第36話 テスト期間1日目④
親子丼を食べ終えて、俺がお皿を洗っている間、峰本さんはソファーにちょこんと座って本の続きを読んでいた。
すでに集中モードらしく、水の音すら聞こえてはいないだろう。
お皿を洗い終え、食器乾燥機の中に入れると俺はサイドテーブルで勉強の続きをすることにした。
さっき峰本さんに教えてもらったことを復習する。
似たような問題をいくつか解くことにした。解き方がしっかりと頭に入っているからだろうか、難なく全問正解することができた。
「先生にでもなればいいのに……」
俺は峰本さんのことを見た。
こんな美人な美人な先生がいたら毎時間質問に行くだろうな。
そこで家の呼び鈴が鳴った。
この時間に来るのは……。
「綾崎さんか……」
俺は時計をチラッと見て玄関に向かった。
時計の針は二十時を指そうとしていた。
玄関の扉を開けると予想通り仕事帰りの綾崎先生がいつものごとく手にスーパーの袋を持って立っていた。
俺の学校の美人教師である。
休み時間に綾崎先生のもとに質問に行く生徒が後を絶たないというのは最近有名な話だった。
「お疲れ様です」
「お疲れさま。上がってもいい?」
「今日はちょっと……」
「なんでよ?」
「来客がいるので……」
「まさか!?彼女!?」
綾崎先生は目を見開らくと凄い剣幕になって、俺を押しのけ家の中に入ろうとした。
「誰がいるの!私に断りもなく!」
「なんで綾崎さんに断りがいるんですか。ここは俺の家なんですけど!?」
「とにかく、中に入れなさい!由美ちゃん以外の女だったら許さないからね!」
「峰本さんだったらいいんですか?」
「由美ちゃんとは約束したからいいの!?でも、それ以外だったら、ころ……」
「何を言おうとしてんですか!?あーもう。家にいるのはその峰本さんです。一緒にテスト勉強をしてただけですから!」
俺がそう言うと、さっきまで凄い剣幕だった綾崎先生はいつもの顔に戻った。
「なんだ、それならそうと早く言いなさいよ」
「綾崎さんが話を聞く前に入ろうとするからでしょ」
「そうだったかしら?まぁいいわ。由美ちゃんがいるなら私も上げてよ」
「はぁ~。分かりましたよ。でも、峰本さんは今読書中ですから静かにしてあげてくださいね。それと、その手に持っているお酒を飲むのは禁止です」
「え~。なんでよ~」と綾崎先生は唇を尖らせて不満顔。
「とにかく、絶対にダメですからね」
綾崎先生が寄ったら絶対に面倒なことになる。
それだけは確信して言える。
「分かったわよ。じゃあ、このお酒は木村君の家の冷蔵庫で冷やしておいてまた今度飲むことにするわ」
「なんで俺の家で飲むことが前提なのか分からないですけど、お酒を飲むのは禁止ですからね」
「は~い」
素直に頷いた綾崎先生は玄関先で靴を脱ぐとリビングに向かった。
「うわ~。なんだかいい匂いがするわね」
「さっきまで夕飯を食べてましたからね」
「木村君の手作り?私も食べたい!」
「分かりました。用意するので椅子にでも座って待っててください」
「ありがと!」
綾崎先生は峰本さんのことを見つけ、ソファーに向かった。
やはりその集中力は凄い。
峰本さんは綾崎先生が隣に座っても本から顔を上げることはなかった。
☆☆☆
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