第32話 甘えモードの綾崎先生③

「綾崎さん・・・・・・寝てる」

 

 俺の胸に顔をつけたのと同時に綾崎先生は眠りについてしまった。


「まったく、なんなんだこの人・・・・・・自由人かよ」


 人の心を掻き乱すっだけ見出しといて、自分は気持ち良さように爆睡している綾崎先生を見て俺はそう呟いた。

 

☆☆☆


 そして俺は綾崎先生を起こさないように、一旦床に寝かせた。

 体が自由になった俺は今度は綾崎先生を抱き上げて寝室のベッドまで移動させた。 

 

「ほんと、お酒を飲むと子供のようになるんだから・・・・・・」


 これまで何度か綾崎先生が俺の家に上がり込んできてお酒を勝手に呑み始めたことがあるが、最後にはいつも俺がベッドに運ぶというのがお決まりとなりつつあった。


「寝ていると大人しいんだけどな。当たり前だけど」


 頬をほんのりと赤くして気持ち良さそうに眠っている綾崎先生に「おやすみなさい」というと俺はリビングに戻った。

 綾崎先生が飲み食いした後を綺麗に片付けてソファーに横たわる。

 そのまま目を閉じて、俺はゆっくりと夢の中へと入っていった。


☆☆☆


(美紀視点)


 目を覚ますと私はまた正輝君のベッドの上で眠っていた。

 カーテンの隙間から陽の光が差し込んできているところを見ると、どうやら今は朝らしい。


「またやってしまった・・・・・・」


 何度目かの正輝君の家での起床に私は枕に顔を埋めた。


「木村君の匂い・・・・・・って、匂いを嗅いでる場合か!?」


 昨日の夜の記憶はなんとなく残っている。

 私はなんてことを言ってしまったんだろうか。あんなことを言うつもりはなかったのに、酔っていたせいもあるだろうが、口に出したらもう止まらなくなっていた。

 

「好き、だなんて・・・・・・何考えてんだろう私・・・・・・」


 正輝君のことを好きか嫌いかで問われたら間違いなく好きなんだと思う。

 

「はぁ〜。絶対に幻滅されたわよね・・・・・・」


 教師に、しかも十以上も歳の離れたおばさんに好きなんて言われても迷惑なだけよね。


「ちゃんと謝ろう」

  

 そう思ってリビングに向かうと正輝はすでに起きていて、朝食を作ってくれていた。


「おはようございます」

「お、おはよう。き、木村君・・・・・・昨日はごめんなさい」

「昨日・・・・・・ああ、覚えてるんですか?」


 正輝君は昨日の出来事を思い出したのか苦笑いを浮かべていた。

 

「本当にごめんね。昨日言ったことは忘れてくれていいから」

「忘れられると思いますか?」

「そ、それは・・・・・・」


 私が言葉に詰まると正輝君はニヤッと笑った。


「冗談ですよ。ほら、朝ごはん食べましょう。ちゃんと忘れますから、安心してください」


 そう言いながら、テーブルの上に朝食を並べていく正輝君。

 そこでようやく私はからかわれたことに気がついた。


「もしかして、私今からかわれた?」

「今気がついたんですか?」

「もぅ!木村君がそのつもりなら、私だって容赦しないからね!」

 

 私がそう言うと木村君は「ほどほどにお願いします。昨日のは刺激が強すぎたので」と照れ臭そうに笑っていた。

(やっぱり、私は正輝のことが好きなんだな)

 その笑顔を見て私はそう思った。


☆☆☆

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