第37話 テスト期間1日目⑤

 綾崎先生の分の親子丼を用意してリビングに向かうと、美人二人が楽しそうに話をしていた。


「ご飯できましたよ」

「は~い。ねぇ、こっちで食べてもいい?」


 移動するのが面倒なのか、それとも峰本さんと話すことを優先したいのか、綾崎先生はソファーでご飯を食べたいと言い出した。

 特に問題はないので俺は頷いた。


「うわぁ~。美味しそう~」


 俺から親子丼を受け取った綾崎先生は「いただきます」を言うと、さっそく親子丼を食べ始めた。

 勉強をしている途中で綾崎先生が来たのでサイドテーブルには教材が開きっぱなしだった。その出しっぱなしになった教材の前に座った。


「テスト勉強は順調そう?」


 俺の作った親子丼を食べて満足気な顔をしている綾崎先生が聞いてきた。


「まぁ、ぼちぼちですかね」

「百点は取れそう?」

「どんな問題が出るか教えてもらったりは……」

「無理に決まてるでしょ?」

「ですよね~」

「でも安心して。ちゃんとテスト範囲からしか出さないから。そこをしっかりと勉強してたら百点は取れるかもね~」

「もうテストは作ったんですか?」

「一応、一通りは作ったわよ~」


 余裕たっぷりな笑みを浮かべて親子丼を口に運んだ。

 綾崎先生のその顔を見て、もっと勉強しないといけなそうだなと思った。

 峰本先生にもっとビシバシと教えてもらわないと……。


「そうそう。由美ちゃんは学年一位なんだってね。さっき聞いて驚いたわよ」

「そうですね。峰本さんなら綾崎先生のテストで百点取れるかもですね」

「かもしれないわね。もちろん誰にも取らせるつもりはないけどね」

「そこまで言われると百点取りたくなりますね」

 

 綾崎先生と峰本さんが向かい合って視線をバチバチと飛ばしあっていた。しかし、その顔は笑顔である。勝負を楽しむライバルの顔をしていた。


「由美ちゃんが百点取ったら、由美ちゃんの言うこともなんでも一つ聞いてあげる。木村君ともその条件で勝負することになってるからね~」

「そんな約束をしてたんですか?」


 峰本さんが驚いた顔で俺のことを見た。

 

「あら、知らなかったの?」

「はい。初耳です」

「木村君たら、大事なところは隠してたのね」


 綾崎先生はジト目を向けてきた。

 そんな目を向けられても、あんなこと言えるわけないだろ。

 

「まぁいいわ。せいぜいテスト勉強頑張ってね。じゃないと私に何やらされるか分かんないわよ?」

「どういう意味ですか?」

「あら、これも聞いてないのね」

「はい」

「もしも、木村君が百点を取れなかったら、私の言うことを何でも一つ聞いてもらうことになってるのよ。もちろん常識の範囲内でね」

 

 そう言った綾崎先生は「ねっ」と俺にウインクをしてきた。


「そ、そうですね」

「もしも、私が百点を取って木村君が取れなかったら、その約束は無しにしてもらえますか?」

「そうね~。いいわよ。二人のうちどっちがが百点を取ったら二人の勝ちにしてあげる。その時は私が二人の言うことを聞いてあげるわ」

「随分と余裕ですね」

「そのくらいのハンデがあってもいいでしょ?」

「まぁ、俺としては助かりますけど」

「由美ちゃんもそれでいい?」

「はい。私はなんでもかまいません。百点を取りますから」


 峰本さんも峰本さんで凄い自信がありそうな感じだった。

 

「いいわね。楽しみにしてるわ。じゃあ、私は帰ろうかしらね。由美ちゃんもあんまり遅くまでいちゃダメよ?」

「はい。私もこの本を読み終わったら帰ります」

「じゃあ、また明日ね」


 いつの間にか親子丼を完食していた綾崎先生は俺たちに手を振ると帰って行った。


「負けられませんね」

「そうだな」

「明日からもっとビシバシといきますからね?」

「お願いします」

「でも今日はこの本を読ませてください」


 峰本さんは少し恥ずかしそうに言った。


「ほんとに本が好きだね。どうぞ」

「ありがとうございます」

  

 その後、一時間くらい俺は勉強を、峰本さんは読書をして、その日は解散となった。

 

☆☆☆

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