた。

 バギっと骨が砕ける音が体内に響いた。後藤の左拳が右太ももにめり込んでいる。後藤の拳は北岡の右大腿骨を粉砕していた。北岩は目の前が白くなった。

 今度は北岩が下半身から崩れた。が、引き上げられた腕がそれを許さず北岩を宙づりにした。後藤は片手一本で、巨躯の北岩を吊り上げていた。態勢を崩した北岩の眼前に、後藤の顔がある。

 北岩は後藤の眼を見た。無表情の中で、眼は殺意が零れ落ちそうな程の光に満ちていた。その眼光を後藤は最近間近で見た事を思い出した。佐村に乗っ取られた小野寺葵のあの時の目。自分の頸動脈にシャーペンを突き立てた時の眼だ。あの時の佐村の眼光は、殺戮を楽しむ光だった。だが後藤の眼は殺意に満ちながらも、哀しみがあった。

「タカチホ……ブラッド……」

 思わず言葉が出た。後藤の目尻がピクリと動く。

 重低音が山間に木霊して聞こえて来た。星野は真黒な空を見上げる。音の発生源の姿は見えないが、重低音はどんどん近づいてくる。

 突然、昼になったかの様な爆発的な光が星野達の周りに差し込んできた。周囲の暗闇が一転してハレーションを起こすほどの白い世界になった。廃墟になったドライブインの建物と菱形達が乗って来た車、そして後藤を拉致したワンボックスカーと、5人の男達がその中に浮かび上がる。

 ローターが発する重低音は低周波となり、激しい下降気流と共に星野達の居る場所を襲う。小雨の雨粒が巻き上げられ大きく渦を巻く。暴力的な風圧と体が震える低周波で、貧血状態の星野はその場にへたり込んだ。

『全員動くな。繰り返す全員その場を動くな。動けば発砲する』

 ローター音にも負けない程の大音声が、空から降って来た。

 荒れ狂う風と音の中、後藤は掴んでいた北岩の手首を離した。糸の切れた操り人形のようにドサリと北岩は地面に落ち、倒れた。

 

2.『RPG』

 再び強まって来た風雨が、停止したローターにあたり風切り音を鳴らす。ドライブイン跡地に着陸したオスプレイから離れた場所に幕が張られた簡易テントが設営されていた。テントの中はLEDランタンが数個吊り下げられ、青白い光を放っていた。その簡易テントの中に数人の隊員と共に後藤達は居た。後藤は、陸自の隊員から支給された迷彩柄の野戦戦闘服に身を包んでいた。

 後藤の傍らには、右手上腕部を包帯で縛られた星野がストレッチャーに横たわっている。

 後藤の反対側には隊員がいて、星野の左腕にニードルを差し込んでいる。LEDの青白い光に照らされ、目を閉じた星野の顔色は更に青くなっていた。

 後藤は静かな目で星野を見つめていた。

「容態はどうだ? 」

 菱形がいつの間にか後藤の横に立っていた。菱形はアルミ製の松葉杖を突き、左脚を白い包帯で縛られていた。

「失血のショック症状が出ていますが、重篤な状態ではないです」

 ニードルを差し込んだ隊員が事務的に話した。隊員の右手には輸血パックが握られていて、テントの梁から下りて来たフックに掛けた。「今は鎮痛剤で寝かせています。救急車到着まで時間ありますが大丈夫でしょう」

 菱形は小さく安堵のため息を吐いた。

「菱形警部は大丈夫ですか? 」後藤が聞いた。

「脚はご覧の通りだが、防弾ジャケットのお陰で命拾いした」

 菱形は腹の当たりを叩いた。コンと固い音がする。シャツには、ベルトのすぐ上と心臓の当たりに黒い小さな穴がふたつ空いていた。

「北岩……さんは何か喋りました? 」

 北岩ともうひとりの男は両手を後ろ手に拘束された状態でテントの外に座らされていた。その囚われた男達を3人の完全武装した隊員が囲んでいる。

「ああ。憑物が落ちた様な面になって全部唄った。小野寺葵、佐村は人特研にいる」

「そうですか」

 特に驚いた様子も無く、感情も表に出ない声だった。

「君の方こそ大丈夫か? 奴らに拷問受けていただろ」

「それは気にしないでください。もう傷は治りましたから」

 菱形は後藤を横目で見た。内向的で優柔不断な所がある青年。それが菱形の後藤の人物評だったが、今自分の横に居る後藤は全くの別人に感じた。

 迷彩服を着ていても、その体の線の細さは隊員たちとは明らかに違う。だが、それでも後藤の放っている静かなる威圧感は、幾つもの修羅場を潜り抜けて来たベテランの刑事や、今テントの中に居る陸自の精鋭達と同じ印象を受けた。

「……今、アクティブなのか? 」

 後藤は小さく頷いた。

「北岩さんの銃撃の音でその状態になりました。少し早かったですけど、仕方ないです」

 少し早い? 菱形は不思議な言葉だと思った。

「どういう意味だい、早いと言うのは? 」

 後藤は首を傾げた。

「後で説明します。まだ終わっていませんから」

 菱形が何か言いかけようとした時、後藤は胸に手を当て苦悶の表情になった。

「どうした、後藤君? 苦しいのか? 」

 菱形の見た目にも後藤の急変は異常だった。

「やめろ……やめ……」

 譫言の様に後藤は呟いた。菱形が背中に手をやろうとした時、後藤の体は崩れ地面に片膝をついた。

「おい、どうした後藤君」

 菱形の言葉は後藤に届いていなかった。星野を看ていた隊員が近寄ってくる。

 後藤の脳裏には、バイザーと一体化したヘルメットを被った隊員が見えていた。そのヘルメットにはスコープの十字線がしっかりと刻まれていた。

『やめろ! 』

 後藤は叫んだ。だが、それをあざ笑うかの様に細く白い指がトリガーを引いた。後藤の脳幹に快感が電撃の如く迸る。

     ◇

 宮島の見ていた映像が、突然大きく跳ねた。

 ガンナーの頭が葵の狙撃により打ち抜かれていた。ガンナーの頭が大きく後ろに仰け反り、すぐに戻って来る。その動きはカメラを通じて宮島にリアルタイムに伝わっていた。映像を見入っていた宮島は自分が撃たれた感覚に陥り、咄嗟に映像を切る。

 事切れたガンナーの首が折れ、ヘルメットの後頭部に開いた穴から脳漿と血飛沫が細い筋になって噴き出している。トリガーを引いていた指は既に離れ銃声は止まっていた。

 隣にいた櫛田は寸時の空白の間を置いて事態を認識し、咄嗟に頭を下げた。左肩に自動車がぶつかって来たかの様な衝撃が走り、体が捩じれる。櫛田はもんどりうって床にうつ伏せで倒れた。頭の前をヒュンと空気を切り裂く音がして、ガンガンっと重い音がキャビンに響いた。

「スナイパー! 岡島一等陸曹被弾!」

 櫛田は伏せながら叫んだ。右腕だけで匍匐前進をして開口部の縁までにじり寄った。視界には大粒の雨が乱反射するサーチライトの中、廃墟のビルと瓦礫が散乱している屋上しか見えなかった。あのビルからの狙撃ではサーチライトの強力な逆光を無視してヘッドショットをした事になる。しかも機関銃弾が槍衾の如く降ってくる方向に向かっての狙撃。通常の狙撃ならあり得ない事だ。

 佐村か……櫛田は歯を食いしばった。

 再びガンガンと音と共に、キャビンの天井から火花が散る。続いてパンっと一際高い音がした。オスプレイ下部のサーチライトが狙撃によって破壊された。

 ひとりの隊員が隊長の背中に覆い被さってきた。「隊長、下がってください。危険です」隊員が隊長の背中に取り付けられているハーネスを外しながら、別の隊員が腰のベルトを強く後方に引いた。隊長の体はキャビンの奥へと引っ張られていった。

「隊長確保。左肩負傷、対象建物からの狙撃がある。パイロットへ、対象建物から距離を取れ」

『了解した。一時後退する』


 ――駄目だ!

 再び後藤が叫んだ。


 迷彩色のポンチョで頭からスッポリと全身を覆い、瓦礫の中に身を潜めていた葵は、スナイパーライフルを横に置き、RPGを担ぎスコープを覗いた。

 葵の目には、スコープレンズを濡らす雨粒だけ拡大して見えた。

「見えねぇな」

 言葉とは裏腹に葵はニヤリと笑うと短く舌を出し、唇をペロリと舐めた。

『駄目だ! 』

 葵の頭の中で後藤の叫びが響く。

「待っているよ、後藤君」

 葵は楽しげに、ひとりごちた。

 葵の瞳孔が大きく開く。聞こえていた雨と風の音が消え無音の世界になる。音だけではない。降っていた雨が丸い水玉になって空中に静止した。

 スコープの中では、雨が止み、真っ白になった空に、動きが止まったオスプレイが浮かんでいる。その機影の輪郭は鮮明だった。

 葵の焦点が定まった。オスプレイの機体が急速に拡大する。

 葵は右エンジンに狙いを定め、トリガーを引いた。

 オレンジの炎が葵の顔を照らした。バックブラストが細かな瓦礫を吹き飛ばす。急激に動き出した世界は、雨風が吹きすさぶ嵐の夜に戻った。

 火球が真っすぐにオスプレイに向かっていき、右エンジンを直撃し爆発した。カウルは吹き飛び内部のターボエンジンとローターを駆動する回転ギアもその機能の大部分が爆発により深刻なダメージを負った。切断された燃料パイプから噴き出したケロシンが瞬間で気化し、爆発炎上する。その爆風はローターを粉々に吹き飛ばした。

 直後、墜落防止装置のクロスシャフトが作動した。右エンジンの出力が途絶した信号を受けた左エンジンは、大きく唸りを上げ設計限界出力を超えた推進力を生みだす。だが大きく右に傾いた機体をすぐには立て直す事は出来なかった。片肺飛行状態になったオスプレイが徐々に高度を下げていく。

 葵はRPGを投げ捨てると、立ち上がり耳に手を当て、インカムのボタンを押した。

「上は潰した。やれ」

 ビルの5階と4階の窓枠の影に隠れていた3人の男たちが一斉に窓枠から身を乗り出した。肩にはRPGが担がれている。

 男たちの視線の先には、アイドリング状態で着陸しているオスプレイが見える。照準の狙いもそこそこに、男達はRPGを同時に発射した。無防備な機体上部に3発の弾頭は吸い込まれていく。1発は機体をギリギリで外れ地面に直撃して爆発したが、残り2発はオスプレイの天井を突き破るとキャビン内部で爆発を起こした。紅蓮の炎と火柱が、開けられていた後部ランプから噴き出し、直後にオスプレイは爆発炎上した。

 先行しビルを囲むように展開していた隊員達が、RPGの発射に気付きビルに銃口を向けた。赤外線感知バイザーに高温を発している場所が表示される。隊員たちはその場所に向かって一斉射撃を行った。5階にいた男はすぐに身を隠して無事だったが、4階のふたりは銃撃を受け絶命した。

     ◇

 GPWSのアラームが鳴り響く。

「クラッシュランディング! 」

 パイロットが絶叫する。右に大きく傾いたキャビンの中で隊員たちは機体が落ちていく垂直Gと闘っていた。椅子に身を固定していた宮島だが、加速度的に変化するGの変化に血流が脳に送られなくなり、ブラックアウトしそうになる。その時、宮島は身体が押しつぶされる程の圧力を全身に感じた。同時にバリバリと金属が引き裂かれる轟音がして、宮島の意識はそこで途絶えた。

     ◇

 屋上の床から一段高い場所にあるドアの無くなった開口部に、自分の身長と同じ長さのスナイパーライフルを担いだ葵が足を掛けた時、背中の方向から鈍い爆発音が聞こえた。葵は一旦止まったが、そのまま開口部をくぐった。

 かつて2棟あった人特研の『A棟』と呼ばれていた建物の中は、不気味な暗闇に没していた。建物の中に入ると雨音は聴こえなくなったが、闇に没する建物の奥から、ゴォォと耳を震わす重低音が、絶え間なく聞こえて来る。

 葵はそこでポンチョを脱ぎ捨てた。露わになった葵は、黒いツナギを着ていた。葵が立っている床には、滴り落ちてきた水で、水たまりが出来始めていた。

「お疲れさま」

 闇の中から声がして、白いタオルが差し出された。天海だった。葵はライフルを天海に渡し、タオルを受け取ると、タオルで顔を拭いつつ、闇の奥へ歩き出した。

「キレている奴があっちにもいると思ったが、まさか空から来るとはな」

「あれって自衛隊? 米軍? 」

「自衛隊だろ、アメリカがわざわざ日本にオスプレイを貸すかよ。それより着替え、あるよな」

「そのサイズはもうないわよ」

「これじゃねぇよ、葵の奴だ」

「それなら勿論。でも洗濯はしてないわよ」

「しとけよ、俺は良家のお嬢様だぞ」

 ふふっと天海の笑い声がする。

「どうしたの、急に着替えるなんて? 」

「わざわざ、スペアがあっちからやって来るんだ。お迎えしなきゃな」

「あら、後藤君もモノ好きね」

「葵ちゃん、人気者だ」

「でも葵ちゃんの可愛らしい姿見て動揺するかもしれないわね」

 今度は、葵が高笑いした。甲高い笑い声が闇に木霊する。

「ねぇよ、奴は今、完全にアクティブだ」

     ◇

 後藤は立ち上がり大きく息を吸った。菱形は後藤の顔を見た。

 さっきまで苦しんでいたとは思えない程の、感情がない能面の中にある後藤の目は、恐ろしいほど冷たい目になっていた。菱形はその目の中に、佐村の影を感じた。

「佐村か? 」

 菱形らしくない小声だった。後藤は頷きもせず、目で答えた。

 その時テントの内外で空気が変わったのを感じた。陸自の隊員たちの動きが慌ただしくなり、緊迫感が一挙に高まる。菱形達の所に小柄な隊員が近づいてきた。重装備のタクティカルベストが、ガチャガチャと音と立てる。宮島が言っていた応援部隊のアカツキ隊隊長で、浅尾と名乗った人物だった。

「菱形警部、我々は直ちにここを出立します。警察車両の到着までまだ時間があるので隊員を3人残していきますが、お気をつけて」

 成人男性としては低い身長の浅尾だが、精鋭の兵士らしい精悍な表情と、態度は堂にいっていた。

「墜落した機体に、宮島さんは乗っていたんですか」

 浅尾はチラリと後藤を見た。

「宮島特務陸佐搭乗機と別隊機からの連絡が途絶えました。状況は不明ですが、我々も任務遂行に向います」

「僕も行きます」

 後藤は静かな声で告げた。菱形は目を開き後藤を見た。浅尾は表情を変えず後藤を向いた。

「確認ですが、後藤さんは今アクティブですか」

 後藤は頷いた。

 ザッと地面を蹴る音がして浅尾の姿が消えた。浅尾の動きに菱形は反応出来なかった。油断しきっていた事もそうだが、消える前の浅尾は全く予備動作をせず、何のもの音を立てず、いきなり動いた。次の瞬間、浅尾は後藤の目前に立っていた。

 菱形は息を呑んだ。浅尾の右手にはコンバットナイフが握られている。浅尾は刃を上に向け、逆袈裟で後藤に切りつけた。菱形は手を伸ばすことも後藤を突き飛ばす事も出来なかった。刃は斜め下から最短距離の軌道を描き、後藤の首を切り裂きに掛かった。ガシャンと軽い音が鳴った。

 浅尾の動きが止まる。コンバットナイフは後藤の左首筋に当たる寸前で止まっていた。浅尾の右手首を後藤は掴んでいた。後藤の動きも、菱形には見えなかった。

「事前資料から想像はしていましたが、現実はやはり驚きますね」

 驚いたと言った浅尾の表情は全く変わらず、後藤の表情も能面のままだった。

「試した事をお許しください」

 瞬きの間に、危うい茶番劇が終わっていた。菱形は止まっていた息を深く吐いた。

 後藤は手を離した。

「特務陸佐からあなたがアクティブになった際の対応は一任されています」

 浅尾はナイフをくるりと廻すと、腰にあったホルダに戻した。

「相手は佐村だけではなく傭兵との戦闘も予想される、命を落とす可能性が高い作戦です。その覚悟はありますか? 」

 菱形が口を挟もうと身を乗り出そうとした時、後藤がそれを制した。

「その可能性が高いのは皆さんの方です。僕は死にません」

 小さな声だがはっきりとした言葉だった。菱形は驚いた顔になり、浅尾はふっと笑った。

「否定できないですね。了解しました。同行を許可します」

「後藤君を連れて行くなら俺も連れて行け」

 菱形の問いに浅尾は首を振った。

「今の菱形警部では足手まといになります。それに菱形警部の申し出は全て拒否せよと、宮島特務陸佐から命令されています」

 菱形は、ふんと鼻を鳴らした。

「どこまでもイラつく女だな、何様のつもりだ」

「我々は現在、建前上自衛隊法における緊急の警護活動として行動しています。それがどれほど危うい状況なのか、警部なら理解して頂けるはずです。だがこの事態の収束後、その場に現職警官が臨場している事が公になれば無用な政治的混乱が発生しかねない」

「後藤君はどうなる? 彼は民間人だぞ」

「彼は不幸にもその場に居合わせた民間人です」

「そんな詭弁が通ると思っているのか! 」

 菱形が声を荒げた時、後藤が静かに言った。

「警部、アクティブになった以上覚悟はできています」

 菱形は改めて後藤を見たが、後藤の表情は能面のように変わらなかった。

「……君が死ぬだけじゃない、敵と命のやりとりをするかもしれないんだぞ。その覚悟なのか? 」

 後藤は何のてらいもなく頷いた。

「無用な気遣いです。僕はもう何人も殺めてきています。それが僕の手で行わていなくても、僕の中では同じです」

 突き放すような感情のない冷たい言葉だった。

 菱形は深い溜息を吐き、己の無力さに憤ることすらできなかった。菱形は手を後ろに廻すと腰裏のベルトに装着されていた手錠を掴み、後藤に差し出した。

「君を守ると言ってこの体たらくの赤っ恥だ。だが恥じの上塗り次いでに頼みがある。これで佐村を縛ってきてくれ」

 後藤は菱形から手錠を受け取った。手錠は思った以上に重たく冷たかった。

「分かりました。必ず佐村を、小野寺葵を生きて連れ帰ります」

 ふたりは見つめあった。

 菱形は後藤の冷たい目の中に、もうひとりの人格を見た気がした。それは、後藤本人そのものだと菱形は信じた。

     ◇

 ローターの重低音がキャビンの中に反響している。急揃えではあったが、予備のコンバットシューズとタクティカルベスト、ヘルメットで装備を固め、アカツキ隊の一員となった後藤が浅尾の隣に座った。既にキャビンの中の対面式の椅子には隊員たちが座っていた。他の隊員は短機関銃を持ち、ベストに拳銃を装着していたいが、後藤はそれが無かった。

「失礼」

 浅尾が後藤のヘルメット後部に手をやり、隠しボタンを押した。バイザーの内側が光り英数字が上から下にスクロールして消えた。バイザー越しに薄暗かった機内が鮮明に見える。

「ハーネスを装着してください」

 浅尾の声がインカムを通じて聞こえる。言われるがまま、後藤は背もたれにある4点式ハーネスを担ぐように肩を通し、腹の前でアタッチメントを閉めた。

「到着までに5分を予定していますが、この天候です。乱気流で機体が相当揺れるので気を付けて」

 後藤は頷いた。

「浅尾よりパイロットへ。キャビン良し」

 重低音のピッチが短くなり高音域に周波数が移っていく。それに伴い後藤の体は浮遊感を感じた。オスプレイはその重たい機体が地面から離れると、エンジン出力を最大に上げ、一気に上昇していった。駐車場の奥に移動していた簡易テントの所にまでオスプレイが巻き起こした乱気流が届く。菱形はテントの前に立ち、雨と小石交じりのその暴風を受けながら、暗闇の嵐に消えていくオスプレイを最後まで見ていた。

     ◇

 浅尾の言葉どおり、水平飛行に移ったオスプレイは何度もエアポケットに入り、乱高下を繰り返した。後藤を含めキャビンの中の隊員たちは全く動じず、椅子に張り付けられた置物の様に座っていた。

 その時、後藤は右手を軽く叩かれた。浅尾が、黒いラバーで包まれた筒状のモノを差し出していた。

「幾ら何でも武器なしでは戦えないでしょう。佐村が使っていたナイフと同じ素材で製造した特殊警棒です。理論上は佐村の刃物による斬撃でも切断されません。あくまでも理屈の上ですが」

 そう言うと浅尾はスナップを効かして警棒を振った。筒から一瞬で銀色に光るシャフトが伸びる。浅尾は握りを変えてグリップエンドにあるボタンを押しながら、伸びきったシャフトの先端を床に押し込んだ。警棒は再び元の長さに戻る。後藤は警棒を受け取った。手錠の時と同じく、見た目以上にズシリと重さを感じる。

「ありがとうございます」

 後藤は小さく頭を下げ、本来ならベストの拳銃が収まるスペースにそれを収納した。

「現地に着いてからの行動をバイザーに投影します。目のピント合わせは自動にしますから、無理に焦点を合わせないでください」

 後藤は頷いた。

 バイザーの真ん中に『接続』と映った後、後藤の膝の上に、精工な立体地形ジオラマが出現した。後藤は説明を受けなくても、それは自分が拉致され監禁される予定だった場所、あの佐村が潜んでいる場所だと分かった。それと同時に画面の右上に建物の平面図が展開していた。屋上を除く、地上5階、地下1階建ての建物。建物はH型で離れた2棟の建物が、渡り廊下で繋がっていた。

「我々の目標はここです」

 赤い点が、急峻な山を背景にした一棟の建物の形に当てられる。「人特研跡地、です。本来は2棟ありましたが、北関東震災時に1棟は崩壊。現在はこの『A棟』のみ存在しています。そして今は佐村を支援する勢力によって要塞化していると思われます」

 次の赤い点は建物の前にある、平坦な空間に移動した。その広場とも思える場所の先は断崖絶壁だった。その絶壁がぐるりと広場を囲っている。

 ジオラマ映像が縮小し、代わってバイザー内に別ウィンドウが現れた。

「撃墜されたオスプレイから送られてきた映像です」

 モノクロ映像が不意に始まった。時折画面全体が歪むほどのノイズの中、白い火花を散らしている建物に、容赦ない火線が叩き込まれていく。突然その火線が途絶え、カメラは建物から離れていった。その時、建物の屋上で何かが白く光った。次の瞬間映像は激しく揺れ消えた。

「制圧射撃をしていたオスプレイは建物より狙撃され墜落。広場に着陸していたもう1機は、恐らく建物より攻撃を受け沈黙したと思われます」

 画像は消え、再びジオラマが大きく映し出された。

「建物周辺への着陸が困難であるため、我々は人特研の対岸にあるこのラペリング可能な場所で降下。唯一の進入路であるこの橋を渡り、現場に向かいます」

 赤い点が、アーチ橋に移動した。対岸のアーチ橋と橋の合流地点には、谷にせり出したような平坦な空間があった。おそらく駐車場が何かだろう。赤い点はこの場所でクルクルと廻っていた。

「状況によっては本隊を2班に分けます。救護者が居た場合の救助部隊と、アジトへの制圧部隊ですが、救護者が見込み薄の場合、本隊は初期の目標完遂に全力を尽くします。後藤さんにも、アジトへの制圧部隊に参加してもらいたい」

 後藤は頷いた。

「宮島さんとの連絡は? 」

 浅尾は頭を横に振った。

「通信障害のため、未だ交信できていません」

 そうですか、と後藤は呟いた。

「確かめたい事があります」

「何か? 」

「宮島さんの命令は、佐村の殺害ですか? 」

「佐村を支援する対象勢力は排除します。佐村本人の取り扱いは『絶対捕獲』の命が下っています。これを見てください」

 ジオラマが消えた。浅尾は腰のポーチから弾倉を引き抜き、弾丸を1発取り出した。弾倉には白いテープが2か所に巻かれていた。

「佐村と遭遇した場合、我々はこの弾倉に変更して対処します。そしてこれは対佐村用に開発した弾丸です。弾頭部分はゴムで出来ていて発射直後に複数に割れ、散弾になります。発射速度も抑えていて被弾しても致命傷にはなりません。驚異的な速度で動く佐村には一発必中は通用しない。非殺傷弾を広範囲にバラまいて佐村の足を止めます」

 見せられた弾丸の先は、尖っても丸くも無く平らで黒かった。

「そしてこれがあります」

 浅尾は弾丸を弾倉に戻し、ポーチに差し込むと、次にベストの胸ポケットから、手の平に収まる直径2センチのパイプを取り出した。

「佐村を昏睡状態にする強力な麻酔薬です。奴の動きを止めた後、これを打ち込み確保する」

 後藤は、そのパイプが、かつて自分が使用した麻酔薬を打ち込むパイプ注射だと分かった。

 オスプレイがまた体が浮くほど、急激に降下した。床を何かの備品が音を立てながら転がっていく。

 遊園地の絶叫系アトラクションにも絶対に乗らない後藤だったが、激しく上下動を繰り返す機体の不規則な動きに、恐怖も狼狽も全く感じず落ち着いて座っていた。後藤は今更ながら自分の身に起きている事に驚いていた。そしてその驚きすら、他人事の様に冷静に見ている自分が居る。

 後藤の意識は、例えるなら台風の目の中に居るようだった。目の前は猛烈な暴風雨が壁になって自分を囲んでいる。この暴風雨の中に入れば、全てを超越する万能な力が体に漲り、暴力と破壊、殺戮の衝動と快楽に心身は支配される。

 暴風雨は、アクティブになったタカチホブラッドによって解放された『ヒト』の獣性だ。肉体の限界を超える圧倒的な力で、獲物を狩る本能の赴くままに、快楽を伴いながら獲物を蹂躙し、屠る。肉を裂き、骨を砕き、血飛沫に笑い、臓物臭を嗅いで悦に浸る。

 後藤は、それを佐村と一部繋がる事で経験していた。

 だが、自分が立っている場所は全くの無風で音すら聞こえてこない静寂な場所だ。ほんの一歩前は暴風。そのギリギリの境界で、後藤はじっと壁を見ている。

 恐ろしいほど集中している自分が居た。

 まだだ。まだこの中に入るのは早い。そう自分に言い聞かせていた。その台風の目の中ではゆっくりと時間が流れている。オスプレイのキャビンに流れている外の時間軸とは、全く違う時間の流れを感じる。タカチホブラッドがアクティブになると、時間の流れが極端に遅くなる。それと同時に起こる全身を走る激痛と心拍の急激な上昇は、今は無い。

 これは全て、月岡の『仕掛け』のお陰だ。

 無意識に浅尾から貰った警棒を右手で握り、左手の掌に警棒に内蔵されているシャフトの先端を押し当てた。熱伝導率の高い素材で作られたシャフトは、すっと後藤の体温を吸い取り、氷の様な冷たさが後藤に伝わる。その冷たさは、掌を通じ脳幹の奥にまで届いた。

 後藤の中で、数日前に交わした月岡の言葉が正確に再生された。

     ◆

「『TB因子』を持つ糖鎖が円環状になって活性状態になった時、血液だけではなく体全体の細胞にある糖鎖も変化している可能性が高い事が、最初にアクティブになった少女から得られたデータで判明している。だが彼女が君と同じような心拍数や血圧の急激な上昇が起きたのは瀕死の状態から蘇生し始めた時だけだ。その後の彼女の心拍や血圧は緩やかに元に戻っている。」


「じゃあ何故心臓があれほどまでに急激な動きをするのか。当時僕が注目した論文があった。それは『細胞の固有振動数シンクロ説』だ。人体を形成している細胞にはそれぞれ固有振動がある。そして不思議な事に身体の部位、例えば脚や手、胃や腸の内臓、脳や勿論心臓もそうだけど、その各部位の細胞の固有振動数は全く異なっている。だがアクティブになるとその固有振動が全て同じ振動数になっている可能性が高いと、その論文にはあった。サンプル数が最初の少女と佐村しかいないから確実にそうなるとは断言できないけど、僕はこれがアクティブ時の超人的な動きを可能にしていると確信している。つまり身体中の全細胞がシンクロし、個々の細胞にあるミトコンドリアから発生するエネルギーを全て同時利用できる状態になる。それが超常の力の正体だ」


「いわば並列で接続していた乾電池をすべて直列接続にする。細胞で発生しているエネルギーなんて微々たるものだけど、人体には60兆を超える細胞があるんだ。演算機能の脳細胞や視聴覚細胞、筋肉細胞の全てのエネルギーがフルパワーを発揮し、タイムラグなしに全てシンクロする。そこから発生する現象は想像もつかないよ」


「それを可能にするにはもうひとつ条件がある。活性化したタカチホブラッド、TBを身体全身の全細胞に隈なくほぼ同時に送り込む事。いわばTBは固有振動数がシンクロした全細胞を繋ぐネットワークの役割を果たしている。おそらく最初に赤血球のTB因子が活性化し、それを全身に送り込むことで全細胞のTB因子が反応して活性化していると僕は考える。だから血圧と心拍数を驚異的に上昇させる必要があった。それがあの急激な心臓の動きだ。逆説的な言い方をすれば、アクティブ時に驚異的な行動をしている時は心拍数と血圧の上昇が起こっている筈だ。が、そこで謎が残る。君は身体の急激な変化に対応できず、身体が悲鳴を上げて行動不能になる。だけど佐村はあれだけの凶行を行っていながら、そうはなっていない。だとすれば導き出せる仮説がある」


「佐村は意識的にTB因子を活性化させ、心臓の動きと、全身を襲う痛覚をコントロールし、アクティブを意のままに操っている。もちろん佐村を実際に観察していないから全て仮定の話になるけど、それは先天的な体質かもしれないし、『ラボ』での実験中に得たものかもしれない。でもそう考えれば、君と佐村の差異が発生する疑問は無くなる。更に言えば凶行を行う時だけ意識的に心臓を極限まで動かし、アクティブになったTBを全身に送り込む。そんな術を佐村は身に着けていると僕は推測している」


「だがそうであったとしても、佐村は大きな代償を払っていると思う。それが僕のもうひとつの推測だ。その代償は肉体的限界の低下、簡単に言えば、命を削っている。考えてみれば単純だ。コントロールし、使う場面を限定しているとは言えあれだけ超人的な動きをすれば、全細胞が疲弊するのは当たり前だ。それに痛覚すらコントロールしているとすれば、身体に負担が掛かっていない訳がない。恐らく、TBの再生力を上回る消耗と疲弊が蓄積されていった筈だ。昔佐村が警察に捕まった時、既に佐村の肉体は限界に達していたのだと思う」


「そう考えると、ボロボロに消耗しきった自分の身体を捨て、消耗するであろう小野寺葵の身体を捨て、君に乗り換える。そこに、次に君を狙う必然性が出てくる。宮島さんは『科学的確証は無いけど』と言ったけど、あれは嘘だよ。その確証があるから、宮島さんは確信した」


「君と佐村の違い、佐村がアクティブ状態を続けられる理由、そして佐村が君を狙う訳、全て筋が通る合理的な説明はこれしかない」

 その時、月岡は両手を勢いよく合わせ、パチンと大きな音を立てた。

「そしてここが肝心だけど、それが佐村の唯一の弱点だ」

 後藤は、目を閉じたまま頷く。

 自分もその状態になって、初めて分かる。

 活性化したタカチホブラッドは、認識される絶対的時空間を歪め、異次元空間を創り出す。そして、その異次元空間を自由に動ける超人的な力を、肉体と脳に与える。

 だが、その活動時間は限定的だ。

 活性化していても、それを認識し、極力『力』を使わない状態を維持していれば身体的な負担は恐らく軽微だ。いわばエンジンを掛けたままでアイドリングをしている状態だ。

 アクセルを目一杯踏み込み、心臓と言うエンジンをフル稼働させる。だが得られるパワーに比例して身体的負担は等比級数的に増大し、エネルギーは大量に消費され、いずれは枯渇する。

 当然佐村もそれを知っていて、あの超人的な力を瞬間瞬間刹那に発揮させる事で身体の消耗とエネルギー消費を抑え、限定されている活動時間を上手く配分している。

 それを知っていれば、自分であっても対応できる。

「万が一、君と佐村が戦った場合、どうなるかは正直分からない。だけど僕は、それほど心配をしていない。その時、君もアクティブになっているだろうから、条件は一緒だ。だから僕は君にある仕掛けを施す。なんせ人外との戦いだ。こっちも人外の技で対抗する。上手く作動するかは賭けだし、保証は出来ないけど、僕はそれでもやるよ。あとは後藤君、君次第だ」

 ――月岡先生、先生の賭けは勝ちましたよ。

 ――あとは、そうです。僕次第ですね。

 後藤の唇の端が、少し上がった。

     ◇

「目標まであと1分」

 無線から声が聞こえた。

 考えるには、充分なほどに時間はある。後藤は目を閉じた。

 奇襲が失敗した今、佐村達は防備を固めて待ち構えている。地の利も相手にはある。その状況で、自分に何が出来る? 佐村ならどう動く?

 後藤は、さっき見た人特研跡地の立体地形図を、脳内に再現した。視点を移動させ、任意の場所を拡大し、3次元に動かす。

 浅尾の説明の通り、戦術的にオスプレイが着陸する敷地はない。建物前の広場に着陸しようものなら建物からの攻撃は目に見えている。時間が掛かるが、谷を越えた対岸の開けた場所で、戦力を展開するのが常套手段だろう。だから……

 息を静かに吐き、意識を更に落とし込む。交錯する光が、素早い速さで人特研跡地の立体図形をスキャンしていく。

 建物、敷地、山々、アーチ橋、そして切り立った谷。

 赤い点と青い点が、競い合うようにその合間を縫って行く。時にぶつかり、反発してお互いに遠い所に飛んでいく。その動きはどんどん早くなっていって、立体図形が光の筋で覆いつくされた。そして最後にたった1本の太い光の筋だけが浮かび上がった。

 後藤は目を開け、浅尾の肩に手を置く。浅尾は振り向いた。

「浅尾さん、相談があります」

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