第42話 テスト当日④
「美味しい・・・・・・」
運ばれてきたショートケーキを一口食べると俺はそう呟いた。
「ですよね。良かったです」
嬉しそうに微笑んだ峰本さんもショートケーキを上品に口に運んだ。
その顔はさらに幸せそうにへにゃと笑った。
「それで、峰本さんのテストの自信はどうなの?百点は取れそう?」
俺がそう聞くと、峰本さんはニヤッと笑った。その顔は自信ありと物語っていた。
「何回も確認しましてけど、おそらくは満点かと」
「さすがだね。それに、何回も確認できたんだ。俺は一回しかできなかったよ。それも後半の部分だけ」
「もちろん、私だってミスをすることくらいはありますから。確実、とは言えないですけどね」
そう言って峰本さんはショートケーキを口に運んだ。
「そうだね。ミスする時は誰だってあるもんね」
「そういうことです」
「はぁ〜。後は結果を待つだけか〜。やることは全部やったから百点が取れてなくても後悔はないかな」
「そう思えるのは素晴らしいことです。大丈夫ですよ。木村さんがたくさん勉強していたのを私は知ってますから」
「本当に五日間ありがとうございました」
俺は敬意を込めて峰本さんに頭をさげた。
「こちろこそ楽しい五日間でした」
峰本さんも俺に向かって丁寧に頭を下げた。
「もしまた困ったら言ってください。いつでも教えますから」
「うん。ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ」
「ちょっとお手洗いに行ってきますね」と立ち上がった峰本さんの背中を見送ると俺は会計を先に済ませにレジに向かった。
「すみません。会計をお願いします」
「峰本様のお連れさまですね」
峰本様・・・・・・?
「はい。そう、です」
「お会計は峰本様から先にいただいております」
「え・・・・・・」
ニコッと微笑んだ店員さんを見て俺は固まった。
まさか、考えていることが同じとは思ってもいなかった。テスト勉強を手伝ってくれたお礼にお金を先に払おうと思っていたのに、先に峰本さんに払われているとは思ってもいなかった。
「ですので、お会計は大丈夫ですよ」
そう言われ、もう一度微笑まれた俺は「そ、そうですか」と席に戻った。
それからすぐに峰本さんは戻ってきた。
「お待たせしました」
「あ、うん・・・・・・」
さっきのことがあったら思わず顔を引き攣らせてしまった。
「どうかしましたか?」
「お金・・・・・・払ってくれたの?」
「はい。先に払っておきました。それがどうかしましたか?」
「俺が払いたかったのに・・・・・・」
「いいんですよそんなこと気になさらなくて。今日は私がお誘いしたんですから」
「でも、勉強教えてもらったお礼、全然できてないのに」
「それは、木村さんの手料理で十分に返してもらってます。なので、本当にお気になさらないでください」
そう言って峰本さんは微笑んだ。
「でも・・・・・・」
「なら、木村さんが百点を取れていたら、そのお礼はしてくださいな。私はそのために勉強を教えたんですから。木村さんが百点を取れてないのにお礼をされるのは、私としてもそのお礼は受け取れません」
真剣な目つきでそう言われてしまっては、俺としては「うん」と頷くほかなかった。
残っていたショートケーキとココアを完食すると俺たちはカフェを後にした。
☆☆☆
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