第35話 テスト期間1日目③

 サッと親子丼を作り終え、リビングに戻るとソファーに座っている峰本さんは真剣に本を読んでいた。

 俺が隣に座っても気が付く様子はなかった。

(凄い集中力だな……)

 その真剣に本を読んでいる美しい横顔を思わず見つめてしまう。

 今はトレードマークの黒縁メガネも外していて、おさげの髪の毛も解いていて完全にオフモードだ。

 その美しさはまさに『聖女様』と呼ばれるのに相応しい容姿だった。

 ずっと見つめていたいほどに美しいがご飯が冷めてしまうので声をかけることにした。


「峰元さん、ご飯できたよ」

「あ、木村さん……私、本に夢中になってました…… 

「みたいだね。面白かった?」

「はい。初めて読みましたけど面白かったです」

 

 そう言った峰本さんは手に持っていた本をチラチラと見ていた。

(続きが気になるんだろうな)

 面白い本に出会うと時間も忘れて読みたくなるその気持ち分かるな。 


「続きが気になるんだ?」

「……はい」

「でも、その前にご飯食べちゃわない?読み終わるまで家にいてもいいからさ」


 俺がそう言うと少し驚いた顔をしてたが「分かりました」と頷いて手に持っていた本をサイドテーブルに置いてダイニングテーブルの方に移動した。

 峰本さんと向かい合って椅子に座る。


「親子丼ですか?」

「うん。お口に合う分からないけど……」

「大丈夫です。大好きなので!きっとお口に合います!」

「ならよかった」


 一緒にいただきますをして峰本さんが親子丼を食べるのを緊張しながら待った。

 峰本さんはスプーンで親子丼をすくうと一口食べた。

 見る見るうちに峰本さんの顔が綻んでいった。それを見て俺は安堵を浮かべた。


「美味しいです!」

「ありがとう」

「親子丼久しぶりに食べましたけど、美味しいですね。しかも私の好きな味付けです!」

 

 そう言って峰本さんはもう一度親子丼を口に運んだ。

 峰本さんにべた褒めされた俺は恥ずかしくなって、峰本さんから顔を逸らし親子丼を一口食べた。

 

「うん。美味しい……」


 庶民的な味付けだったが、どうやらお嬢様の口にも合ったでよかった。

 峰本さんはよほど俺が作った親子丼を気に入ってくれたのかお代わりまでしてくれた。


☆☆☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る